婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第13話 忙しいだけの日常

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第13話 忙しいだけの日常

その日も、
アルファルド公爵邸の朝は慌ただしく始まった。

「シャウラ様、
 本日は午前に侯爵令嬢様、
 午後は伯爵令嬢様がお見えになります」

侍女の報告に、
シャウラ・アルファルドは
小さく目を瞬かせた。

「……続きますのね」

「はい。
 皆様、ぜひご挨拶を、と」

「まあ……
 社交とは、
 案外忙しいものですわね」

他意のない一言だった。

婚約が破棄されてから、
日々のお茶会の予定は、
むしろ増えている。

だがシャウラは、
それを不自然だとは思わない。

(わたくしが暇そうに見えたのかしら)

そんな程度の感覚だ。

サロンに通される侯爵令嬢は、
終始、穏やかな笑みを浮かべていた。

「お変わりありませんか、シャウラ様」

「ええ、
 いつも通りですわ」

「それは何よりです」

それ以上、
慰めの言葉も、
探るような質問もない。

話題は、
最近流行している菓子や、
庭園の手入れ、
王都の催し物。

“婚約破棄”という出来事は、
話題の端にも上らない。

それが、
シャウラには少しだけ
不思議だった。

(皆様、
 気を遣ってくださっているのかしら)

だが、
その“気遣い”にしては、
あまりにも自然すぎる。

午後の伯爵令嬢とのお茶会も、
同じだった。

「次はいつご一緒できますか?」

「そうですわね……
 来週でしたら」

それは、
今後も変わらぬ関係が続くことを
当然とした言葉だ。

お茶会が終わり、
シャウラはソファに身を沈めた。

「……少し、疲れましたわ」

「ですが、
 皆様とても安心なさっていました」

侍女の言葉に、
シャウラは首を傾げる。

「安心、ですか?」

「はい。
 シャウラ様が、
 少しも変わっていらっしゃらないことに」

その言葉に、
彼女は思わず微笑んだ。

(変わる理由が、
 特にありませんもの)

婚約は、
失ったというより、
元に戻っただけ。

それが、
彼女の正直な感覚だった。

同じ頃、
屋敷の奥では、
派閥の貴族たちが
何気ない雑談を交わしていた。

「お嬢様は、
 本当にいつも通りだな」

「それでいい。
 むしろ、それがいい」

「中心が揺れなければ、
 派閥も揺れん」

誰も、
「支える」「推す」といった
大仰な言葉は使わない。

ただ、
いつも通り訪れ、
いつも通り挨拶をし、
いつも通り帰っていく。

その積み重ねが、
派閥の結束を
より強固なものにしていることを、
シャウラ本人は知らない。

夕暮れ時、
彼女は窓辺に立ち、
庭を眺めた。

「……今日も、
 何事もありませんでしたわ」

それは、
安堵ではない。
確認でもない。

ただの、
事実の確認だ。

だがその“何事もない日常”こそが、
今の王国において、
最も価値のあるものだと
理解している者は多い。

そしてその価値を、
当の本人だけが
まったく意識していない。

シャウラ・アルファルドの日常は、
今日も変わらず続いている。

――その静けさが、
すでに一つの「答え」であることを、
彼女はまだ知らないまま。
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