『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

ふわふわ

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第三十五話 告白

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第三十五話 告白

 即位式まで、あと二週間。

 王宮の空気は、張り詰めているわけではない。
 むしろ穏やかだ。

 移行が自然であればあるほど、騒ぎは起きない。

 夕刻、王太子女ルシアは近衛騎士団長アデルベルトに呼び止められた。

「少し、お時間をいただけますか」

 彼の声はいつも通り低く、抑えられている。

 場所は中庭の石廊。

 人目はあるが、距離もある。

 警護という名目で並び立つことに、不自然さはない。

「式典警備は順調です」

 アデルベルトはまず職務を報告する。

「各門の配置も確認済み。動線も確定しております」

「ありがとう。安心しました」

 短い沈黙。

 風が庭木を揺らす。

 彼は一歩だけ距離を詰める。

「……殿下が王位に就かれる日を、私は待っておりました」

 唐突ではない。

 だが私的な言葉。

 ルシアは視線を上げる。

「騎士団長として?」

「それもございます」

 彼は真っ直ぐに言う。

「ですが、それだけではありません」

 彼は幼少の頃から彼女を知っている。

 秘匿されていた王女の存在を、極限られた者として守ってきた。

 血統が公にならぬ時代も、陰で警護していた。

「殿下が立たれる場所は、常に中央であるべきでした」

 それは忠誠の言葉。

 だが同時に、個人的な願い。

「私は、殿下の御世を支えたい」

 “御世”。

 すでに未来を前提とした言葉。

 ルシアは静かに微笑む。

「支えていただいています」

「それでは足りません」

 声はわずかに震える。

 騎士が、感情をにじませる。

「私は……殿下をお守りするだけでなく、共に歩みたい」

 告白。

 飾らない。

 熱もない。

 ただ確かな意志。

 王位と同時に、人生を共にする覚悟。

 ルシアは答えを急がない。

 即位前夜ではない。

 まだ王太子女。

 だが未来は見えている。

「即位が終わるまで、待ってください」

 彼女は言う。

「その後、改めてお話ししましょう」

 否定ではない。

 拒絶でもない。

 未来を前提にした返答。

 アデルベルトは深く頭を下げる。

「御意」

 その姿は騎士そのもの。

 一方、遠くの回廊から第一王子レオンがその光景を見る。

 二人が並ぶ姿。

 親密さは感じ取れる。

 だが内容は聞こえない。

 彼は視線を逸らす。

 騎士団長は忠実だ。

 それは昔から知っている。

 だがその忠誠が、どちらへ向いているかも、今は明白。

 夜。

 レオンは机に向かう。

 即位式まで二週間。

 何も崩れない。

 外交も安定。

 財政も順調。

 軍も揺らがない。

 教会も沈黙の支持。

 それでも彼は思う。

「まだ終わっていない」

 告白があったことも知らない。

 だが王宮の重心が完全に移ったことだけは、感じている。

 彼は王子だ。

 廃嫡ではない。

 部屋もある。

 肩書きもある。

 だが誰かの未来の横に、自分の名はない。

 中庭の風が止む。

 王宮は静かだ。

 即位の準備は進み、忠誠は固まり、告白は交わされた。

 第一王子は今日も王宮にいる。

 そして今日も、待っている。
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