30 / 40
第30話 宝石の王が生まれる日
しおりを挟む
第30話 宝石の王が生まれる日
王都の宝飾商会に、
不穏な沈黙が落ちた。
それは、
不況でも、
戦争の兆しでもない。
――基準が揺らいだ音だった。
「……最近、
ダイヤの
取引価格が
動いていません」
若い商人が
恐る恐る
報告する。
「動いていない?」
年配の商会長が
眉をひそめる。
「下がっても
上がっても
いない?」
「はい。
買い手が、
“様子見”を
始めています」
その理由は、
誰も
口にしなかった。
だが、
全員が
知っていた。
――《オーセンティック》。
切っていない宝石。
切れない石。
磨かれただけの
光。
「……正式な
発表は?」
「まだです」
商会長は、
深く
息を吐いた。
「発表もないのに
市場が
反応するとは……」
それは、
恐怖の
兆候だった。
同じ頃。
王宮の
奥深く。
財務を司る
高官が、
一枚の
報告書を
見つめていた。
「……ダイヤモンドの
独占採掘権」
そこに
記された
所有者の名を見て、
彼は
眉を
しかめる。
「……また、
あの女か」
ガラス。
石。
価値の
定義。
彼女は、
いつも
“市場の外側”から
世界を
殴りつける。
「……王に
報告すべき
段階だな」
王宮が
動き始めた
その日。
ジェニュインは、
静かに
次の準備を
整えていた。
「……展示会、
ですか?」
「ええ」
彼女は
頷く。
「売りません」
「説明もしません」
「では、
何を?」
「“見せる”だけです」
数日後。
王都の
上流階級向けに、
招待状が
送られた。
――
《オーセンティック》
非公開展示会
出品点数:一
販売:なし
ざわめきが
広がった。
「売らない?」
「一つだけ?」
「……随分と
強気だな」
その会場には、
貴族、
商人、
王族の
側近まで
顔を揃えた。
そして――
布が、
めくられる。
「……」
息を呑む音が、
確かに
聞こえた。
それは、
切っていない。
だが、
どの宝石よりも
強く
光を集めていた。
「……王冠に
使える」
誰かが
呟く。
「いや……
王冠が
負ける」
ジェニュインは、
その言葉を
否定も
肯定も
しなかった。
ただ、
一言だけ
告げる。
「この石は、
ダイヤモンドです」
ざわり、と
空気が
揺れた。
「……ダイヤ?」
「硬いだけで
価値がないと
言われてきた石?」
「ええ」
彼女は
淡々と
続ける。
「硬いからこそ
摩耗しない」
「摩耗しないからこそ
永遠を
保つ」
「宝石に
必要なのは、
“切れること”
でしょうか?」
「それとも――」
彼女は、
展示された
一点を
見つめる。
「時を
越えて
残ること
でしょうか」
誰も、
反論できなかった。
その場にいた
王族の側近が、
静かに
口を開く。
「……王は、
この石を
見たがっています」
「売りません」
ジェニュインは
即答した。
「……寄贈なら?」
「致しません」
沈黙。
「では……
どうすれば?」
ジェニュインは、
初めて
微笑んだ。
「価値を
認めて
ください」
「それだけで
十分です」
その日。
王都の
宝石の
序列が
書き換えられた。
ダイヤモンドは、
もはや
“硬いだけの石”
ではない。
宝石の王として、
市場に
君臨した。
フォージェリ・ノックオフは、
その報を
屋敷で
聞いた。
「……宝石の、
王……?」
彼の
手元には、
かつて
“珍しい石”として
売り出した
在庫。
美しい。
希少。
だが――
基準が、
変わった。
「……なぜだ」
彼は、
呟く。
「なぜ、
あの女は……」
答えは
単純だ。
彼女は、
石を
見ていた。
彼は、
値札しか
見ていなかった。
この日。
宝石の王が
生まれた。
そして同時に――
多くの“宝石商”が、
過去の王として
終わった日
でもあった。
王都の宝飾商会に、
不穏な沈黙が落ちた。
それは、
不況でも、
戦争の兆しでもない。
――基準が揺らいだ音だった。
「……最近、
ダイヤの
取引価格が
動いていません」
若い商人が
恐る恐る
報告する。
「動いていない?」
年配の商会長が
眉をひそめる。
「下がっても
上がっても
いない?」
「はい。
買い手が、
“様子見”を
始めています」
その理由は、
誰も
口にしなかった。
だが、
全員が
知っていた。
――《オーセンティック》。
切っていない宝石。
切れない石。
磨かれただけの
光。
「……正式な
発表は?」
「まだです」
商会長は、
深く
息を吐いた。
「発表もないのに
市場が
反応するとは……」
それは、
恐怖の
兆候だった。
同じ頃。
王宮の
奥深く。
財務を司る
高官が、
一枚の
報告書を
見つめていた。
「……ダイヤモンドの
独占採掘権」
そこに
記された
所有者の名を見て、
彼は
眉を
しかめる。
「……また、
あの女か」
ガラス。
石。
価値の
定義。
彼女は、
いつも
“市場の外側”から
世界を
殴りつける。
「……王に
報告すべき
段階だな」
王宮が
動き始めた
その日。
ジェニュインは、
静かに
次の準備を
整えていた。
「……展示会、
ですか?」
「ええ」
彼女は
頷く。
「売りません」
「説明もしません」
「では、
何を?」
「“見せる”だけです」
数日後。
王都の
上流階級向けに、
招待状が
送られた。
――
《オーセンティック》
非公開展示会
出品点数:一
販売:なし
ざわめきが
広がった。
「売らない?」
「一つだけ?」
「……随分と
強気だな」
その会場には、
貴族、
商人、
王族の
側近まで
顔を揃えた。
そして――
布が、
めくられる。
「……」
息を呑む音が、
確かに
聞こえた。
それは、
切っていない。
だが、
どの宝石よりも
強く
光を集めていた。
「……王冠に
使える」
誰かが
呟く。
「いや……
王冠が
負ける」
ジェニュインは、
その言葉を
否定も
肯定も
しなかった。
ただ、
一言だけ
告げる。
「この石は、
ダイヤモンドです」
ざわり、と
空気が
揺れた。
「……ダイヤ?」
「硬いだけで
価値がないと
言われてきた石?」
「ええ」
彼女は
淡々と
続ける。
「硬いからこそ
摩耗しない」
「摩耗しないからこそ
永遠を
保つ」
「宝石に
必要なのは、
“切れること”
でしょうか?」
「それとも――」
彼女は、
展示された
一点を
見つめる。
「時を
越えて
残ること
でしょうか」
誰も、
反論できなかった。
その場にいた
王族の側近が、
静かに
口を開く。
「……王は、
この石を
見たがっています」
「売りません」
ジェニュインは
即答した。
「……寄贈なら?」
「致しません」
沈黙。
「では……
どうすれば?」
ジェニュインは、
初めて
微笑んだ。
「価値を
認めて
ください」
「それだけで
十分です」
その日。
王都の
宝石の
序列が
書き換えられた。
ダイヤモンドは、
もはや
“硬いだけの石”
ではない。
宝石の王として、
市場に
君臨した。
フォージェリ・ノックオフは、
その報を
屋敷で
聞いた。
「……宝石の、
王……?」
彼の
手元には、
かつて
“珍しい石”として
売り出した
在庫。
美しい。
希少。
だが――
基準が、
変わった。
「……なぜだ」
彼は、
呟く。
「なぜ、
あの女は……」
答えは
単純だ。
彼女は、
石を
見ていた。
彼は、
値札しか
見ていなかった。
この日。
宝石の王が
生まれた。
そして同時に――
多くの“宝石商”が、
過去の王として
終わった日
でもあった。
0
あなたにおすすめの小説
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
旦那様、本当によろしいのですか?【完結】
翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。
なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。
そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、
「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」
突然夫にそう告げられた。
夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。
理由も理不尽。だが、ロザリアは、
「旦那様、本当によろしいのですか?」
そういつもの微笑みを浮かべていた。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる