32 / 40
第32話 偽物の石は砕け、本物の価値だけが残る
しおりを挟む
第32話 偽物の石は砕け、本物の価値だけが残る
王家との会談が終わった翌日から、
王都の“空気”は、さらに露骨に変わった。
それは、
ジェニュインが王宮に呼ばれた、
という事実そのものより――
王家が、何も奪わず、何も命じなかった
という点にあった。
「……つまり、
王家は
《オーセンティック》を
認めたということか」
宝飾商会の一室で、
誰かがそう呟く。
「認めた、というより……」
別の商人が
苦々しく言葉を継ぐ。
「“逆らえない”と
判断したんだろう」
その評価は、
的確だった。
王家が介入しないと宣言した瞬間、
市場は
“保護”を失った。
――価値の保証を、
誰もしてくれなくなったのだ。
その影響を、
真っ先に受けたのは――
第二部で石を売っていた者たちだった。
「……なぜ、
売れない?」
フォージェリ・ノックオフは、
店の帳簿を
睨みつけていた。
彼の扱う石は、
美しい。
希少だ。
珍しい。
だが――
宝石ではない。
かつては、
それで十分だった。
「宝石ではないが、
価値はある」
そう説明すれば、
貴婦人たちは
“分かっている自分”を
演出するために
購入した。
だが今は違う。
「……ダイヤモンドと
比べられる」
それが、
致命的だった。
「これは、
どれくらい
長く光を保ちますの?」
貴婦人の問いに、
フォージェリは
答えられない。
「……経年で、
色味が
変わる可能性は……」
「では、
やめておきますわ」
その一言で、
取引は終わる。
以前なら、
“物珍しさ”が
価値だった。
だが今は、
永遠性が
基準になっていた。
フォージェリは、
歯を食いしばる。
「……なぜだ」
彼は、
確かに
嘘はついていない。
「これは石だ」
そう説明して
売っていた。
だが――
ジェニュインは、
嘘をつかなかった上で、
基準そのものを
塗り替えた。
その差は、
残酷だった。
同じ頃。
シャロウ・フラッシー伯爵令嬢も、
社交界で
立場を失いつつあった。
「……あの方、
最近
見かけませんわね」
「ええ。
以前は
石の話で
持ちきりでしたのに」
彼女は、
ジェニュインを
貶めた時のことを
何度も
思い出していた。
――河原で拾った石。
――詐欺師。
――見る目がない女。
その言葉は、
すべて
自分に返ってきている。
「……どうして」
シャロウは、
鏡の前で
呟く。
「どうして、
あの女だけ……」
答えは、
誰も
教えてくれない。
なぜなら、
答えは
最初から
見えていたからだ。
ジェニュインは、
“価値を説明”しなかった。
彼女は、
価値が残る形を
作った。
その差が、
今、
すべてを
分けている。
《オーセンティック》では、
新しい依頼が
山のように
積まれていた。
「……これは、
宝飾家から?」
「はい。
“既存の宝石を
ダイヤモンド基準で
再評価したい”
とのことです」
ジェニュインは、
軽く息を吐く。
「……基準は、
広がり始めましたね」
だが、
彼女は
浮かれない。
「価値が
生まれた時、
必ず
“偽物”が
現れます」
「……偽物?」
「ダイヤモンドに
似せた石」
「永遠を
謳いながら、
実際には
摩耗する商品」
彼女は、
静かに
言い切った。
「それらは、
必ず
自滅します」
「なぜなら――」
「本物の価値は、
説明を
必要としないから」
その予言は、
間もなく
現実になる。
市場には、
“新しい宝石”を
名乗る品が
溢れ始めていた。
だが、
ひとつ、
またひとつと――
砕けていく。
光を保てず。
信用を失い。
値を落とし。
最後に残るのは、
いつも
同じものだ。
永遠を
裏切らないもの。
そして――
それを
最初に示した女。
ジェニュイン・オーセンティックは、
今日も
店の奥で
静かに石を見ていた。
もう、
誰も
彼女を
「石を売る女」とは
呼ばない。
今や彼女は――
石を選別する側に
立っていた。
価値を
語る者ではない。
価値を、
残す者だった。
王家との会談が終わった翌日から、
王都の“空気”は、さらに露骨に変わった。
それは、
ジェニュインが王宮に呼ばれた、
という事実そのものより――
王家が、何も奪わず、何も命じなかった
という点にあった。
「……つまり、
王家は
《オーセンティック》を
認めたということか」
宝飾商会の一室で、
誰かがそう呟く。
「認めた、というより……」
別の商人が
苦々しく言葉を継ぐ。
「“逆らえない”と
判断したんだろう」
その評価は、
的確だった。
王家が介入しないと宣言した瞬間、
市場は
“保護”を失った。
――価値の保証を、
誰もしてくれなくなったのだ。
その影響を、
真っ先に受けたのは――
第二部で石を売っていた者たちだった。
「……なぜ、
売れない?」
フォージェリ・ノックオフは、
店の帳簿を
睨みつけていた。
彼の扱う石は、
美しい。
希少だ。
珍しい。
だが――
宝石ではない。
かつては、
それで十分だった。
「宝石ではないが、
価値はある」
そう説明すれば、
貴婦人たちは
“分かっている自分”を
演出するために
購入した。
だが今は違う。
「……ダイヤモンドと
比べられる」
それが、
致命的だった。
「これは、
どれくらい
長く光を保ちますの?」
貴婦人の問いに、
フォージェリは
答えられない。
「……経年で、
色味が
変わる可能性は……」
「では、
やめておきますわ」
その一言で、
取引は終わる。
以前なら、
“物珍しさ”が
価値だった。
だが今は、
永遠性が
基準になっていた。
フォージェリは、
歯を食いしばる。
「……なぜだ」
彼は、
確かに
嘘はついていない。
「これは石だ」
そう説明して
売っていた。
だが――
ジェニュインは、
嘘をつかなかった上で、
基準そのものを
塗り替えた。
その差は、
残酷だった。
同じ頃。
シャロウ・フラッシー伯爵令嬢も、
社交界で
立場を失いつつあった。
「……あの方、
最近
見かけませんわね」
「ええ。
以前は
石の話で
持ちきりでしたのに」
彼女は、
ジェニュインを
貶めた時のことを
何度も
思い出していた。
――河原で拾った石。
――詐欺師。
――見る目がない女。
その言葉は、
すべて
自分に返ってきている。
「……どうして」
シャロウは、
鏡の前で
呟く。
「どうして、
あの女だけ……」
答えは、
誰も
教えてくれない。
なぜなら、
答えは
最初から
見えていたからだ。
ジェニュインは、
“価値を説明”しなかった。
彼女は、
価値が残る形を
作った。
その差が、
今、
すべてを
分けている。
《オーセンティック》では、
新しい依頼が
山のように
積まれていた。
「……これは、
宝飾家から?」
「はい。
“既存の宝石を
ダイヤモンド基準で
再評価したい”
とのことです」
ジェニュインは、
軽く息を吐く。
「……基準は、
広がり始めましたね」
だが、
彼女は
浮かれない。
「価値が
生まれた時、
必ず
“偽物”が
現れます」
「……偽物?」
「ダイヤモンドに
似せた石」
「永遠を
謳いながら、
実際には
摩耗する商品」
彼女は、
静かに
言い切った。
「それらは、
必ず
自滅します」
「なぜなら――」
「本物の価値は、
説明を
必要としないから」
その予言は、
間もなく
現実になる。
市場には、
“新しい宝石”を
名乗る品が
溢れ始めていた。
だが、
ひとつ、
またひとつと――
砕けていく。
光を保てず。
信用を失い。
値を落とし。
最後に残るのは、
いつも
同じものだ。
永遠を
裏切らないもの。
そして――
それを
最初に示した女。
ジェニュイン・オーセンティックは、
今日も
店の奥で
静かに石を見ていた。
もう、
誰も
彼女を
「石を売る女」とは
呼ばない。
今や彼女は――
石を選別する側に
立っていた。
価値を
語る者ではない。
価値を、
残す者だった。
0
あなたにおすすめの小説
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
お前との婚約は、ここで破棄する!
もちもちほっぺ
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話
rifa
恋愛
今まで虐げられ続けて育ち、愛を忘れてしまった男爵令嬢のミレー。
彼女の義妹・アリサは、社交パーティーで出会ったオリヴァーという公爵家の息子に魅了され、ミレーという義姉がいることを一層よく思わないようになる。
そこでミレーを暴漢に襲わせ、あわよくば亡き者にしようと企んでいたが、それを下町に住むグランという青年に助けられ失敗し、ミレーはグランの家で保護され、そのまま一緒に暮らすようになる。
そしてそのグランこそがアリサが結婚を望んだオリヴァーであり、ミレーと婚約することになる男性だった。
やがてグランが実は公爵家の人間であったと知ったミレーは、公爵家でオリヴァーの婚約者として暮らすことになる。
だが、ミレーを虐げ傷つけてきたアリサたちを許しはしないと、オリヴァーは密かに仕返しを目論んでいた。
※アリサは最後痛い目を見るので、アリサのファンは閲覧をオススメしません。
【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。
奪われた婚約から、奪わない国をつくりました
しおしお
恋愛
「お姉様の婚約は、私がいただきますわ」
そう告げられた日、すべてが奪われた。
王太子との婚約。
王妃になるはずだった未来。
築いてきた立場。
義妹に婚約を奪われ、社交界から静かに退いた公爵令嬢アイリス。
誰も幸せになれなかったその選択の後、彼女が選んだのは――争わないこと。
王宮を奪い返すのでも、復讐するのでもない。
代わりに彼女は、港町で“揺れない制度”をつくり始める。
例外なし。
遅延なし。
特別扱いなし。
ただ積み上げるだけの約束が、やがて王国を支える土台になっていく。
一方、婚約を奪った義妹と王太子は、王宮という守る側に立つことになる。
奪う物語ではなく、積み上げる物語。
王妃の冠よりも重いものとは何か。
静かに、しかし確実に重心が移っていく王国で、それぞれが選ぶ“幸せのかたち”とは――。
婚約破棄から始まる、復讐ではない逆転劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる