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第三十六話 即位前夜
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第三十六話 即位前夜
王宮は、奇妙なほど静かだった。
即位式を翌日に控えながら、喧騒はない。
準備はすべて整っている。
王冠は磨かれ、
玉座は磨き上げられ、
大広間の絨毯は新調された。
もう動く必要がないからこそ、静かだ。
王太子女ルシアは、最後の確認を終え、私室へ戻る。
机の上には、即位後最初の政務案。
式典の後、即日決裁する案件。
象徴ではなく、統治。
それが彼女の選んだ姿勢。
扉が控えめに叩かれる。
国王だった。
「眠れそうか」
「はい」
嘘ではない。
緊張はあるが、迷いはない。
国王はしばらく娘を見つめる。
「王は孤独だ」
「承知しております」
「だが孤立ではない。そなたには支える者がおる」
騎士団長、公爵家、重臣、軍、教会。
評価は固まっている。
国王は頷き、去る。
廊下の向こうで、第一王子レオンが立っていた。
父と目が合う。
「……準備は整った」
国王は短く言う。
「明日は列席せよ」
「御意」
それだけ。
父と子の会話は、それ以上続かない。
レオンは自室へ戻る。
机の上に置かれた式典次第書。
自分の役割は明記されている。
“王族代表として列席”。
代表。
だが主役ではない。
彼は椅子に腰を下ろす。
窓の外には、王都の灯り。
明日、王冠は移る。
その瞬間まで、制度上は何も変わっていない。
まだ自分は王子だ。
継承順位も形式上は残っている。
だが評価は。
議会も教会も軍も、すでに選んでいる。
それでも彼は思う。
「明日、何かが起きるかもしれない」
式典中に異議が出るかもしれない。
議会が直前で慎重論を唱えるかもしれない。
教会が再確認を求めるかもしれない。
可能性は、理屈の上ではゼロではない。
その細い糸に、まだ縋っている。
夜半、王宮の灯りがひとつ、またひとつ消える。
王太子女の執務室も、今夜は早く消えた。
もう準備は終わっている。
第一王子の部屋だけに灯りが残る。
彼は羊皮紙を前に、筆を持つ。
退位への意見書を書こうとする。
だが何も書けない。
反対すれば、自らの立場を崩す。
沈黙すれば、流れに従う。
結局、筆を置く。
「私は間違っていない」
婚約破棄も、慎重な政務も。
自分は正しい。
だからこそ、いずれ戻る。
明日で終わりではない。
そう信じる。
王宮は静かだ。
即位前夜は、何事もなく過ぎていく。
嵐は来ない。
異議も上がらない。
ただ、確定だけが近づく。
第一王子は今日も王宮にいる。
そして明日も、そこにいる。
王宮は、奇妙なほど静かだった。
即位式を翌日に控えながら、喧騒はない。
準備はすべて整っている。
王冠は磨かれ、
玉座は磨き上げられ、
大広間の絨毯は新調された。
もう動く必要がないからこそ、静かだ。
王太子女ルシアは、最後の確認を終え、私室へ戻る。
机の上には、即位後最初の政務案。
式典の後、即日決裁する案件。
象徴ではなく、統治。
それが彼女の選んだ姿勢。
扉が控えめに叩かれる。
国王だった。
「眠れそうか」
「はい」
嘘ではない。
緊張はあるが、迷いはない。
国王はしばらく娘を見つめる。
「王は孤独だ」
「承知しております」
「だが孤立ではない。そなたには支える者がおる」
騎士団長、公爵家、重臣、軍、教会。
評価は固まっている。
国王は頷き、去る。
廊下の向こうで、第一王子レオンが立っていた。
父と目が合う。
「……準備は整った」
国王は短く言う。
「明日は列席せよ」
「御意」
それだけ。
父と子の会話は、それ以上続かない。
レオンは自室へ戻る。
机の上に置かれた式典次第書。
自分の役割は明記されている。
“王族代表として列席”。
代表。
だが主役ではない。
彼は椅子に腰を下ろす。
窓の外には、王都の灯り。
明日、王冠は移る。
その瞬間まで、制度上は何も変わっていない。
まだ自分は王子だ。
継承順位も形式上は残っている。
だが評価は。
議会も教会も軍も、すでに選んでいる。
それでも彼は思う。
「明日、何かが起きるかもしれない」
式典中に異議が出るかもしれない。
議会が直前で慎重論を唱えるかもしれない。
教会が再確認を求めるかもしれない。
可能性は、理屈の上ではゼロではない。
その細い糸に、まだ縋っている。
夜半、王宮の灯りがひとつ、またひとつ消える。
王太子女の執務室も、今夜は早く消えた。
もう準備は終わっている。
第一王子の部屋だけに灯りが残る。
彼は羊皮紙を前に、筆を持つ。
退位への意見書を書こうとする。
だが何も書けない。
反対すれば、自らの立場を崩す。
沈黙すれば、流れに従う。
結局、筆を置く。
「私は間違っていない」
婚約破棄も、慎重な政務も。
自分は正しい。
だからこそ、いずれ戻る。
明日で終わりではない。
そう信じる。
王宮は静かだ。
即位前夜は、何事もなく過ぎていく。
嵐は来ない。
異議も上がらない。
ただ、確定だけが近づく。
第一王子は今日も王宮にいる。
そして明日も、そこにいる。
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