『沈黙を選んだ令嬢は、対等な未来を手に取る』

ふわふわ

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第40話 選んだ未来と、沈黙の終着点

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第40話 選んだ未来と、沈黙の終着点

 王都の朝は、久しぶりに澄んでいた。

 空気が軽い。
 人々の視線も、どこか前を向いている。

(……世界は、もう動き出しましたわね)

 沈黙に支配されていた時間は終わり、
 誰もが「次」を意識し始めている。

 別邸の書斎。
 私は机に置かれた一通の正式書簡を見つめていた。

 差出人は、
 ユージェーヌ王太子。

 内容は、これまでで最も簡潔だった。

> 行動は、これからも続ける。
だが、
それを理由に、
あなたの選択を縛るつもりはない。

私は、
あなたがどんな結論を出しても、
それを尊重する。



 私は、静かに息を吐いた。

(……最後まで、押してきませんでしたわね)

 期待も、
 懇願も、
 強制もない。

 ただ、
 「選択」を委ねてくる。

 それが、
 どれほど重いことか。

「お嬢様」

 マルタが、いつも通りの穏やかな声で入ってくる。

「はい」

「本日、
 王城より正式な席が用意されております。
 “結論を求める場ではない”
 との注釈付きで」

 私は、わずかに微笑んだ。

「最後まで、
 条件を守ってくださるのですね」

「……はい」

 マルタは、
 少しだけ誇らしげに見えた。

 昼前、私は王城へ向かった。

 広間は、
 かつて婚約破棄が宣告された場所とは、
 まるで別の空気をまとっている。

 ここには、
 断罪も、
 喝采もない。

 あるのは、
 選択の場だけ。

 ユージェーヌ王太子は、
 静かに一礼した。

「来てくれて、ありがとう」

「条件を守ってくださったからですわ」

 私たちは、向かい合って腰を下ろす。

 誰も急かさない。
 誰も、言葉を押し付けない。

 沈黙は、
 もう敵ではなかった。

「……私は」

 王太子が、口を開いた。

 だが、
 私は手で制した。

「殿下。
 今日は――
 私が話します」

 彼は、黙って頷いた。

 私は、ゆっくりと息を吸う。

「私は、
 かつて婚約を破棄されました。
 理由は、
 正しさと都合でした」

 言葉は、
 静かに、
 しかし確かに空間を満たす。

「その時、
 私は何も言えなかった。
 言葉を持たなかったのではなく、
 言葉を許されなかったのです」

 王太子は、
 目を伏せたまま、
 聞いている。

「だから私は、
 沈黙を選びました」

 私は、
 はっきりと言った。

「復讐のためではありません。
 誰かを貶めるためでもない。
 自分を、
 もう一度取り戻すためです」

 ゆっくりと、
 視線を上げる。

「そして今、
 私はそれを取り戻しました」

 王太子が、
 顔を上げた。

 その目には、
 焦りも、
 期待もない。

 ただ、
 覚悟だけがあった。

「だから、
 私は選びます」

 一瞬、
 場の空気が張り詰める。

「私は――
 殿下の“行動”を、
 評価します」

 彼の指先が、
 わずかに動いた。

「ですが」

 私は、
 言葉を切る。

「それと同時に、
 私は、
 自分の人生を、
 誰かの責任に預けることを、
 もうしません」

 沈黙。

 しかしそれは、
 拒絶の沈黙ではない。

「ですから、
 私はここに立ちます」

 私は、
 まっすぐに彼を見る。

「殿下の隣でも、
 殿下の後ろでもなく。
 ――対等な場所に」

 王太子は、
 深く息を吸い、
 そして、
 はっきりと頷いた。

「……それが、
 あなたの選択ですね」

「はい」

「ならば」

 彼は、
 わずかに笑った。

「私は、
 その場所に立てるよう、
 これからも行動し続けます」

 約束ではない。
 誓約でもない。

 選び続ける意思。

 それで、
 十分だった。

 王城を出た後、
 私は空を見上げた。

 雲は流れ、
 光が差している。

 沈黙は、
 終着点に辿り着いた。

 それは、
 敗北でも、
 妥協でもない。

 選択へ至るための、
 必要な時間だった。

 夜、別邸の寝室。

 ランプを落とし、
 私はベッドに横になる。

 もう、
 沈黙に身を委ねる必要はない。

 だが、
 言葉に縛られることもない。

 私は、
 選んだ。

 自分の人生を、
 自分の足で歩くことを。

 その先に、
 誰が並ぶかは――
 これから決まる。

 だがそれは、
 恐れる未来ではない。

 沈黙を越えた先にあるのは、
 自由に選び続ける、
 私自身の物語なのだから。

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