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第29話 光を持たなかった石が、光を奪い始める
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第29話 光を持たなかった石が、光を奪い始める
最初の一粒は、
誰にも見せられなかった。
ジェニュインは、
それを
宝石とも、
商品とも、
呼ばなかった。
ただ――
結果とだけ
認識していた。
作業場の中央。
分厚い布の上に置かれたそれは、
指先ほどの大きさで、
無色透明。
だが、
これまでの
どの石とも違っていた。
「……」
職人たちは、
言葉を失っていた。
光を当てると、
反射するのではない。
内部で、
光が跳ね返っている。
「……これは……」
誰かが
喉を鳴らす。
切断線は、
一切ない。
刃で切った痕跡も、
角ばった面もない。
ただ、
滑らかに、
均一に、
研ぎ澄まされた
“面”。
「……宝石、
なのですか」
その問いに、
ジェニュインは
即答しなかった。
「いいえ」
しばらくして、
彼女は
静かに答える。
「まだ、
“石”です」
「ただ――」
彼女は、
原石だった頃の
欠片を
隣に並べた。
「この石は、
もう
価値がないとは
言えません」
沈黙。
「……どういう、
意味で?」
ジェニュインは、
小さく
微笑んだ。
「価値が
ないと言われてきた
理由は、
“使えない”
からでした」
「使えると
証明された瞬間、
評価は
反転します」
その言葉は、
確信だった。
数日後。
王都の
ごく一部で、
奇妙な噂が
囁かれ始める。
「……《オーセンティック》が、
何か
“光る石”を
作ったらしい」
「でも、
切ってない」
「削ってない?」
「ありえないだろ」
笑い話として
扱われた。
当然だ。
この世界では、
宝石とは
“切るもの”
だった。
だが、
笑い話は
長くは
続かなかった。
ある宝飾商が、
密かに
《オーセンティック》を
訪れた。
「……確認だけで
構いません」
「買うつもりは
ありません」
ジェニュインは、
何も
言わずに、
一粒だけ
布をめくった。
その瞬間。
「……」
商人の顔から、
血の気が
引いた。
「……これは……」
彼は、
宝石を
何十年と
見てきた。
偽物も、
誇張も、
詐欺も。
だが――
これは、
どれにも
該当しない。
「……切り面が
ないのに……」
光は、
逃げない。
内部に留まり、
角度を変えるたびに
深みを増す。
「……いくらです?」
ジェニュインは、
首を振った。
「売りません」
「……なぜ?」
「まだ、
“価値”が
定まっていません」
商人は、
震える声で
言った。
「……定まったら、
この国の
宝石は……」
「ええ」
ジェニュインは
遮らず、
肯定した。
「基準が
変わります」
その日から。
“切っていない宝石”の噂は、
王都の
裏側を
這うように
広がり始めた。
否定する者。
笑う者。
信じない者。
だが――
否定する者ほど、
見に来た。
フォージェリ・ノックオフも、
例外ではなかった。
「……ふざけた話だ」
彼は、
そう言いながらも
落ち着かなかった。
「切れない石が
宝石になる?」
「そんなはずが
ない……」
だが、
胸の奥で、
別の声が
囁いていた。
――まただ。
――また、
見誤っている。
彼は、
かつて
ガラスを
石ころと呼び、
彼女を
詐欺師と
断じた。
そして今。
再び、
“石”を
笑っている。
「……違う」
彼は
自分に
言い聞かせる。
「今回は、
違う」
だが、
違わなかった。
《オーセンティック》では、
次の工程に
入っていた。
「……量産は
まだです」
ジェニュインは
指示する。
「価値を
固めるまでは」
「価値を……
固める?」
「ええ」
彼女は、
完成品を
見つめながら
言った。
「これは、
石では
ありません」
「“基準”です」
誰かが
息を呑む。
「この基準が
世に出た瞬間、
“切れない”は
欠点では
なくなります」
「むしろ――」
彼女は、
はっきりと
言い切った。
「切れる石の方が、
価値を
問われる側に
回ります」
その言葉は、
予言だった。
まだ、
王家も、
貴族も、
市場も、
何も
気づいていない。
だが――
光を持たなかった石は、
静かに、
確実に、
世界の光を
奪い始めていた。
そして、
それを
最初に
失うのは――
いつも、
笑った者
なのだ。
最初の一粒は、
誰にも見せられなかった。
ジェニュインは、
それを
宝石とも、
商品とも、
呼ばなかった。
ただ――
結果とだけ
認識していた。
作業場の中央。
分厚い布の上に置かれたそれは、
指先ほどの大きさで、
無色透明。
だが、
これまでの
どの石とも違っていた。
「……」
職人たちは、
言葉を失っていた。
光を当てると、
反射するのではない。
内部で、
光が跳ね返っている。
「……これは……」
誰かが
喉を鳴らす。
切断線は、
一切ない。
刃で切った痕跡も、
角ばった面もない。
ただ、
滑らかに、
均一に、
研ぎ澄まされた
“面”。
「……宝石、
なのですか」
その問いに、
ジェニュインは
即答しなかった。
「いいえ」
しばらくして、
彼女は
静かに答える。
「まだ、
“石”です」
「ただ――」
彼女は、
原石だった頃の
欠片を
隣に並べた。
「この石は、
もう
価値がないとは
言えません」
沈黙。
「……どういう、
意味で?」
ジェニュインは、
小さく
微笑んだ。
「価値が
ないと言われてきた
理由は、
“使えない”
からでした」
「使えると
証明された瞬間、
評価は
反転します」
その言葉は、
確信だった。
数日後。
王都の
ごく一部で、
奇妙な噂が
囁かれ始める。
「……《オーセンティック》が、
何か
“光る石”を
作ったらしい」
「でも、
切ってない」
「削ってない?」
「ありえないだろ」
笑い話として
扱われた。
当然だ。
この世界では、
宝石とは
“切るもの”
だった。
だが、
笑い話は
長くは
続かなかった。
ある宝飾商が、
密かに
《オーセンティック》を
訪れた。
「……確認だけで
構いません」
「買うつもりは
ありません」
ジェニュインは、
何も
言わずに、
一粒だけ
布をめくった。
その瞬間。
「……」
商人の顔から、
血の気が
引いた。
「……これは……」
彼は、
宝石を
何十年と
見てきた。
偽物も、
誇張も、
詐欺も。
だが――
これは、
どれにも
該当しない。
「……切り面が
ないのに……」
光は、
逃げない。
内部に留まり、
角度を変えるたびに
深みを増す。
「……いくらです?」
ジェニュインは、
首を振った。
「売りません」
「……なぜ?」
「まだ、
“価値”が
定まっていません」
商人は、
震える声で
言った。
「……定まったら、
この国の
宝石は……」
「ええ」
ジェニュインは
遮らず、
肯定した。
「基準が
変わります」
その日から。
“切っていない宝石”の噂は、
王都の
裏側を
這うように
広がり始めた。
否定する者。
笑う者。
信じない者。
だが――
否定する者ほど、
見に来た。
フォージェリ・ノックオフも、
例外ではなかった。
「……ふざけた話だ」
彼は、
そう言いながらも
落ち着かなかった。
「切れない石が
宝石になる?」
「そんなはずが
ない……」
だが、
胸の奥で、
別の声が
囁いていた。
――まただ。
――また、
見誤っている。
彼は、
かつて
ガラスを
石ころと呼び、
彼女を
詐欺師と
断じた。
そして今。
再び、
“石”を
笑っている。
「……違う」
彼は
自分に
言い聞かせる。
「今回は、
違う」
だが、
違わなかった。
《オーセンティック》では、
次の工程に
入っていた。
「……量産は
まだです」
ジェニュインは
指示する。
「価値を
固めるまでは」
「価値を……
固める?」
「ええ」
彼女は、
完成品を
見つめながら
言った。
「これは、
石では
ありません」
「“基準”です」
誰かが
息を呑む。
「この基準が
世に出た瞬間、
“切れない”は
欠点では
なくなります」
「むしろ――」
彼女は、
はっきりと
言い切った。
「切れる石の方が、
価値を
問われる側に
回ります」
その言葉は、
予言だった。
まだ、
王家も、
貴族も、
市場も、
何も
気づいていない。
だが――
光を持たなかった石は、
静かに、
確実に、
世界の光を
奪い始めていた。
そして、
それを
最初に
失うのは――
いつも、
笑った者
なのだ。
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