『沈黙を選んだ令嬢は、対等な未来を手に取る』

ふわふわ

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第26話 静けさの中で揃う視線と、次に動く影

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第26話 静けさの中で揃う視線と、次に動く影

 招待状が届かなかったことが、
 もはや話題にならなくなり始めた頃――
 王都は、別の静けさに包まれていた。

 それは、落ち着きではない。
 視線が、同じ方向に揃い始めた静けさだ。

 朝、私は紅茶を飲みながら、窓辺に立っていた。
 庭の芝はよく手入れされ、陽光がやわらかく差し込む。

(……空気が、少し変わりましたわね)

 これまでの沈黙は、
 誰かが耐えきれずに破るのを待つ、張り詰めたものだった。

 今の沈黙は違う。
 皆が「もう、ここは触れない」と理解した後の静けさ。

「お嬢様」

 マルタが、控えめに声をかけてくる。

「はい」

「最近、王都での話題が……
 お嬢様“ご本人”から、
 周囲の方々へと移り始めております」

 私は、ゆっくりと振り返った。

「周囲、ですか」

「はい。
 お嬢様に近づこうとしていた家、
 あるいは距離を誤った家について、でございます」

 私は、小さく息を吐いた。

(……始まりましたわね)

 焦点が当事者から外れたとき、
 次に照らされるのは、
 取り巻きの行動だ。

 誰が軽率だったか。
 誰が噂を煽ったか。
 誰が沈黙を守れなかったか。

 沈黙が長く続いた分、
 振り返りは、容赦がない。

「具体的には?」

「夜会の場で、
 不用意な発言をした方々や、
 水面下で動いたことが露見した家が、
 少しずつ距離を置かれております」

 私は、静かに頷いた。

 誰かが罰したわけではない。
 命じた者もいない。

 ただ――
 選ばれなくなった。

 それだけだ。

 昼前、父の書斎に呼ばれた。

 父は、王都から届いた報告書に目を通しながら言う。

「完全に、流れが変わったな」

「はい」

「中心は、お前ではない」

 私は、その言葉に少しだけ微笑んだ。

「それが、一番よろしいのですわ」

 父は、短く笑う。

「当事者が語らず、
 周囲だけが評価される。
 ……実に、厄介だ」

「ええ。
 でも、それが自然な結果です」

 沈黙を守った者は、
 責任を問われない。

 沈黙を破った者、
 あるいは沈黙の“裏”で動いた者が、
 結果を引き受ける。

 それだけの話だ。

 午後、私は久しぶりに王都から少し離れた別邸へ向かった。

 人目を避けるためではない。
 ただ、
 静かな場所で考えたかった。

 馬車の中、揺れに身を任せながら思う。

(……そろそろ、次に動く者が現れますわね)

 空気が整い、
 視線が揃ったとき――
 必ず現れる。

 流れを変えようとする者。
 自分だけは違う、と示そうとする者。

 そして多くの場合、
 それは――
 最も慎重であるべき立場の者だ。

 夕方、別邸に到着すると、
 思いがけず一通の書簡が届いていた。

 差出人は、
 これまで沈黙を守ってきた、
 ある中立的な家の当主。

 内容は、簡潔だった。

> 近日中に、
王都にて非公式の集まりが予定されている。
あなたのご意向を、
直接伺うつもりはない。
ただ、
“場が設けられる”ことだけ、
伝えておく。



 私は、その文面を読み、
 静かに指を組んだ。

(……来ましたわね)

 招待ではない。
 要請でもない。
 ましてや、命令ではない。

 ただの――
 予告。

 それは、
 次の段階へ進む前の、
 最後の確認だ。

 夜。

 別邸の寝室で、
 ランプの灯りの下、
 私は一人で考えを巡らせた。

 沈黙は、
 ここまで十分に役目を果たした。

 だが、
 永遠ではない。

 次に動く影が現れたとき、
 私がどう在るか。

 語るか。
 語らないか。
 立つか。
 座ったままでいるか。

 選択は、
 もうすぐ、
 こちらに渡される。

 私は、目を閉じた。

 静けさの中で、
 視線は揃った。

 次に動くのは――
 私ではない。

 けれど、
 私を軸に、何かが動き出そうとしている。

 それだけは、
 はっきりと感じていた。

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