『時間を止める女は、もういない』

ふわふわ

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第二話 王宮という名の冷たい場所

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第二話 王宮という名の冷たい場所


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王宮の回廊は、いつ訪れても静かだった。
それは落ち着きではなく、選ばれた者以外を拒む沈黙だ。

エルメス・シャネルは、侍女に案内されながら長い廊下を進いていた。
磨き上げられた大理石の床は、彼女の足音を必要以上に反響させる。

——ここは、私の居場所ではない。

ふと、そんな思いが胸をよぎる。
サロンでは一度も感じたことのない感覚だった。

「こちらです」

扉が開かれ、広間の空気が一気に流れ込んでくる。
そこには、すでに数名の貴族と、玉座に座す女王ルイス・クイーンの姿があった。

そして——

「来たか、エルメス」

アンフェアリが、腕を組んだまま言った。
その声音には、いつもの柔らかさはない。

「お呼びとのことでしたので」

エルメスは静かに一礼する。
視線を上げた瞬間、彼女は気づいた。

——視線が、冷たい。

同情でも好奇でもない。
まるで、すでに結論が出ているかのような目。

「単刀直入に言おう」

アンフェアリは一歩前に出た。

「君の行っている美容サロンについて、
 王宮として問題視する声が上がっている」

「……問題、ですか?」

「そうだ」

彼は鼻で笑う。

「アンチエイジング魔法?
 若さを保つ?
 そんな都合のいい話があるはずがない」

広間の空気が、微かに揺れた。

「王国中の女性から金を取り、
 “老いは恥だ”と不安を煽り、
 魔法という名目で誤魔化している」

「それは——」

「弁明は不要だ」

アンフェアリは、はっきりと言い切った。

「詐欺だ。
 悪質で、王国の秩序を乱す行為だ」

一瞬、言葉が失われた。

エルメスは、怒りを感じなかった。
悲しみですらない。

ただ、深い溝を見た気がした。

「……殿下は」

ゆっくりと、言葉を選ぶ。

「私のサロンに、来られたことは?」

「あるわけがないだろう」

即答だった。

「くだらない。
 女が年齢を気にするなど、思い込みに過ぎない」

「思い込み、ですか」

「そうだ」

アンフェアリは胸を張る。

「自然に生き、自然に老いる。
 それが正しい在り方だ」

——正しい。

その言葉に、エルメスは小さく息を吸った。

「殿下」

声は、驚くほど穏やかだった。

「自然に老いることを、
 私は否定したことはございません」

「なら——」

「ただ、その過程が、
 どれほど人の心を削るかを」

彼女は、まっすぐアンフェアリを見る。

「殿下は、ご存じないだけです」

その瞬間、空気が張りつめた。

「……言い返すつもりか?」

「事実を申し上げているだけです」

アンフェアリの表情が、険しくなる。

「もういい」

彼は背を向け、女王の方を向いた。

「陛下。
 私は、この件について正式に処分を求めます」

エルメスは、女王を見た。

ルイス・クイーンは、何も言わない。
ただ、深く、静かにエルメスを見つめている。

その視線に、かすかな躊躇と、
別の感情が混じっていることに、彼女は気づいた。

——これは、話し合いではない。

すでに、流れは決まっている。

「……承知しました」

エルメスは、ゆっくりと頭を下げた。

この場所で、これ以上、言葉を重ねる意味はない。

だが——

王宮を出るその背に、
見えない亀裂が、確かに走っていた。

それがやがて、
この国そのものを揺るがすことになるとは、
まだ誰も気づいていない。


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続けて 3話(公開の場での断罪) に進みますか?
それとも、この2話を微調整しますか。
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