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第2話 監獄所長は、執事の顔をしている
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第2話 監獄所長は、執事の顔をしている
「開門せよ――!」
吹雪の中、低く張りのある声が響いた。
分厚い鉄の門が、ぎぎぎ……と不気味な音を立てて開く。凍りついた石畳の向こうに広がるのは、想像以上に巨大な建造物だった。氷を削り出して造ったかのような、無骨で威圧的な城――それが、極寒監獄。
(ええ、見た目はきちんと“恐ろしい監獄”ですわね)
キャロは内心で冷静に評価しながら、馬車を降りた。
その瞬間。
「お待ちしておりました、キャロ・リュミエール王女殿下」
あまりにも丁寧な声に、キャロは思わず瞬きをした。
声の主は、門の内側に立つ一人の男性だった。白を基調とした軍服に身を包み、背筋は真っ直ぐ。年の頃は二十代後半から三十代前半。鋭さよりも、落ち着きと誠実さを感じさせる佇まいだ。
彼は、深々と頭を下げた。
「私は、この極寒監獄の所長を務めております。ヴァルト・グレイスと申します」
「……」
キャロは、返事を忘れて彼を見つめていた。
(所長……? もっとこう、鬼みたいな人を想像していましたのに)
乱暴な口調でもなければ、威圧的な態度でもない。むしろ、王宮で何人も見てきた“できる執事”のような落ち着きだ。
「……ご丁寧にどうも。囚人に対する態度とは思えませんわね」
皮肉を込めて言ったつもりだったが、ヴァルトは少しも気分を害した様子を見せず、穏やかに微笑んだ。
「姫様は、当監獄における“特別な身分”でいらっしゃいますので」
「特別、ですって?」
「はい。どうぞ、こちらへ」
説明もそこそこに、ヴァルトはキャロを促した。連行する、というより“案内する”という表現の方がしっくりくる。
監獄の内部は、外観とは裏腹に整然としていた。通路は清掃が行き届き、看守たちの動きにも無駄がない。囚人たちの姿は見えないが、緊張感だけが静かに漂っている。
(……少なくとも、無法地帯ではなさそうですわね)
やがて、重厚な扉の前でヴァルトが立ち止まった。
「こちらが、姫様のお部屋でございます」
扉が開いた、その瞬間。
「…………え?」
キャロは、思わず声を漏らした。
広々とした室内。柔らかな光を放つ魔導暖炉が中央にあり、厚手の絨毯が床を覆っている。ふかふかのソファに、天蓋付きのベッド。壁一面の本棚には、きちんと手入れされた書物が並び、奥には――
「……温室、ですの?」
ガラス張りの空間に、色とりどりの花が咲いている。鼻をくすぐるのは、かすかなハーブの香り。
サイドテーブルには、湯気を立てる紅茶と、焼き色の美しいスコーン。
「……ここ、本当に監獄ですの?」
キャロは振り返り、真顔で尋ねた。
ヴァルトは、少しだけ目を細めて答える。
「間違いなく、極寒監獄でございます」
「……信じがたいですわね」
キャロは部屋を一周見渡し、最後にソファへと腰を下ろした。想像以上の柔らかさに、思わずため息が漏れる。
「……氷点下の地に送られたと思ったら、天国に着いた気分ですわ」
その呟きに、ヴァルトは静かに微笑んだ。
「どうか、ここを“寒さから逃れる場所”としてお使いください。姫様」
キャロは、紅茶のカップを手に取り、一口含む。
(……あら、これ)
「とても美味しいですわ」
「光栄です」
暖炉の火が、ぱちぱちと音を立てる。
外では吹雪が唸っているはずなのに、この部屋の中だけは、驚くほどあたたかい。
キャロは、ふっと口元を緩めた。
「……なるほど。極寒監獄とは名ばかりですわね」
そして、小さく呟く。
「どうやら私――とんでもなく“当たり”を引いたようですわ」
「開門せよ――!」
吹雪の中、低く張りのある声が響いた。
分厚い鉄の門が、ぎぎぎ……と不気味な音を立てて開く。凍りついた石畳の向こうに広がるのは、想像以上に巨大な建造物だった。氷を削り出して造ったかのような、無骨で威圧的な城――それが、極寒監獄。
(ええ、見た目はきちんと“恐ろしい監獄”ですわね)
キャロは内心で冷静に評価しながら、馬車を降りた。
その瞬間。
「お待ちしておりました、キャロ・リュミエール王女殿下」
あまりにも丁寧な声に、キャロは思わず瞬きをした。
声の主は、門の内側に立つ一人の男性だった。白を基調とした軍服に身を包み、背筋は真っ直ぐ。年の頃は二十代後半から三十代前半。鋭さよりも、落ち着きと誠実さを感じさせる佇まいだ。
彼は、深々と頭を下げた。
「私は、この極寒監獄の所長を務めております。ヴァルト・グレイスと申します」
「……」
キャロは、返事を忘れて彼を見つめていた。
(所長……? もっとこう、鬼みたいな人を想像していましたのに)
乱暴な口調でもなければ、威圧的な態度でもない。むしろ、王宮で何人も見てきた“できる執事”のような落ち着きだ。
「……ご丁寧にどうも。囚人に対する態度とは思えませんわね」
皮肉を込めて言ったつもりだったが、ヴァルトは少しも気分を害した様子を見せず、穏やかに微笑んだ。
「姫様は、当監獄における“特別な身分”でいらっしゃいますので」
「特別、ですって?」
「はい。どうぞ、こちらへ」
説明もそこそこに、ヴァルトはキャロを促した。連行する、というより“案内する”という表現の方がしっくりくる。
監獄の内部は、外観とは裏腹に整然としていた。通路は清掃が行き届き、看守たちの動きにも無駄がない。囚人たちの姿は見えないが、緊張感だけが静かに漂っている。
(……少なくとも、無法地帯ではなさそうですわね)
やがて、重厚な扉の前でヴァルトが立ち止まった。
「こちらが、姫様のお部屋でございます」
扉が開いた、その瞬間。
「…………え?」
キャロは、思わず声を漏らした。
広々とした室内。柔らかな光を放つ魔導暖炉が中央にあり、厚手の絨毯が床を覆っている。ふかふかのソファに、天蓋付きのベッド。壁一面の本棚には、きちんと手入れされた書物が並び、奥には――
「……温室、ですの?」
ガラス張りの空間に、色とりどりの花が咲いている。鼻をくすぐるのは、かすかなハーブの香り。
サイドテーブルには、湯気を立てる紅茶と、焼き色の美しいスコーン。
「……ここ、本当に監獄ですの?」
キャロは振り返り、真顔で尋ねた。
ヴァルトは、少しだけ目を細めて答える。
「間違いなく、極寒監獄でございます」
「……信じがたいですわね」
キャロは部屋を一周見渡し、最後にソファへと腰を下ろした。想像以上の柔らかさに、思わずため息が漏れる。
「……氷点下の地に送られたと思ったら、天国に着いた気分ですわ」
その呟きに、ヴァルトは静かに微笑んだ。
「どうか、ここを“寒さから逃れる場所”としてお使いください。姫様」
キャロは、紅茶のカップを手に取り、一口含む。
(……あら、これ)
「とても美味しいですわ」
「光栄です」
暖炉の火が、ぱちぱちと音を立てる。
外では吹雪が唸っているはずなのに、この部屋の中だけは、驚くほどあたたかい。
キャロは、ふっと口元を緩めた。
「……なるほど。極寒監獄とは名ばかりですわね」
そして、小さく呟く。
「どうやら私――とんでもなく“当たり”を引いたようですわ」
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