23 / 40
第23話 理解できない者の連帯
しおりを挟む
第23話 理解できない者の連帯
正しさを盾にした攻勢が失速すると、
次に生まれるのは――
連帯だった。
「……個人では
太刀打ちできない、
ということですわね」
王都の奥まった屋敷。
人目を避けるように集まった
数名の貴族たちが、
低い声で語り合っていた。
「一人で声を上げても、
あの女には
響かない」
「だから、
集まる必要がある」
「“私たちは
被害者だ”という
形を作るのよ」
その言葉に、
誰も異を唱えなかった。
なぜなら――
それが、
自分たちの
心を最も
楽にする方法だったからだ。
「選ばれなかったのではない」
「排除されたのだ」
「理解できなかったのではない」
「説明されなかったのだ」
そう言い換えた瞬間、
彼らの中に
奇妙な一体感が
生まれた。
同じ頃。
《オーセンティック》では、
いつも通りの
午後が流れていた。
客は少ない。
だが、
静かな集中が
店内を満たしている。
「……最近、
妙な視線を
感じます」
店員が、
小声で言った。
「ええ」
ジェニュインは、
穏やかに答える。
「理解できない者が
連帯し始めた証拠です」
「連帯……?」
「はい」
彼女は、
石を一つ手に取り、
静かに言葉を続けた。
「人は、
自分の弱さを
一人で抱えることが
できない時、
“同じ弱さを持つ者”を
探します」
数日後。
王都に、
ある文書が
出回り始めた。
《選別的商法に対する
共同声明》
署名者は、
複数の貴族。
内容は、
丁寧で、
理知的だった。
――説明のない販売は、
消費者に混乱を与える。
――選ばれる仕組みは、
不透明である。
――我々は、
公正な取引を
求める。
その文書は、
瞬く間に
広がった。
「ほら、
やっぱり
問題だったのよ」
「声を
合わせれば、
無視できない」
「これで、
あの店も
変わるでしょう」
だが――
《オーセンティック》は、
何も変わらなかった。
声明が出た翌日も、
店は
いつも通り開き、
いつも通り
静かだった。
説明は増えない。
値段も変わらない。
態度も変わらない。
「……反応が
ありませんね」
連帯の中心にいた
侯爵が、
苛立ちを隠さず
言った。
「無視、
ということ?」
「私たち、
これだけ
集まったのに……」
その頃。
《オーセンティック》では、
一人の女性が
石を選んでいた。
彼女は、
その声明の
署名者だった。
「……来てしまいました」
自嘲気味に
呟く。
「問題視している店に?」
「ええ」
彼女は、
苦笑した。
「でも……
分かって
しまったのです」
「連帯しても、
ここでは
何も変わらない」
「私が
理解できないまま
立っていた事実だけが、
浮き彫りになる」
ジェニュインは、
何も言わなかった。
ただ、
静かに
石を示す。
彼女は、
しばらく
石を見つめ、
やがて
小さく頷いた。
「……これ」
「理由は?」
「ありません」
支払いを終え、
石を受け取った彼女は、
深く息を吐いた。
「……連帯しても、
埋まらないものが
あるのですね」
「ええ」
ジェニュインは、
静かに答える。
「理解は、
集団では
起こりません」
その夜。
連帯を呼びかけた
声明は、
次第に
勢いを失っていった。
理由は、
単純だった。
署名者の一人、
また一人が――
《オーセンティック》で
買い物をした
という噂が
流れ始めたからだ。
「……裏切り?」
「違うわ」
誰かが、
ぽつりと言った。
「一人に
戻っただけ」
ジェニュインは、
帳簿を閉じ、
静かに考える。
理解できない者同士の
連帯は、
一時的な
温もりを与える。
だが――
それは、
本当の答えを
与えない。
「……理解は、
常に
孤独です」
石は、
今日も
無言だ。
誰とも
連帯しない。
誰かと
組まない。
それでも――
選ばれる。
石を売る女は、
連帯を
否定しなかった。
だが、
そこに
答えがないことを
知っていた。
理解できない者たちの
連帯は、
やがて
静かに崩れる。
なぜなら――
最後に選ぶのは、
必ず
一人だから。
それが、
この連帯が
辿り着く
避けられない
“ざまぁ”であることを、
彼らは
まだ
理解していなかった。
正しさを盾にした攻勢が失速すると、
次に生まれるのは――
連帯だった。
「……個人では
太刀打ちできない、
ということですわね」
王都の奥まった屋敷。
人目を避けるように集まった
数名の貴族たちが、
低い声で語り合っていた。
「一人で声を上げても、
あの女には
響かない」
「だから、
集まる必要がある」
「“私たちは
被害者だ”という
形を作るのよ」
その言葉に、
誰も異を唱えなかった。
なぜなら――
それが、
自分たちの
心を最も
楽にする方法だったからだ。
「選ばれなかったのではない」
「排除されたのだ」
「理解できなかったのではない」
「説明されなかったのだ」
そう言い換えた瞬間、
彼らの中に
奇妙な一体感が
生まれた。
同じ頃。
《オーセンティック》では、
いつも通りの
午後が流れていた。
客は少ない。
だが、
静かな集中が
店内を満たしている。
「……最近、
妙な視線を
感じます」
店員が、
小声で言った。
「ええ」
ジェニュインは、
穏やかに答える。
「理解できない者が
連帯し始めた証拠です」
「連帯……?」
「はい」
彼女は、
石を一つ手に取り、
静かに言葉を続けた。
「人は、
自分の弱さを
一人で抱えることが
できない時、
“同じ弱さを持つ者”を
探します」
数日後。
王都に、
ある文書が
出回り始めた。
《選別的商法に対する
共同声明》
署名者は、
複数の貴族。
内容は、
丁寧で、
理知的だった。
――説明のない販売は、
消費者に混乱を与える。
――選ばれる仕組みは、
不透明である。
――我々は、
公正な取引を
求める。
その文書は、
瞬く間に
広がった。
「ほら、
やっぱり
問題だったのよ」
「声を
合わせれば、
無視できない」
「これで、
あの店も
変わるでしょう」
だが――
《オーセンティック》は、
何も変わらなかった。
声明が出た翌日も、
店は
いつも通り開き、
いつも通り
静かだった。
説明は増えない。
値段も変わらない。
態度も変わらない。
「……反応が
ありませんね」
連帯の中心にいた
侯爵が、
苛立ちを隠さず
言った。
「無視、
ということ?」
「私たち、
これだけ
集まったのに……」
その頃。
《オーセンティック》では、
一人の女性が
石を選んでいた。
彼女は、
その声明の
署名者だった。
「……来てしまいました」
自嘲気味に
呟く。
「問題視している店に?」
「ええ」
彼女は、
苦笑した。
「でも……
分かって
しまったのです」
「連帯しても、
ここでは
何も変わらない」
「私が
理解できないまま
立っていた事実だけが、
浮き彫りになる」
ジェニュインは、
何も言わなかった。
ただ、
静かに
石を示す。
彼女は、
しばらく
石を見つめ、
やがて
小さく頷いた。
「……これ」
「理由は?」
「ありません」
支払いを終え、
石を受け取った彼女は、
深く息を吐いた。
「……連帯しても、
埋まらないものが
あるのですね」
「ええ」
ジェニュインは、
静かに答える。
「理解は、
集団では
起こりません」
その夜。
連帯を呼びかけた
声明は、
次第に
勢いを失っていった。
理由は、
単純だった。
署名者の一人、
また一人が――
《オーセンティック》で
買い物をした
という噂が
流れ始めたからだ。
「……裏切り?」
「違うわ」
誰かが、
ぽつりと言った。
「一人に
戻っただけ」
ジェニュインは、
帳簿を閉じ、
静かに考える。
理解できない者同士の
連帯は、
一時的な
温もりを与える。
だが――
それは、
本当の答えを
与えない。
「……理解は、
常に
孤独です」
石は、
今日も
無言だ。
誰とも
連帯しない。
誰かと
組まない。
それでも――
選ばれる。
石を売る女は、
連帯を
否定しなかった。
だが、
そこに
答えがないことを
知っていた。
理解できない者たちの
連帯は、
やがて
静かに崩れる。
なぜなら――
最後に選ぶのは、
必ず
一人だから。
それが、
この連帯が
辿り着く
避けられない
“ざまぁ”であることを、
彼らは
まだ
理解していなかった。
0
あなたにおすすめの小説
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
旦那様、本当によろしいのですか?【完結】
翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。
なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。
そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、
「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」
突然夫にそう告げられた。
夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。
理由も理不尽。だが、ロザリアは、
「旦那様、本当によろしいのですか?」
そういつもの微笑みを浮かべていた。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる