『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

ふわふわ

文字の大きさ
17 / 39

第十八話 削られていく権限

しおりを挟む
第十八話 削られていく権限

 第一王子レオンの席は、まだ議場の中央にある。

 だが中央にあるというだけで、中心ではない。

 それが今の王宮の現実だった。

 本日の議題は南方属州の徴税制度改正。

 属州総督からの報告書が机上に積まれている。

 財務卿が説明を終えると、国王は短く言った。

「王太子女」

 わたくしが資料を閉じる。

「徴税の一部を定額制へ移行いたします。徴収の安定と不正防止が目的です」

 外務卿、軍務卿、教会代表――皆が頷く。

 そのとき、第一王子が口を開いた。

「属州の反発を招く」

 声は低い。

「急激な制度変更は混乱を生む」

「段階移行です」

 わたくしは淡々と返す。

「三年で完全移行」

 彼の眉がわずかに動く。

 三年。

 それは、かつて彼が交易で求めた期間。

「また三年か」

 皮肉でも怒りでもない。

 ただ、諦めに近い響き。

 財務卿が静かに言う。

「王太子女殿下の案は、属州総督と事前調整済みです」

 第一王子は初耳だった。

「事前に?」

「はい」

 わたくしは説明する。

「反発を抑えるため、補助金と引き換えに合意を取りました」

 第一王子の指先が机を叩く。

「私には報告がなかった」

 国王が視線を向ける。

「政務権限は王太子女に委ねている」

 言外の意味は明白。

 報告義務はない。

 会議は進む。

 決定は迅速。

 署名はわたくし。

 第一王子は立場上、同席するだけ。

 午後、軍務卿が来訪する。

「北方道路建設、順調です」

「ありがとうございます」

 第一王子の名は出ない。

 廊下で、かつて第一王子付きだった侍従がわたくしに礼をする。

「殿下の政務、実に明快でございます」

 言葉は丁寧だが、忠誠の向きは変わっている。

 第一王子の執務室。

 彼の机には、未決裁の書類が少ない。

 以前は山積みだった。

 今は形式的な確認のみ。

 彼は紙をめくる。

「これは私が判断する事項か」

 侍従が答える。

「最終決裁は王太子女殿下でございます」

 彼は無言で頷く。

 夕刻、教会から書簡が届く。

 王太子女による属州改革、教会も支持。

 第一王子はそれを読み、静かに机へ置く。

 反対する余地はない。

 教会は中立だが、合理的な方へ寄る。

 夜、わたくしは近衛騎士団長と共に庭を歩く。

「殿下」

「何でしょう」

「第一王子は……」

「王子であられます」

 それ以上でも、それ以下でもない。

 廃嫡ではない。

 しかし、権限は削られていく。

 会議に出席する。

 意見を言う。

 だが事前調整は知らされない。

 決定は委ねられない。

 署名は回ってこない。

 王宮は整っていく。

 制度は改まり、税収は安定し、軍備は進む。

 王国は前へ進む。

 第一王子を必要とせずに。

 飼い殺しとは、監禁ではない。

 削減だ。

 役割を少しずつ削り、
 権限を静かに削り、
 影響力を削り取る。

 気づけば、立場だけが残る。

 第一王子はまだそこにいる。

 だが、王国はもう彼を中心に回っていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

毒家族から逃亡、のち側妃

チャイムン
恋愛
四歳下の妹ばかり可愛がる両親に「あなたにかけるお金はないから働きなさい」 十二歳で告げられたベルナデットは、自立と家族からの脱却を夢見る。 まずは王立学院に奨学生として入学して、文官を目指す。 夢は自分で叶えなきゃ。 ところが妹への縁談話がきっかけで、バシュロ第一王子が動き出す。

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)

処理中です...