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第十一話 追放された男の現在
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第十一話 追放された男の現在
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王都の外れ、かつて貴族用の別邸が並んでいた区画は、今では人の気配もまばらだった。
石畳は整備されぬままひび割れ、庭園は荒れ、かつての栄華を知る者にとっては目を背けたくなる光景が広がっている。
アンフェアリは、その一角にある古い屋敷の一室で、硬い椅子に腰を下ろしていた。
「……寒い」
思わず漏れた声は、誰にも届かない。
かつては暖炉に絶えず火が入り、毛織の敷物が敷き詰められていた部屋だ。
今は、最低限の調度だけが残され、火を焚く薪すら十分ではなかった。
廃嫡された王太子。
その称号は、もう存在しない。
名だけが残り、
それも、人々の記憶から急速に薄れていく途中だった。
「……なぜだ」
アンフェアリは、天井を睨みつける。
「私は、正しいことを言ったはずだ」
自然に老いるのが正しい。
魔法に頼るのは甘えだ。
若さに執着するなど、愚かだ。
——間違っていない。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
だが、その言葉は、もう誰にも届かない。
正しいかどうか以前に、
聞く耳を持つ者がいないのだ。
屋敷の外で、馬車の音がした。
アンフェアリは、反射的に立ち上がる。
「……誰だ?」
一瞬、期待が胸をよぎる。
迎えかもしれない。
考え直したのかもしれない。
だが、聞こえてきたのは、素通りする音だけだった。
静寂が戻る。
アンフェアリは、拳を握りしめ、壁に叩きつける。
「くそ……!」
昔なら、誰かが止めに入った。
今は、音だけが虚しく響く。
彼は、助けを求めるように思い出す。
——ルル・ビトゥン。
新たな婚約者として指名した侯爵令嬢。
王宮での最後の場面。
彼女は、冷ややかな目でこう言った。
『私も、あのサロンの客でしたので』
あの一言が、今も耳に残っている。
「……なぜ、誰もわかってくれない」
アンフェアリは、椅子に崩れ落ちた。
「女たちは、ただ、若くありたいだけだろう」
そう思っていた。
だからこそ、自分は正論を言ったつもりだった。
だが——
脳裏に、あの広間の光景が浮かぶ。
貴族たちの怒り。
「妻が笑みを失った」
「娘が鏡を割った」
理解できなかった。
今も、完全には理解できていない。
「……笑うかどうかで、そんなに変わるものか」
呟いた瞬間、
ふと、思い出す。
子どもの頃、母である女王が、鏡の前で静かに溜息をついていた姿を。
あのとき、何を思っていたのか。
何を恐れていたのか。
当時の自分は、興味を持たなかった。
——それが、すべてだったのではないか。
アンフェアリは、頭を振る。
「いや……違う」
理解しようとすると、
自分が失ったものの大きさを、
認めることになる。
それだけは、耐えられなかった。
その頃、王都では、
彼の名が口にされることは、ほとんどなくなっていた。
噂の中心は、ただ一つ。
「エルメス様は、今、どこに?」
「あの方が戻れば……」
誰も、廃嫡された男の行く末を気に留めない。
王宮からの支給金は、最低限。
かつての贅沢を思えば、
それは“施し”に等しかった。
日が沈み、
屋敷に夜が訪れる。
アンフェアリは、暗がりの中で、ひとり、座っていた。
「……戻れるはずだ」
誰にともなく、呟く。
「時間が経てば……
皆、忘れる」
だが、その言葉は、
自分自身を慰める力すら、もう持っていなかった。
彼は、まだ知らない。
忘れられることこそが、
最も残酷な罰であるということを。
そして——
この孤独が、
これから先、
一分一秒、積み重なっていくということを。
理解できぬまま、
アンフェアリは、
夜の中に取り残されていた。
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王都の外れ、かつて貴族用の別邸が並んでいた区画は、今では人の気配もまばらだった。
石畳は整備されぬままひび割れ、庭園は荒れ、かつての栄華を知る者にとっては目を背けたくなる光景が広がっている。
アンフェアリは、その一角にある古い屋敷の一室で、硬い椅子に腰を下ろしていた。
「……寒い」
思わず漏れた声は、誰にも届かない。
かつては暖炉に絶えず火が入り、毛織の敷物が敷き詰められていた部屋だ。
今は、最低限の調度だけが残され、火を焚く薪すら十分ではなかった。
廃嫡された王太子。
その称号は、もう存在しない。
名だけが残り、
それも、人々の記憶から急速に薄れていく途中だった。
「……なぜだ」
アンフェアリは、天井を睨みつける。
「私は、正しいことを言ったはずだ」
自然に老いるのが正しい。
魔法に頼るのは甘えだ。
若さに執着するなど、愚かだ。
——間違っていない。
そう、何度も自分に言い聞かせる。
だが、その言葉は、もう誰にも届かない。
正しいかどうか以前に、
聞く耳を持つ者がいないのだ。
屋敷の外で、馬車の音がした。
アンフェアリは、反射的に立ち上がる。
「……誰だ?」
一瞬、期待が胸をよぎる。
迎えかもしれない。
考え直したのかもしれない。
だが、聞こえてきたのは、素通りする音だけだった。
静寂が戻る。
アンフェアリは、拳を握りしめ、壁に叩きつける。
「くそ……!」
昔なら、誰かが止めに入った。
今は、音だけが虚しく響く。
彼は、助けを求めるように思い出す。
——ルル・ビトゥン。
新たな婚約者として指名した侯爵令嬢。
王宮での最後の場面。
彼女は、冷ややかな目でこう言った。
『私も、あのサロンの客でしたので』
あの一言が、今も耳に残っている。
「……なぜ、誰もわかってくれない」
アンフェアリは、椅子に崩れ落ちた。
「女たちは、ただ、若くありたいだけだろう」
そう思っていた。
だからこそ、自分は正論を言ったつもりだった。
だが——
脳裏に、あの広間の光景が浮かぶ。
貴族たちの怒り。
「妻が笑みを失った」
「娘が鏡を割った」
理解できなかった。
今も、完全には理解できていない。
「……笑うかどうかで、そんなに変わるものか」
呟いた瞬間、
ふと、思い出す。
子どもの頃、母である女王が、鏡の前で静かに溜息をついていた姿を。
あのとき、何を思っていたのか。
何を恐れていたのか。
当時の自分は、興味を持たなかった。
——それが、すべてだったのではないか。
アンフェアリは、頭を振る。
「いや……違う」
理解しようとすると、
自分が失ったものの大きさを、
認めることになる。
それだけは、耐えられなかった。
その頃、王都では、
彼の名が口にされることは、ほとんどなくなっていた。
噂の中心は、ただ一つ。
「エルメス様は、今、どこに?」
「あの方が戻れば……」
誰も、廃嫡された男の行く末を気に留めない。
王宮からの支給金は、最低限。
かつての贅沢を思えば、
それは“施し”に等しかった。
日が沈み、
屋敷に夜が訪れる。
アンフェアリは、暗がりの中で、ひとり、座っていた。
「……戻れるはずだ」
誰にともなく、呟く。
「時間が経てば……
皆、忘れる」
だが、その言葉は、
自分自身を慰める力すら、もう持っていなかった。
彼は、まだ知らない。
忘れられることこそが、
最も残酷な罰であるということを。
そして——
この孤独が、
これから先、
一分一秒、積み重なっていくということを。
理解できぬまま、
アンフェアリは、
夜の中に取り残されていた。
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