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第28話 開かれた場と、空席が語ったこと
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第28話 開かれた場と、空席が語ったこと
非公式の集まりが、予定通り開かれた――
その知らせが届いたのは、別邸で迎えた穏やかな朝だった。
私は、いつもと変わらぬ手つきで紅茶を注ぎ、香りを確かめる。
空気は澄み、心は静かだ。
(……ついに、ですわね)
“予告”から数日。
こちらからは何も問い合わせず、何も確認せず、何も約束しなかった。
それでも場は開かれた。
それ自体が、答えだ。
「お嬢様」
マルタが、控えめに近づく。
「今朝方、王都より報せが参りました。
非公式の集まりは、昨夜、無事に終了したそうです」
「無事、ですか」
「表向きは、でございます」
私は、カップを置いた。
「“表向き”ということは、
裏があるのですね」
「……はい。
いくつか、興味深い点が」
マルタは、整理された口調で報告を続ける。
「まず、お嬢様の席は――
最後まで、空けられたままだったそうです」
私は、静かに頷いた。
(やはり)
招待していない。
だが、席は用意した。
来なかったことを、
“欠席”ではなく、
“選択”として扱ったということだ。
「次に、集まりの雰囲気ですが……
開始直後は、探るような会話が続いたものの、
時間が経つにつれ、話題が定まらなくなったと」
「定まらない、ですか」
「はい。
誰も、主導権を取らなかったそうです」
私は、思わず微笑んだ。
(……当然ですわね)
主導権を取れば、
“何のための場だったのか”を
自分で定義することになる。
それは、
私がいない場で、
最も避けたい行為だ。
「さらに」
マルタは、少し言葉を選んで続ける。
「終盤、
“いずれ正式な形で話し合う必要がある”
という声が出たものの……
具体的な提案には至らなかったそうです」
私は、息を吐いた。
(……空席が、重すぎたのですわね)
誰も、
私の代わりに決断できない。
誰も、
私の代わりに責任を負えない。
それが、
はっきりしてしまった。
昼前、父から書簡が届いた。
『非公式の集まり、報告を受けた。
お前の席は、空いたままだったそうだ』
私は、短く返事を書いた。
『把握しております』
それ以上は、必要ない。
午後、私は別邸の書斎で、本を開いていた。
文字を追いながらも、思考は自然と整理されていく。
(……場は、開かれた)
だが、
何も決まらなかった。
それは失敗ではない。
だが、成功でもない。
ただ――
現実が、可視化された。
誰も、
私がいない状態で、
次の段階へ進めない。
それを、
全員が理解した夜だった。
夕方、マルタが再び入ってくる。
「王都では、
“あの場は必要だったのか”
という声が出始めております」
「当然ですわね」
「お嬢様が出席されなかったことが、
理由として挙げられております」
私は、静かに頷いた。
(……責められてはいませんわね)
むしろ、
“来なかったのに、影響した”
という評価だ。
夜。
別邸の寝室で、
ランプの灯りの下、
私は今日一日を振り返った。
私は、
場に出なかった。
だが、
席はあった。
その空席は、
言葉よりも雄弁だった。
誰もが、
私がいないことで、
自由になれると思っていた。
だが実際は、
判断できなくなっただけ。
沈黙は、
ここでも力を持った。
動かないという選択は、
場を停滞させる。
だが同時に、
軽率な決断を防ぐ。
私は、目を閉じる。
次に動くのは、
きっと――
場を開いた側だ。
空席が語ったことを、
無視できる者はいない。
そして私は、
まだ、
何も語っていない。
それで、いい。
非公式の集まりが、予定通り開かれた――
その知らせが届いたのは、別邸で迎えた穏やかな朝だった。
私は、いつもと変わらぬ手つきで紅茶を注ぎ、香りを確かめる。
空気は澄み、心は静かだ。
(……ついに、ですわね)
“予告”から数日。
こちらからは何も問い合わせず、何も確認せず、何も約束しなかった。
それでも場は開かれた。
それ自体が、答えだ。
「お嬢様」
マルタが、控えめに近づく。
「今朝方、王都より報せが参りました。
非公式の集まりは、昨夜、無事に終了したそうです」
「無事、ですか」
「表向きは、でございます」
私は、カップを置いた。
「“表向き”ということは、
裏があるのですね」
「……はい。
いくつか、興味深い点が」
マルタは、整理された口調で報告を続ける。
「まず、お嬢様の席は――
最後まで、空けられたままだったそうです」
私は、静かに頷いた。
(やはり)
招待していない。
だが、席は用意した。
来なかったことを、
“欠席”ではなく、
“選択”として扱ったということだ。
「次に、集まりの雰囲気ですが……
開始直後は、探るような会話が続いたものの、
時間が経つにつれ、話題が定まらなくなったと」
「定まらない、ですか」
「はい。
誰も、主導権を取らなかったそうです」
私は、思わず微笑んだ。
(……当然ですわね)
主導権を取れば、
“何のための場だったのか”を
自分で定義することになる。
それは、
私がいない場で、
最も避けたい行為だ。
「さらに」
マルタは、少し言葉を選んで続ける。
「終盤、
“いずれ正式な形で話し合う必要がある”
という声が出たものの……
具体的な提案には至らなかったそうです」
私は、息を吐いた。
(……空席が、重すぎたのですわね)
誰も、
私の代わりに決断できない。
誰も、
私の代わりに責任を負えない。
それが、
はっきりしてしまった。
昼前、父から書簡が届いた。
『非公式の集まり、報告を受けた。
お前の席は、空いたままだったそうだ』
私は、短く返事を書いた。
『把握しております』
それ以上は、必要ない。
午後、私は別邸の書斎で、本を開いていた。
文字を追いながらも、思考は自然と整理されていく。
(……場は、開かれた)
だが、
何も決まらなかった。
それは失敗ではない。
だが、成功でもない。
ただ――
現実が、可視化された。
誰も、
私がいない状態で、
次の段階へ進めない。
それを、
全員が理解した夜だった。
夕方、マルタが再び入ってくる。
「王都では、
“あの場は必要だったのか”
という声が出始めております」
「当然ですわね」
「お嬢様が出席されなかったことが、
理由として挙げられております」
私は、静かに頷いた。
(……責められてはいませんわね)
むしろ、
“来なかったのに、影響した”
という評価だ。
夜。
別邸の寝室で、
ランプの灯りの下、
私は今日一日を振り返った。
私は、
場に出なかった。
だが、
席はあった。
その空席は、
言葉よりも雄弁だった。
誰もが、
私がいないことで、
自由になれると思っていた。
だが実際は、
判断できなくなっただけ。
沈黙は、
ここでも力を持った。
動かないという選択は、
場を停滞させる。
だが同時に、
軽率な決断を防ぐ。
私は、目を閉じる。
次に動くのは、
きっと――
場を開いた側だ。
空席が語ったことを、
無視できる者はいない。
そして私は、
まだ、
何も語っていない。
それで、いい。
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