石を売る女の意思 ――後にダイヤモンドクイーンと呼ばれる女の威信――

ふわふわ

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第21話 選ばれなかった者たちの行進

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第21話 選ばれなかった者たちの行進

 

王家が《オーセンティック》に干渉しない――
その決定は、
公式発表という形を取らなかった。

だが、
王城から発せられる
“沈黙”ほど、
雄弁なものはない。

 

「……王家が、
 黙っている?」

王都の社交界で、
最初にその異変に
気づいたのは、
常に噂に敏い者たちだった。

「ええ。
 あれほど
 話題になっていたのに」

「調査も、
 規制も、
 警告もない」

「つまり……」

誰かが、
言葉を濁す。

「……手出し
 できなかった、
 ということ?」

 

その一言が、
静かに、
しかし確実に
波紋を広げた。

 

王家が“触れなかった”存在。

それは、
守られているのと
同義だった。

 

だが――
それを
素直に受け入れられる者は、
決して多くない。

 

「ふざけているわ」

ある侯爵夫人が、
怒りを露わにした。

「何の後ろ盾もない
 一商人が、
 王家の上を
 行くなんて!」

「そうよ。
 選ばれた者だけが
 理解できる?
 冗談じゃない」

「こちらから
 願い下げですわ」

 

その言葉の裏にあるのは、
誇りではない。

――敗北感だ。

 

数日後。

王都の大通りに、
珍しい光景が現れた。

《オーセンティック》から
距離を置くと宣言した
貴族たちが、
連れ立って
別の宝飾店へ
足を運んでいたのだ。

まるで、
行進のように。

 

「……見せつける
 つもりですわね」

《オーセンティック》の
店員が、
窓越しに
その様子を見て
呟く。

「ええ」

ジェニュインは、
静かに答えた。

「“私たちは
 選ばれなかったのではない。
 自分で
 別の場所を
 選んだのだ”と
 示したいのでしょう」

 

その行進は、
派手だった。

音楽。
豪奢な馬車。
報道用の記録係。

誰が見ても、
“勝者の振る舞い”に
見えるよう、
完璧に演出されている。

 

「……どうなさいますか?」

店員が、
不安げに
尋ねる。

「何もしませんわ」

ジェニュインは、
即答した。

「彼らは、
 自分たちの
 納得のために
 行進しているだけです」

 

その夜。

王都では、
新しい宝飾店の
話題で持ちきりだった。

「《オーセンティック》より
 分かりやすいわ」

「値段も
 はっきりしている」

「鑑定書も
 つくし」

「安心よね」

 

その“安心”という言葉が、
何よりも
雄弁だった。

 

一方。

《オーセンティック》では、
客足が
減ることはなかった。

むしろ――
静かに、
しかし確実に
増えている。

 

だが、
来る客層が
明らかに変わった。

以前のような
社交界の主役ではない。

商人。
職人。
学者。
名もない者。

そして――
一度、
 行進に参加し、
 途中で
 抜けてきた者たち。

 

その一人が、
夜遅く
店を訪れた。

「……失礼します」

声は、
どこか
疲れている。

「どうぞ」

ジェニュインは、
変わらぬ調子で
迎えた。

 

「今日、
 別の店に
 行きました」

「存じていますわ」

彼は、
苦笑した。

「……豪華でした。
 分かりやすくて、
 安心で」

「それは、
 良いことです」

「ええ。
 でも……」

 

彼は、
言葉を探す。

「……何も
 残らなかった」

 

その言葉は、
重かった。

「選んだはずなのに、
 選んだ気が
 しない」

「買ったのに、
 欲しかった気が
 しない」

 

ジェニュインは、
何も言わない。

ただ、
石の並ぶ棚を
示した。

 

彼は、
ゆっくりと歩き、
一つの石の前で
立ち止まる。

「……これ」

短い言葉。

「理由は?」

「……分かりません」

「それで
 結構ですわ」

 

支払いが済み、
石を受け取った彼は、
深く息を吐いた。

「……私は、
 行進していたのですね」

「ええ」

ジェニュインは、
静かに頷く。

「選ばれなかった者たちの
 行進です」

 

彼は、
小さく笑った。

「……でも、
 途中で
 抜けました」

「それは、
 勇気のある
 選択です」

 

翌日。

その“行進”は、
徐々に
崩れ始めた。

参加者が、
一人、
また一人と
欠けていく。

理由は、
誰も
口にしない。

 

ただ――
《オーセンティック》の
扉を、
夜に開ける
影が増えただけだ。

 

ジェニュインは、
帳簿を閉じ、
静かに呟く。

「行進は、
 いつも
 大きな音を立てます」

「ですが、
 本当に
 自分の足で
 歩く者は、
 音を立てません」

 

選ばれなかった者たちは、
声高に
自分を
正当化する。

だが――
その声が
途切れた時、
残るのは
静かな後悔だけだ。

 

石を売る女は、
誰も
引き留めなかった。

誰も
追いかけなかった。

ただ、
戻ってきた者に
同じように
扉を開いただけ。

 

その無言の姿勢こそが、
行進した者たちにとって
最も
耐えがたい
“ざまぁ”であることを――
彼らは、
歩き疲れた
その夜になって
ようやく
思い知るのだった。
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