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第12話 出せない方針
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第12話 出せない方針
王都の一角、
とある貴族の屋敷の応接間で、
数人の男たちが顔を揃えていた。
いずれも、
これまでリベルタス第二王子を推してきた、
いわば「少数派」と呼ばれる貴族たちである。
「……アルファルド派は、
いまだに明確な支持表明をしていないな」
一人が、
苛立ちを隠さずに言った。
「この状況で沈黙とは……
第一王子を切った以上、
次はリベルタス殿下を推すのが自然だろうに」
別の男が、
腕を組んだまま首を振る。
「いや。
それが“自然ではない”のだ」
「どういう意味だ?」
「アルファルド派は、
大派閥だ。
我々のように、
一直線に動ける立場ではない」
室内に、
短い沈黙が落ちる。
「……確かに」
誰かが、
低く呟いた。
アルファルド派は、
王国最大の派閥であるがゆえに、
その内部には、
微妙に異なる利害や立場が存在する。
「リベルタス殿下を推してきた我々は、
数としては少数派だ」
「だが、
アルファルド派にとっては、
無視できない存在でもある」
「ここで、
あからさまにリベルタス殿下支持を打ち出せば、
我々を切り捨てる形になる」
それは、
派閥の“分断”を意味する。
「……だから、
あえて何も言わない、か」
「ええ」
頷きが返る。
「アルファルド派は、
“誰を推すか”よりも、
“揺れないこと”を選んだのだろう」
別の貴族が、
苦々しく笑った。
「大派閥らしい、
実に大派閥らしい判断だ」
だがその判断は、
結果として、
派閥内の結束を保つことにつながっていた。
一方、
その頃のアセルス・アウストラリスは、
そんな水面下の事情を、
知る由もなかった。
「……まだ、
どこも動かないな」
彼は、
王宮の回廊を歩きながら、
独り言のように呟く。
(ほら見ろ。
誰も、
次を決めきれていない)
それは、
彼にとって“希望”だった。
派閥が方針を出せないという事実を、
「自分が切り捨てられていない証拠」
として、
都合よく解釈していたのだ。
(皆、
様子を見ているだけだ)
(私が第一王子である以上、
結局は――)
そこまで考えて、
彼は思考を止めた。
結論を出すのが、
怖かったからだ。
その同じ日、
アルファルド公爵邸では、
何の会議も開かれていなかった。
慌ただしく動く使用人たち。
出入りする馬車。
そして、
サロンで紅茶を飲むシャウラ。
「……今日は、
少し静かですわね」
昨日までの忙しさが、
嘘のようだった。
だがそれは、
嵐が去った後の静けさではない。
――最初から、
揺れていなかったからこそ生まれた、
当然の静けさだった。
方針を出さない。
決断を急がない。
それは、
迷っているからではない。
すでに、
結論が出ているからだった。
その事実を、
理解していない者は、
まだ多い。
だが、
最も理解していないのは――
他でもない、
アセルス・アウストラリス本人だった。
王都の一角、
とある貴族の屋敷の応接間で、
数人の男たちが顔を揃えていた。
いずれも、
これまでリベルタス第二王子を推してきた、
いわば「少数派」と呼ばれる貴族たちである。
「……アルファルド派は、
いまだに明確な支持表明をしていないな」
一人が、
苛立ちを隠さずに言った。
「この状況で沈黙とは……
第一王子を切った以上、
次はリベルタス殿下を推すのが自然だろうに」
別の男が、
腕を組んだまま首を振る。
「いや。
それが“自然ではない”のだ」
「どういう意味だ?」
「アルファルド派は、
大派閥だ。
我々のように、
一直線に動ける立場ではない」
室内に、
短い沈黙が落ちる。
「……確かに」
誰かが、
低く呟いた。
アルファルド派は、
王国最大の派閥であるがゆえに、
その内部には、
微妙に異なる利害や立場が存在する。
「リベルタス殿下を推してきた我々は、
数としては少数派だ」
「だが、
アルファルド派にとっては、
無視できない存在でもある」
「ここで、
あからさまにリベルタス殿下支持を打ち出せば、
我々を切り捨てる形になる」
それは、
派閥の“分断”を意味する。
「……だから、
あえて何も言わない、か」
「ええ」
頷きが返る。
「アルファルド派は、
“誰を推すか”よりも、
“揺れないこと”を選んだのだろう」
別の貴族が、
苦々しく笑った。
「大派閥らしい、
実に大派閥らしい判断だ」
だがその判断は、
結果として、
派閥内の結束を保つことにつながっていた。
一方、
その頃のアセルス・アウストラリスは、
そんな水面下の事情を、
知る由もなかった。
「……まだ、
どこも動かないな」
彼は、
王宮の回廊を歩きながら、
独り言のように呟く。
(ほら見ろ。
誰も、
次を決めきれていない)
それは、
彼にとって“希望”だった。
派閥が方針を出せないという事実を、
「自分が切り捨てられていない証拠」
として、
都合よく解釈していたのだ。
(皆、
様子を見ているだけだ)
(私が第一王子である以上、
結局は――)
そこまで考えて、
彼は思考を止めた。
結論を出すのが、
怖かったからだ。
その同じ日、
アルファルド公爵邸では、
何の会議も開かれていなかった。
慌ただしく動く使用人たち。
出入りする馬車。
そして、
サロンで紅茶を飲むシャウラ。
「……今日は、
少し静かですわね」
昨日までの忙しさが、
嘘のようだった。
だがそれは、
嵐が去った後の静けさではない。
――最初から、
揺れていなかったからこそ生まれた、
当然の静けさだった。
方針を出さない。
決断を急がない。
それは、
迷っているからではない。
すでに、
結論が出ているからだった。
その事実を、
理解していない者は、
まだ多い。
だが、
最も理解していないのは――
他でもない、
アセルス・アウストラリス本人だった。
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