婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第14話 気づきかけた違和感

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第14話 気づきかけた違和感

その日の夕刻、
アセルス・アウストラリスは、
珍しく王宮内を目的もなく歩いていた。

執務もなく、
会合もなく、
呼び出しもない。

――空いた時間。

それは、
これまでの彼にとって、
ほとんど存在しなかったものだ。

(……妙だな)

回廊を進むにつれ、
その感覚は、
はっきりとした形を持ち始める。

以前なら、
この時間帯は誰かに呼び止められ、
意見を求められ、
判断を仰がれることが常だった。

だが今日は、
誰も声をかけてこない。

「……殿下」

すれ違った文官が、
一礼だけして足早に去っていく。

それは無礼ではない。
だが、
必要以上に関わらない態度だった。

(気のせいだ)

アセルスは、
そう自分に言い聞かせる。

だが、
同じ“気のせい”が、
何度も重なると、
無視できなくなる。

中庭に差し込む夕陽を眺めながら、
彼は立ち止まった。

(皆、
 なぜ私を避ける?)

避けられている――
その認識が、
初めて彼の中に芽生えた。

だが同時に、
それを打ち消す思考も
すぐに浮かぶ。

(いや、
 避けているのではない)

(今は、
 誰が王太子になるか、
 皆が慎重になっているだけだ)

そうでなければ、
説明がつかない。

自分が、
「もう選択肢から外れている」
などという結論は、
受け入れられなかった。

その時、
背後から低い声が聞こえた。

「……この状況で、
 よくあれほど落ち着いていられるものだ」

別の声が、
それに応じる。

「本人が、
 まだ分かっていないのだろう」

「いや……
 分かりかけてはいる。
 だからこそ、
 余計に厄介だ」

アセルスは、
反射的に振り向きそうになった。

だが、
足が止まらなかった。

(……今のは、
 私のことか?)

聞かなかったことにする。
そう決めて、
歩みを早める。

問いを投げかければ、
答えが返ってくる。

――返ってきてしまえば、
今の立場が崩れる。

それが、
怖かった。

自室に戻った彼は、
窓際の椅子に腰を下ろし、
しばらく動かなかった。

王都の灯りが、
一つ、また一つと
ともっていく。

(……本当に、
 まだ私は“候補”なのか?)

その疑問は、
これまで一度も
真剣に考えたことのないものだった。

王太子になるのは、
前提だったからだ。

選ばれるかどうかではなく、
「いつ正式になるか」の話だと
思っていた。

だが今、
その前提が、
音もなく揺らいでいる。

(……いや)

彼は、
ゆっくりと首を振る。

(考えすぎだ)

(私は第一王子だ。
 何も変わっていない)

そう言い聞かせながらも、
胸の奥に残るざらつきは、
消えなかった。

この日、
アセルスは初めて――
自分が“選ばれない可能性”
を、
ほんの一瞬だけ
意識してしまった。

だがそれは、
まだ“気づき”には至らない。

ただの、
違和感。

見なかったことにできる、
小さな亀裂に過ぎなかった。

そしてその亀裂は、
これから確実に、
広がっていく。

――彼自身が、
それを塞ごうとすればするほど。
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