石を売る女の意思 ――後にダイヤモンドクイーンと呼ばれる女の威信――

ふわふわ

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第22話 正しさを盾にする者たち

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第22話 正しさを盾にする者たち

 

《オーセンティック》から距離を置くと宣言した“行進”は、
目に見えて勢いを失っていた。

派手な馬車は減り、
報道係の姿も消え、
残ったのは――
声だけだった。

 

「……あの店は、
 やはりおかしいと思いません?」

王都のサロンで、
ある貴族令嬢が
はっきりと口にした。

「説明をしないのは、
 不誠実です」

「そうよ。
 価値を隠すなんて、
 詐欺に近い」

「選ばれる、
 選ばれないなんて……
 そんなの、
 差別ですわ」

 

“差別”。

その言葉が出た瞬間、
場の空気が
微妙に変わった。

それは、
最も強力で、
最も便利な
正義の盾だった。

 

「分からない人を
 切り捨てる商売は、
 社会に
 悪影響を与える」

「そう。
 王都の秩序を
 乱している」

「規制すべきですわ」

 

その意見は、
一見すると
もっともらしい。

だが、
誰一人として
こうは言わなかった。

――「私は、
 選ばれなかった」
とは。

 

同じ頃。

《オーセンティック》では、
静かな午後が
流れていた。

店内には、
三人の客。

誰も話さない。

石を見て、
触れて、
考える。

 

「……最近、
 外が
 騒がしいですね」

店員が、
小声で言う。

「ええ」

ジェニュインは、
落ち着いている。

「正しさを
 盾にする段階に
 入りました」

「……盾、ですか?」

「はい」

彼女は、
石を布に包みながら
続ける。

「自分が
 選ばれなかった理由を
 認められない時、
 人は
 “正しさ”を
 持ち出します」

 

その日の夕方。

店の扉が、
勢いよく開いた。

入ってきたのは、
数名の貴族と、
見慣れない男。

「失礼する」

男は、
胸を張って名乗った。

「王都商業倫理評議会、
 臨時調査官だ」

 

店内の空気が、
一瞬、
張り詰める。

「……どのような
 ご用件でしょうか」

ジェニュインは、
一歩も動じない。

 

「苦情が
 多数寄せられている」

調査官は、
書類を広げた。

「説明不足、
 価格不透明、
 選別的販売」

「これらは、
 消費者保護の観点から
 問題だ」

 

「……誰か、
 強制されましたか?」

ジェニュインは、
静かに問う。

「何?」

「誰か、
 購入を
 強制されましたか?」

調査官は、
言葉に詰まる。

「……それは……
 ないが……」

「誰か、
 騙されましたか?」

「……証拠は……」

「誰か、
 排除されましたか?」

「……」

 

三つの問いに、
答えは
一つも
返ってこなかった。

 

「でしたら」

ジェニュインは、
穏やかに
言葉を結ぶ。

「問題は
 “感情”ですわ」

 

調査官の顔が、
歪む。

「感情、だと?」

「ええ」

「理解できないことへの
 不安」

「選ばれなかったことへの
 屈辱」

「それらを、
 正しさで
 覆っているだけ」

 

場にいた貴族の一人が、
声を荒げた。

「侮辱ですわ!」

「いいえ」

ジェニュインは、
真っ直ぐに
その目を見る。

「事実です」

 

「正しさは、
 盾として
 使われた瞬間、
 武器になります」

「そして、
 その武器は
 必ず
 持ち主を
 傷つける」

 

調査官は、
深く息を吸い、
吐いた。

「……君は、
 社会秩序を
 軽視している」

「いいえ」

ジェニュインは、
はっきりと答えた。

「私は、
 個人の選択を
 尊重しています」

 

「選ばない自由。
 選ばれる覚悟。
 どちらも、
 同じだけ
 尊い」

 

沈黙。

調査官は、
書類を閉じた。

「……本日は
 これ以上は
 踏み込まない」

「だが、
 監視は続く」

 

彼らが去ったあと、
店内は
再び静けさを
取り戻した。

 

夜。

店員が、
不安そうに
尋ねる。

「……大丈夫、
 でしょうか」

「ええ」

ジェニュインは、
穏やかに
微笑んだ。

「正しさを
 盾にする者は、
 長くは
 戦えません」

 

「なぜなら――
 正しさは、
 誰のものでも
 ないから」

 

その夜、
社交界では
また新しい噂が
流れ始めた。

「調査に入ったのに、
 何も
 見つからなかったらしい」

「逆に、
 自分たちの方が
 浅ましかったと
 思い知らされたとか……」

 

声は、
徐々に
小さくなる。

盾にしていた
正しさが、
いつの間にか
重くなり、
腕から
落ちていく。

 

ジェニュインは、
帳簿を閉じ、
静かに呟いた。

「正しさを
 盾にする者ほど、
 自分を
 守れていない」

 

石は、
今日も
無言だ。

何も主張しない。
何も弁明しない。

それでも――
選ぶ者は
現れる。

 

石を売る女は、
正しさと
戦わなかった。

ただ、
正しさを
 必要とする者が
 自滅していく様子を、
静かに
見送っただけだ。

それこそが、
最も派手な言葉を使わない、
最も冷酷な
“ざまぁ”であることを――
盾を落とした者たちは、
後になってから
ようやく
理解するのだった。
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