石を売る女の意思 ――後にダイヤモンドクイーンと呼ばれる女の威信――

ふわふわ

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第20話 王家が値踏みされる日

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第20話 王家が値踏みされる日

 

《オーセンティック》という名が、
ついに
“王家の食卓”にまで
上るようになった。

それは、
噂としてではない。

議題として――
だ。

 

「……看過できぬな」

王城の執務室。
重厚な机を囲み、
王と重臣たちが
顔を揃えていた。

「一商人にすぎぬ女が、
 ここまで
 影響力を持つとは」

「民だけではありません」

宰相が、
静かに告げる。

「貴族社会の価値観が、
 揺らいでおります」

 

“価値観”。

その言葉が出た瞬間、
空気が
わずかに重くなった。

金の流れではない。
権力の所在でもない。

――判断の基準だ。

 

「鑑定不能の石、
 値段非公開、
 説明なし……」

別の重臣が
眉をひそめる。

「本来、
 王家が
 定めるべき価値を、
 彼女が
 勝手に
 作っている」

「作っている、
 のではありません」

宰相は、
言葉を選んだ。

「……委ねている、
 のです」

 

王は、
黙って
指先で机を叩いた。

「委ねる、か」

低い声。

「それが、
 これほど
 人を惹きつけるとはな」

 

その頃。

《オーセンティック》には、
いつもと変わらぬ
静けさが
流れていた。

だが――
店の外には、
明らかに
“違う気配”がある。

視線が多い。
数が多い。

「……警戒、
 されてますね」

店員が、
小声で言う。

「ええ」

ジェニュインは
落ち着いている。

「ついに、
 “上”が
 動き始めましたわ」

 

その予感は、
すぐに現実となった。

午後遅く。

店の扉が開き、
数人の人物が
入ってくる。

格式ある服装。
紋章付きの外套。

――王家の使者。

 

「ジェニュイン・オーセンティック侯爵令嬢」

先頭の男が、
形式的に名を呼ぶ。

「陛下より、
 お話がある」

「光栄ですわ」

ジェニュインは、
微笑み、
一礼した。

 

数日後。

彼女は、
王城へと
招かれていた。

豪奢な回廊。
磨き上げられた床。

だが、
ジェニュインの歩みは
揺るがない。

 

「……あなたが
 “石を売る女”か」

玉座の前。
王が、
直接言葉をかけた。

「はい」

「奇妙な商売を
 しているそうだな」

「そうでしょうか」

ジェニュインは、
穏やかに
問い返す。

 

「値段を
 明かさず、
 説明もせず……」

王は、
じっと
彼女を見る。

「それで、
 なぜ
 人が集まる?」

 

ジェニュインは、
一拍置いた。

「陛下は、
 なぜ
 王であられるのですか?」

 

重臣たちが
ざわめく。

だが、
王は
手で制した。

「……答えよ」

「血筋、
 制度、
 歴史」

ジェニュインは
静かに続ける。

「ですが――
 それらを
 一つ一つ
 説明されずとも、
 人は
 王を
 王として
 認めます」

 

「私の石も、
 同じです」

 

沈黙。

王は、
しばらく
彼女を見つめていた。

「……つまり、
 説明しないことが
 価値だと?」

「いいえ」

ジェニュインは
首を振る。

「説明しないのでは
 ありません」

「説明を
 要求しない者だけが
 辿り着く価値なのです」

 

その言葉に、
宰相が
小さく息を呑んだ。

 

「では、
 王家として
 どう扱うべきだ?」

王が問う。

「放置すれば、
 権威が
 揺らぐ」

 

ジェニュインは、
真っ直ぐに
答えた。

「揺らぐのは、
 権威ではありません」

「……?」

「値踏みする側だと
 思い込んでいた
 意識です」

 

「人々は、
 王家が
 価値を
 定めると
 信じてきました」

「ですが今、
 自分で
 選ぶことを
 覚え始めています」

 

王は、
静かに
笑った。

「……面白い」

その笑みは、
侮蔑でも、
怒りでもない。

「つまり、
 我らは
 値踏みされている、
 ということか」

 

「はい」

ジェニュインは
一切
目を逸らさなかった。

「王家が、
 どの価値を
 尊重するか――
 人々は
 見ています」

 

その場にいた
誰もが、
理解した。

これは、
脅しではない。

取引でもない。

――提示だ。

 

その日。

王家は、
《オーセンティック》に
干渉しないことを
正式に決めた。

理由は、
公には
語られない。

 

だが、
一つだけ
確かなことがある。

 

王家は、
石の価値を
決められなかった。

そして――
決められない自分たちを、
 初めて
 自覚した。

 

夜。

ジェニュインは、
店に戻り、
静かに
扉を閉めた。

「……王家でさえ、
 例外ではありませんわね」

 

価値を
与える者だと
信じていた者ほど、
価値を
問われる日が来る。

 

石を売る女は、
王家を
打ち倒したわけではない。

否定も
反逆も
していない。

ただ――
同じ天秤の上に
 置いただけ。

 

そして、
その天秤が
どちらを
測っていたのかを、
誰よりも
静かに
示したのだった。

それこそが、
この日、
王家が味わった
最も深い
“ざまぁ”であることを――
誰も
口に出して
言う必要はなかった。
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