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第十四話 踊りながら、すべてを見る
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第十四話 踊りながら、すべてを見る
音楽が変わった瞬間、空気の密度がわずかに上がった。
舞踏会という場では、曲調の変化は合図になる。
人が動き、配置が入れ替わり、視線の流れが書き換えられる。
アバンダンティア・コーニュコピアは、その変化を逃さずに捉えていた。
マーキュリー・ヘルメスと手を取り、再びフロアに出る。
動きは自然で、無理がない。
だが、それは偶然ではなく、結果だ。
踊りながらでなければ見えないものがある。
立ち止まっていては、配置の変化は分からない。
流れの中に入って初めて、視線の重なりや、避けられる位置が見えてくる。
「……来ていますわね」
アバンダンティアは、微かに声を落とした。
「ええ」
マーキュリーも、即座に理解する。
フロアの端。
主催家に近い位置。
本来なら、自然に人が集まるはずの場所に、空白ができている。
人はそこを避けている。
意識的ではない。
だが、無意識に距離を取っている。
「視線が、合いません」
マーキュリーが言う。
「ええ。
合わせないように、
しているのですわ」
それは拒絶ではない。
もっと曖昧で、もっと厄介な反応だ。
関わりたくない。
だが、理由を問われるほどの覚悟はない。
踊りながら、アバンダンティアは一組一組の位置関係を頭の中で整理していく。
誰が、誰の背後に立つのか。
誰が、誰と目を合わせ、誰から逸らすのか。
ダンスの円が、わずかに歪んでいる場所。
そこが、崩れかけている。
「……間合いが、狭すぎます」
マーキュリーの声は低い。
「ええ」
アバンダンティアは、視線だけで同意した。
「逃げ場がありません」
婚約という関係は、本来、周囲に余白を生む。
祝福され、支えられ、自然に人が集まる。
だが、今夜の主役たちは違う。
近づかれすぎている。
期待と視線に囲まれ、身動きが取れない。
その状態で、何も起きないはずがない。
音楽が一段落し、ダンスが途切れる。
二人は自然な流れで、給仕の近くへ移動した。
この位置から、全体が見渡せる。
「……配置は、ほぼ確定ですわ」
アバンダンティアは、グラスを受け取りながら言った。
「ええ」
マーキュリーも同じ方向を見ている。
「主役が、
主役の位置に耐えられていない」
それは能力の問題ではない。
相性でもない。
構造の問題だ。
「……前回との違いは」
マーキュリーが続ける。
「今回は、
周囲が舞台を整えすぎています」
「ええ」
アバンダンティアは静かに答える。
「逃げる余地がない。
ですから――」
「爆発する」
二人の言葉は、重なった。
舞踏会は、感情を表に出させるための場ではない。
だが、配置が限界を超えた時、感情は表に出る。
それは必然だ。
アバンダンティアは、もう一度フロアを見渡す。
視線が集中し始めている。
誰もが、まだ何も起きていないふりをしている。
だが、
誰もが、待っている。
「……時間は」
マーキュリーが尋ねる。
「もう、問題ありません」
アバンダンティアは、落ち着いた声で答えた。
「次の曲か、
その次ですわ」
踊りながら、すべてが見えた。
配置も、間合いも、視線の癖も。
そして何より、
逃げ場のなさが。
アバンダンティアは、確信していた。
この舞踏会で、
婚約破棄は起きる。
偶然ではない。
感情の暴走でもない。
構造が、
そこへ追い込んだ結果として。
彼女は、グラスを置き、静かに息を整えた。
観覧席は、完璧だ。
あとは――
起きるべき事象が、起きるのを待つだけだった。
音楽が変わった瞬間、空気の密度がわずかに上がった。
舞踏会という場では、曲調の変化は合図になる。
人が動き、配置が入れ替わり、視線の流れが書き換えられる。
アバンダンティア・コーニュコピアは、その変化を逃さずに捉えていた。
マーキュリー・ヘルメスと手を取り、再びフロアに出る。
動きは自然で、無理がない。
だが、それは偶然ではなく、結果だ。
踊りながらでなければ見えないものがある。
立ち止まっていては、配置の変化は分からない。
流れの中に入って初めて、視線の重なりや、避けられる位置が見えてくる。
「……来ていますわね」
アバンダンティアは、微かに声を落とした。
「ええ」
マーキュリーも、即座に理解する。
フロアの端。
主催家に近い位置。
本来なら、自然に人が集まるはずの場所に、空白ができている。
人はそこを避けている。
意識的ではない。
だが、無意識に距離を取っている。
「視線が、合いません」
マーキュリーが言う。
「ええ。
合わせないように、
しているのですわ」
それは拒絶ではない。
もっと曖昧で、もっと厄介な反応だ。
関わりたくない。
だが、理由を問われるほどの覚悟はない。
踊りながら、アバンダンティアは一組一組の位置関係を頭の中で整理していく。
誰が、誰の背後に立つのか。
誰が、誰と目を合わせ、誰から逸らすのか。
ダンスの円が、わずかに歪んでいる場所。
そこが、崩れかけている。
「……間合いが、狭すぎます」
マーキュリーの声は低い。
「ええ」
アバンダンティアは、視線だけで同意した。
「逃げ場がありません」
婚約という関係は、本来、周囲に余白を生む。
祝福され、支えられ、自然に人が集まる。
だが、今夜の主役たちは違う。
近づかれすぎている。
期待と視線に囲まれ、身動きが取れない。
その状態で、何も起きないはずがない。
音楽が一段落し、ダンスが途切れる。
二人は自然な流れで、給仕の近くへ移動した。
この位置から、全体が見渡せる。
「……配置は、ほぼ確定ですわ」
アバンダンティアは、グラスを受け取りながら言った。
「ええ」
マーキュリーも同じ方向を見ている。
「主役が、
主役の位置に耐えられていない」
それは能力の問題ではない。
相性でもない。
構造の問題だ。
「……前回との違いは」
マーキュリーが続ける。
「今回は、
周囲が舞台を整えすぎています」
「ええ」
アバンダンティアは静かに答える。
「逃げる余地がない。
ですから――」
「爆発する」
二人の言葉は、重なった。
舞踏会は、感情を表に出させるための場ではない。
だが、配置が限界を超えた時、感情は表に出る。
それは必然だ。
アバンダンティアは、もう一度フロアを見渡す。
視線が集中し始めている。
誰もが、まだ何も起きていないふりをしている。
だが、
誰もが、待っている。
「……時間は」
マーキュリーが尋ねる。
「もう、問題ありません」
アバンダンティアは、落ち着いた声で答えた。
「次の曲か、
その次ですわ」
踊りながら、すべてが見えた。
配置も、間合いも、視線の癖も。
そして何より、
逃げ場のなさが。
アバンダンティアは、確信していた。
この舞踏会で、
婚約破棄は起きる。
偶然ではない。
感情の暴走でもない。
構造が、
そこへ追い込んだ結果として。
彼女は、グラスを置き、静かに息を整えた。
観覧席は、完璧だ。
あとは――
起きるべき事象が、起きるのを待つだけだった。
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