『沈黙を選んだ令嬢は、対等な未来を手に取る』

ふわふわ

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第27話 予告された場と、動かないという選択

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第27話 予告された場と、動かないという選択

 非公式の集まりが“予定されている”――
 その一文だけが、静かに胸の内に残っていた。

 招待ではない。
 要請でもない。
 ただ、知らされた。

(……本当に、慎重な言い回しですわね)

 別邸の朝は、王都よりもさらに静かだ。
 鳥の声と、風に揺れる木々の音だけが、ゆっくりと時間を刻んでいる。

 私はテーブルに着き、温めた紅茶を口に含んだ。
 味は変わらない。
 それが、少しだけ心を落ち着かせる。

「お嬢様」

 マルタが、控えめな足取りで近づいてきた。

「例の“予告”について、
 何か動きは?」

「今のところ、ありませんわ」

 私は即答した。

「向こうからも、追加の連絡は来ておりません」

「……では」

「ええ。
 向こうも、待っているのです」

 マルタは、わずかに目を伏せた。

「お嬢様が、どう出るかを」

 その言葉に、私は小さく微笑んだ。

「“どう出るか”という発想自体が、
 少し違いますわね」

「と、申しますと」

「私は、
 出るか出ないかを、
 まだ選んでいません」

 それは、
 逃げでも、迷いでもない。

 選択肢を、
 相手に預けないということだ。

 昼前、父から書簡が届いた。

『例の非公式の件、把握している。
 こちらから、問い合わせはしない。
 お前の判断に任せる』

 私は、その文を読み、静かに息を吐いた。

(……本当に、余計なことはなさらない)

 それが、
 今の状況では、
 最良の後ろ盾だった。

 午後、私は別邸の庭を歩きながら、
 これまでの流れを思い返していた。

 夜会。
 沈黙。
 王城の説明。
 呼ばれなかった茶会。
 届かなかった招待状。

 そして、
 “予告された場”。

 すべてに共通しているのは、
 私が主語になっていないこと。

 誰かが決め、
 誰かが焦り、
 誰かが調整しようとしている。

 私は、
 その中心にいながら、
 動いていない。

(……それが、こんなにも重くなるとは)

 沈黙とは、
 音がないことではない。

 判断を、
 相手に委ねないこと。

 夕方、マルタが再び報告に来た。

「王都で、“非公式の集まり”について、
 少しずつ噂が流れ始めております」

「どのような?」

「“誰が顔を出すのか”
 “誰が来ないのか”
 ……その二点に集中しております」

 私は、静かに頷いた。

(……結局、そこですわね)

 場の中身ではない。
 議題でもない。

 誰が、
 その場に“耐えられるか”。

 誰が、
 沈黙の後でも、
 軽く扱われずに済むか。

 それを、
 皆が測っている。

「お嬢様は……」

 マルタが、言いかけて口を閉じる。

「気にしなくていいですわ」

 私は、やわらかく言った。

「“行くかどうか”を、
 今、決める必要はありません」

「……はい」

 夜。

 別邸の寝室で、
 ランプの灯りの下、
 私は一人、静かに考えた。

 もし、私がその場に出れば――
 沈黙は、形を変える。

 私の存在が、
 場の意味を固定してしまう。

 だが、
 出なければ――
 場は、
 “私を欠いた状態”で進む。

 どちらが正しい、ではない。

 重要なのは、
 どちらが、今の私に合っているか。

 私は、まだ答えを出さない。

 予告された場は、
 私のために設けられたわけではない。

 だから、
 私が急ぐ理由もない。

 ベッドに入り、目を閉じる。

 非公式の場は、
 いずれ開かれるだろう。

 だが、その場に
 私がいるかどうかで、
 価値が決まるとしたら――
 それは、
 最初から歪んでいる。

 私は、
 動かないという選択を、
 今夜も手放さなかった。

 それが、
 次に進むための、
 唯一の準備だと知っているから。

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