『時間を止める女は、もういない』

ふわふわ

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第六話 廃嫡という名の終焉

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第六話 廃嫡という名の終焉


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女王ルイス・クイーンは、深く息を吸った。
それは怒りを鎮めるためではない。
決断を下す者の呼吸だった。

「……アンフェアリ」

名を呼ばれただけで、広間の空気が張りつめる。
もはやそれは、母が子を呼ぶ声ではない。
王が、裁く者を呼ぶ声だった。

「お前は、自らの言葉で示した」

ゆっくりと、女王は歩み出る。
玉座から降り、広間の中央へ。

「知らぬことを、知ろうともしなかったこと」
「理解できぬものを、嘲り、切り捨てたこと」
「そして何より——」

一拍。

「人の心を、軽んじたことを」

アンフェアリは、唇を噛みしめた。

「……私は、王国の秩序を——」

「秩序?」

女王の声は、低く、鋭かった。

「お前が守ろうとしたのは、
 自分の理解できる“狭い世界”だけだ」

女王は、広間に集う者たちを見渡す。

「この場にいる者たちの声を、聞いたか?」
「女たちの不安を、恐れを、努力を」
「そして、それを支えようとした者の存在を」

誰も、答えない。
答える必要がなかった。

「王とはな」

女王は、再びアンフェアリを見る。

「見えぬものを想像し、
 自分と違う者の立場に立ち、
 理解しようとする者でなければならぬ」

「それができぬ者に、
 国を導く資格はない」

その言葉が、静かに、しかし確実に落ちる。

「よって」

女王ルイス・クイーンは、声を張った。

「王太子アンフェアリを——
 本日をもって、廃嫡とする」

一瞬、音が消えた。

誰かが息を吸う音すら、やけに大きく聞こえる。

アンフェアリは、目を見開いたまま、言葉を失っていた。
信じられない、という表情。
だがそれは、誰にも共有されなかった。

「……陛下!」

ようやく絞り出した声は、震えている。

「それは、あまりにも——」

「当然の処分だ」

女王は、きっぱりと言い切った。

「王太子の座は、
 血だけで与えられるものではない」

「心を持たぬ者に、
 民の未来を預けることはできぬ」

アンフェアリは、周囲を見回す。
助けを求めるように。

だが、そこにあったのは——沈黙。

貴族たちは目を伏せ、
貴婦人たちは冷ややかな視線を向け、
誰一人として、彼の名を呼ばなかった。

「さらに」

女王は続ける。

「廃嫡に伴い、
 アンフェアリは王族としての地位、
 権限、財産の一切を失う」

「王宮への出入りも、今後一切認めぬ」

それは、完全な断絶だった。

「……ま、待ってください!」

アンフェアリは、思わず一歩踏み出す。

「私は……私は、ただ……」

言葉が、続かない。

何を言えばいいのか、
何を謝ればいいのか、
もう、わからなかった。

女王は、そんな彼を、ただ見つめていた。

「お前は、自分が何を失ったか、
 今は理解できぬだろう」

静かな声。

「だが、これから、
 一分一秒を重ねるたびに、
 思い知ることになる」

女王は、視線を横へ移す。

そこに立つ、エルメス・シャネルを見る。

「エルメス」

名を呼ばれ、彼女は静かに顔を上げた。

「お前は、引退すると言ったな」

「はい」

「だが、それは“逃げ”ではない」

女王の声は、柔らかくなる。

「お前が築いたものは、
 この国の女たちの中に、
 確かに残っている」

エルメスは、一礼した。

「……過分なお言葉です」

女王は、再びアンフェアリへ向き直る。

「連れて行け」

衛兵が動く。

「王太子アンフェアリ——
 いや、アンフェアリ」

その名から、称号は消えた。

引きずられるように連れて行かれる彼の背中を、
誰も追わなかった。

扉が閉まる音が、
やけに大きく響く。

それが、
一人の男の“王としての人生”が、
完全に終わった音だった。

広間に残った者たちは、
静かに、その事実を受け止めていた。

歴史が動いた。
だが、誰も悲しまなかった。

ただ一人、
廃嫡された男を除いて。

そして——
エルメス・シャネルは、
静かに、この国を去る準備を始めることになる。

それが、
新たな物語の始まりであることを、
まだ誰も知らなかった。
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