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第十二話 拒絶という選択
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第十二話 拒絶という選択
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王宮の小広間は、いつになく静まり返っていた。
豪奢な装飾も、磨き上げられた床も、今日はただの背景に過ぎない。
中央に立つのは、ルル・ビトゥン侯爵令嬢。
淡い色のドレスに身を包み、背筋を伸ばしているその姿は、どこまでも落ち着いていた。
向かい合うのは、アンフェアリ。
かつて王太子だった男。
今は、その肩書を失い、呼び名さえ定まらない存在。
「……ルル」
彼は、縋るような声で名を呼んだ。
「話がある。
誤解があったんだ」
その言葉を聞いても、ルルの表情は変わらない。
微笑みも、怒りも、そこにはなかった。
「誤解、ですか」
静かな問いかけ。
「私は、ただ……
あの場では、感情が先走っただけで……」
アンフェアリは、必死に言葉を並べる。
「君まで、私を責める必要はないだろう。
君は、次の婚約者として——」
「いいえ」
ルルは、はっきりと首を振った。
「そのお話は、
最初から、お受けできません」
アンフェアリは、言葉を失った。
「……なぜだ」
絞り出すような声。
「私は、あなたに何もしていない」
「ええ」
ルルは、落ち着いたまま頷く。
「だからこそ、です」
アンフェアリの眉が、わずかにひそめられる。
「私は、あなたに個人的な恨みはありません。
ですが——」
一拍、置く。
「あなたの言葉が、
どれほど多くの人の心を傷つけたかを、
私は、あの広間で見ました」
アンフェアリは、反論しようと口を開く。
だが、ルルはそれを許さなかった。
「私は、エルメス様の美容サロンの客でした」
その一言で、空気が変わる。
「初めて訪れたとき、
私は、自分の顔を見るのが怖かった」
「若くない。
美しくない。
そう思い込んでいたからです」
ルルは、ゆっくりと続ける。
「でも、あの方は、
私を変えようとはなさらなかった」
「『今日は、どんな一日でしたか』
ただ、それだけを聞いてくださいました」
アンフェアリは、唇を噛みしめた。
「あなたは、
それを“詐欺”と呼びましたね」
「それは……」
「私にとっては」
ルルは、まっすぐに彼を見る。
「生き直すきっかけでした」
その言葉は、静かだが、揺るぎない。
「あなたは、
私が大切にしていたものを、
一度も見ようとしなかった」
「そんな方と、
人生を共にすることはできません」
アンフェアリは、焦ったように一歩踏み出す。
「待ってくれ!
私は……学ぶことができる!」
「今からでも——」
「遅い、のです」
ルルは、きっぱりと言った。
「必要だったのは、
学ぼうとする姿勢ではなく、
最初から“否定しない心”でした」
その言葉に、アンフェアリは何も返せなかった。
「私は、
誰かの価値を、
自分の理解の外にあるという理由だけで
切り捨てる方を、
伴侶に選ぶつもりはありません」
ルルは、深く一礼する。
「どうか、ご理解ください」
理解など、求めていない。
それが、はっきりと伝わる態度だった。
ルルは、そのまま踵を返す。
足音は静かで、迷いがない。
アンフェアリは、ただ、その背を見送るしかなかった。
扉が閉まる。
重い音が、広間に響いた。
それは、
彼が最後に縋ろうとした可能性が、
完全に閉ざされた音だった。
同じ頃、王都の別の場所では、
ルル・ビトゥン侯爵令嬢の決断が、
静かに、しかし確実に広まっていた。
「断ったそうよ」
「当然ですわ」
「勇気ある選択です」
その評価は、
彼女自身の価値を高めこそすれ、
傷つけるものではなかった。
アンフェアリは、その夜、
再び荒れた屋敷に戻る。
迎える者はいない。
灯りも、温もりもない。
椅子に腰を下ろし、
彼は、ようやく理解し始めていた。
——自分は、拒絶されたのだ。
地位を失ったからではない。
力を失ったからでもない。
価値観そのものを、選ばれなかった。
それが、
どれほど決定的な敗北なのかを。
その事実だけが、
静かに、
しかし確実に、
彼の胸を締めつけていた。
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王宮の小広間は、いつになく静まり返っていた。
豪奢な装飾も、磨き上げられた床も、今日はただの背景に過ぎない。
中央に立つのは、ルル・ビトゥン侯爵令嬢。
淡い色のドレスに身を包み、背筋を伸ばしているその姿は、どこまでも落ち着いていた。
向かい合うのは、アンフェアリ。
かつて王太子だった男。
今は、その肩書を失い、呼び名さえ定まらない存在。
「……ルル」
彼は、縋るような声で名を呼んだ。
「話がある。
誤解があったんだ」
その言葉を聞いても、ルルの表情は変わらない。
微笑みも、怒りも、そこにはなかった。
「誤解、ですか」
静かな問いかけ。
「私は、ただ……
あの場では、感情が先走っただけで……」
アンフェアリは、必死に言葉を並べる。
「君まで、私を責める必要はないだろう。
君は、次の婚約者として——」
「いいえ」
ルルは、はっきりと首を振った。
「そのお話は、
最初から、お受けできません」
アンフェアリは、言葉を失った。
「……なぜだ」
絞り出すような声。
「私は、あなたに何もしていない」
「ええ」
ルルは、落ち着いたまま頷く。
「だからこそ、です」
アンフェアリの眉が、わずかにひそめられる。
「私は、あなたに個人的な恨みはありません。
ですが——」
一拍、置く。
「あなたの言葉が、
どれほど多くの人の心を傷つけたかを、
私は、あの広間で見ました」
アンフェアリは、反論しようと口を開く。
だが、ルルはそれを許さなかった。
「私は、エルメス様の美容サロンの客でした」
その一言で、空気が変わる。
「初めて訪れたとき、
私は、自分の顔を見るのが怖かった」
「若くない。
美しくない。
そう思い込んでいたからです」
ルルは、ゆっくりと続ける。
「でも、あの方は、
私を変えようとはなさらなかった」
「『今日は、どんな一日でしたか』
ただ、それだけを聞いてくださいました」
アンフェアリは、唇を噛みしめた。
「あなたは、
それを“詐欺”と呼びましたね」
「それは……」
「私にとっては」
ルルは、まっすぐに彼を見る。
「生き直すきっかけでした」
その言葉は、静かだが、揺るぎない。
「あなたは、
私が大切にしていたものを、
一度も見ようとしなかった」
「そんな方と、
人生を共にすることはできません」
アンフェアリは、焦ったように一歩踏み出す。
「待ってくれ!
私は……学ぶことができる!」
「今からでも——」
「遅い、のです」
ルルは、きっぱりと言った。
「必要だったのは、
学ぼうとする姿勢ではなく、
最初から“否定しない心”でした」
その言葉に、アンフェアリは何も返せなかった。
「私は、
誰かの価値を、
自分の理解の外にあるという理由だけで
切り捨てる方を、
伴侶に選ぶつもりはありません」
ルルは、深く一礼する。
「どうか、ご理解ください」
理解など、求めていない。
それが、はっきりと伝わる態度だった。
ルルは、そのまま踵を返す。
足音は静かで、迷いがない。
アンフェアリは、ただ、その背を見送るしかなかった。
扉が閉まる。
重い音が、広間に響いた。
それは、
彼が最後に縋ろうとした可能性が、
完全に閉ざされた音だった。
同じ頃、王都の別の場所では、
ルル・ビトゥン侯爵令嬢の決断が、
静かに、しかし確実に広まっていた。
「断ったそうよ」
「当然ですわ」
「勇気ある選択です」
その評価は、
彼女自身の価値を高めこそすれ、
傷つけるものではなかった。
アンフェアリは、その夜、
再び荒れた屋敷に戻る。
迎える者はいない。
灯りも、温もりもない。
椅子に腰を下ろし、
彼は、ようやく理解し始めていた。
——自分は、拒絶されたのだ。
地位を失ったからではない。
力を失ったからでもない。
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それが、
どれほど決定的な敗北なのかを。
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静かに、
しかし確実に、
彼の胸を締めつけていた。
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