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第31話 王家が動く、価値を持たぬはずの女のために
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第31話 王家が動く、価値を持たぬはずの女のために
宝石の王が生まれた日から、
王都の空気は、はっきりと変わった。
それまで市場を支配していたのは、
宝石商会でも、貴族でもない。
――王家だった。
だが今、
その王家でさえ、
“様子を見る側”に回っている。
「……このまま放置するのは、
危険ではありませんか」
王宮の会議室。
重厚な扉の向こうで、
財務卿が低い声で切り出した。
「ダイヤモンドの価格は、
安定しているどころか、
他の宝石の価値を
圧迫し始めています」
「原因は明白です」
別の高官が続ける。
「ジェニュイン・オーセンティック侯爵令嬢」
その名が出た瞬間、
場の空気が一段、重くなった。
「……商人の娘に過ぎなかった女だ」
軍務卿が不快そうに言う。
「石を拾い、
石を売り、
石で国の宝飾産業を
揺るがしている」
「しかも――」
財務卿が資料をめくる。
「ダイヤモンドの採掘権、
加工技術、
流通経路。
すべて、
彼女の管理下です」
「王家ですら、
彼女を通さずに
ダイヤモンドを
手に入れられない」
沈黙。
それは、
国家として
看過できる状況ではない。
「……圧力をかけるか?」
その言葉に、
誰も即答しなかった。
「無理です」
低く、
しかしはっきりと
否定したのは、
外務卿だった。
「彼女の石は、
すでに国外でも
話題になっています」
「下手に動けば、
“王家が新しい価値を
潰した”と
受け取られかねない」
「……では、
どうする?」
答えは、
一つしかなかった。
「……正式に、
接触します」
その決定は、
即日実行に移された。
数日後。
《オーセンティック》に、
王家の紋章が刻まれた
使者が訪れる。
「……王より、
ご招待申し上げます」
応接室で、
その言葉を聞いた
店員は、
息を呑んだ。
「王宮へ……?」
ジェニュインは、
紅茶を置き、
静かに頷いた。
「承りました」
「……おそれながら」
使者が言葉を選ぶ。
「今回の件は、
あくまで
“意見交換”という形で……」
「ええ」
彼女は微笑む。
「私も、
そのつもりです」
王宮。
豪奢な広間で、
ジェニュインは
王と対面した。
「……久しいな、
石を売る女」
その呼び方に、
嘲りはない。
だが、
完全な敬意も
まだない。
「陛下」
彼女は
礼を尽くす。
「貴女は、
ダイヤモンドを
宝石の王に
押し上げた」
「はい」
「だが――」
王は、
まっすぐ
彼女を見る。
「その結果、
王家は
貴女を
無視できなくなった」
それは、
牽制であり、
同時に
敗北宣言だった。
「私は、
王家に
敵対するつもりは
ございません」
ジェニュインは
落ち着いて答える。
「ただ、
石の価値を
正しく
扱っただけです」
「……では、
王家に
何を求める?」
彼女は、
一瞬だけ
考え、
そして言った。
「干渉なさらないこと」
場が、
凍りついた。
「……それだけか?」
「ええ」
「独占も、
献上も、
要求しない?」
「致しません」
ジェニュインは
まっすぐ
王を見返す。
「価値は、
押さえつけると
歪みます」
「歪んだ価値は、
必ず
国を壊します」
沈黙。
王は、
しばらく
彼女を見つめ、
そして――
小さく笑った。
「……石ころを
拾っていた娘が、
随分と
大きなことを
言うようになった」
「しかし」
「否定は、
できぬな」
その場で、
一つの合意が
交わされた。
王家は、
ジェニュインの
事業に介入しない。
代わりに――
彼女は、
王家の宝飾に
“助言”を行う。
支配でも、
服従でもない。
対等な関係。
王宮を出た後、
店員が
震える声で言った。
「……私たち、
王家と
並んだのですか?」
ジェニュインは、
首を振る。
「いいえ」
「王家が、
私たちの後ろを
歩き始めただけです」
その言葉は、
傲慢ではない。
事実だった。
この日、
ジェニュイン・オーセンティックは、
“商人”でも、
“侯爵令嬢”でもなくなった。
価値そのものとして、
王家の前に
立ったのだった。
宝石の王が生まれた日から、
王都の空気は、はっきりと変わった。
それまで市場を支配していたのは、
宝石商会でも、貴族でもない。
――王家だった。
だが今、
その王家でさえ、
“様子を見る側”に回っている。
「……このまま放置するのは、
危険ではありませんか」
王宮の会議室。
重厚な扉の向こうで、
財務卿が低い声で切り出した。
「ダイヤモンドの価格は、
安定しているどころか、
他の宝石の価値を
圧迫し始めています」
「原因は明白です」
別の高官が続ける。
「ジェニュイン・オーセンティック侯爵令嬢」
その名が出た瞬間、
場の空気が一段、重くなった。
「……商人の娘に過ぎなかった女だ」
軍務卿が不快そうに言う。
「石を拾い、
石を売り、
石で国の宝飾産業を
揺るがしている」
「しかも――」
財務卿が資料をめくる。
「ダイヤモンドの採掘権、
加工技術、
流通経路。
すべて、
彼女の管理下です」
「王家ですら、
彼女を通さずに
ダイヤモンドを
手に入れられない」
沈黙。
それは、
国家として
看過できる状況ではない。
「……圧力をかけるか?」
その言葉に、
誰も即答しなかった。
「無理です」
低く、
しかしはっきりと
否定したのは、
外務卿だった。
「彼女の石は、
すでに国外でも
話題になっています」
「下手に動けば、
“王家が新しい価値を
潰した”と
受け取られかねない」
「……では、
どうする?」
答えは、
一つしかなかった。
「……正式に、
接触します」
その決定は、
即日実行に移された。
数日後。
《オーセンティック》に、
王家の紋章が刻まれた
使者が訪れる。
「……王より、
ご招待申し上げます」
応接室で、
その言葉を聞いた
店員は、
息を呑んだ。
「王宮へ……?」
ジェニュインは、
紅茶を置き、
静かに頷いた。
「承りました」
「……おそれながら」
使者が言葉を選ぶ。
「今回の件は、
あくまで
“意見交換”という形で……」
「ええ」
彼女は微笑む。
「私も、
そのつもりです」
王宮。
豪奢な広間で、
ジェニュインは
王と対面した。
「……久しいな、
石を売る女」
その呼び方に、
嘲りはない。
だが、
完全な敬意も
まだない。
「陛下」
彼女は
礼を尽くす。
「貴女は、
ダイヤモンドを
宝石の王に
押し上げた」
「はい」
「だが――」
王は、
まっすぐ
彼女を見る。
「その結果、
王家は
貴女を
無視できなくなった」
それは、
牽制であり、
同時に
敗北宣言だった。
「私は、
王家に
敵対するつもりは
ございません」
ジェニュインは
落ち着いて答える。
「ただ、
石の価値を
正しく
扱っただけです」
「……では、
王家に
何を求める?」
彼女は、
一瞬だけ
考え、
そして言った。
「干渉なさらないこと」
場が、
凍りついた。
「……それだけか?」
「ええ」
「独占も、
献上も、
要求しない?」
「致しません」
ジェニュインは
まっすぐ
王を見返す。
「価値は、
押さえつけると
歪みます」
「歪んだ価値は、
必ず
国を壊します」
沈黙。
王は、
しばらく
彼女を見つめ、
そして――
小さく笑った。
「……石ころを
拾っていた娘が、
随分と
大きなことを
言うようになった」
「しかし」
「否定は、
できぬな」
その場で、
一つの合意が
交わされた。
王家は、
ジェニュインの
事業に介入しない。
代わりに――
彼女は、
王家の宝飾に
“助言”を行う。
支配でも、
服従でもない。
対等な関係。
王宮を出た後、
店員が
震える声で言った。
「……私たち、
王家と
並んだのですか?」
ジェニュインは、
首を振る。
「いいえ」
「王家が、
私たちの後ろを
歩き始めただけです」
その言葉は、
傲慢ではない。
事実だった。
この日、
ジェニュイン・オーセンティックは、
“商人”でも、
“侯爵令嬢”でもなくなった。
価値そのものとして、
王家の前に
立ったのだった。
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