極寒監獄なのにぬくぬく生活!? 追放王女、所長に溺愛されて快適すぎてもう無期懲役にしてください』

ふわふわ

文字の大きさ
3 / 40

第3話 思い出の毛布と、一切れのパン

しおりを挟む
第3話 思い出の毛布と、一切れのパン

その夜、キャロはふかふかのベッドに横たわりながら、天井を見上げていた。

(……眠れるかしら、と思いましたけれど)

意識してみれば、すでに身体はすっかり弛緩している。極寒監獄という名に反して、部屋はほどよく暖かく、毛布は驚くほど柔らかい。

「……これは反則ですわね」

小さく呟き、寝返りを打つ。
その瞬間、ふと脳裏に引っかかるものがあった。

――“特別な身分”。

(いったい、何が特別だと言うのでしょう)

昼間からずっと、違和感は拭えなかった。所長ヴァルトの態度は、丁寧を通り越して、どこか“親しみ”すら感じさせたからだ。

翌朝。

「姫様。お目覚めでございますか?」

控えめなノックと共に、ヴァルトの声がした。

「ええ、どうぞ」

扉が開くと、そこには湯気を立てるトレイを手にしたヴァルトの姿があった。

「朝食でございます。温かいスープと、焼きたてのパンを」

「……所長自ら?」

「はい」

当たり前のように答える彼に、キャロは思わず眉を上げる。

「本当に、監獄ですのよね、ここ」

「重ねて申し上げますが、間違いなく」

そう言って、ヴァルトは小さく笑った。

テーブルに並べられたのは、野菜たっぷりのスープと、香ばしいパン。添えられたバターからも、上質な香りが漂っている。

「……囚人の食事ではありませんわ」

「姫様は、一般の囚人とは事情が異なりますので」

「その“事情”、そろそろ教えていただいてもよろしくて?」

キャロがそう言うと、ヴァルトは一瞬、言葉を探すように視線を落とした。

「……覚えていらっしゃらないでしょうね」

「?」

彼はゆっくりと口を開く。

「十数年前、王宮の裏庭で……一人の孤児が倒れておりました」

キャロは、スプーンを止めた。

「極寒の夜でした。雪が降り、食べ物もなく、あのままでは朝を迎えられなかったでしょう」

静かな声が、暖炉の音と溶け合う。

「そこへ通りかかったのが、まだ幼い姫様でした」

「……」

「姫様は、その孤児に毛布を掛け、パンを半分に割って渡し、こうおっしゃったのです。
『寒いでしょう? 無理をなさらないで』と」

キャロは、はっと目を見開いた。

(……そんなこと)

「……覚えていませんわ」

正直な言葉だった。

王女として育った彼女にとって、誰かに毛布や食べ物を分けたことなど、日常の中の取るに足らない出来事だったのだろう。

ヴァルトは、穏やかに頷いた。

「当然です。姫様にとっては、何気ない善意だったのでしょう」

そして、静かに顔を上げる。

「ですが、あの日のぬくもりがなければ……今の私は、ここにはおりません」

キャロは、言葉を失った。

「……まさか」

「ええ。その孤児が、私です」

しん、と部屋が静まり返る。

キャロは、思わず彼の顔をまじまじと見つめた。凛とした佇まい。監獄所長という責任ある立場。
目の前の男性と、雪の中で震える孤児の姿が、なかなか結びつかない。

「……そんな、大げさな」

「いいえ。私にとっては、人生を変える出来事でした」

ヴァルトは深く頭を下げた。

「ですから、姫様がここに来られたと知ったとき……せめて、この身の及ぶ限りの恩返しをと」

キャロは、しばらく黙り込んだまま、スープに視線を落とした。

湯気が、ゆらりと揺れる。

(……毛布と、パン一切れ)

自分が与えた記憶もないほどの、小さな善意。それが、こうして巡り巡って、自分を守る場所を作っていた。

「……困りましたわね」

ぽつりと、キャロは言った。

「困りますか?」

「ええ。だって」

彼女は、ふっと微笑む。

「そこまで言われてしまったら――このぬくぬくを、全力で満喫しないと失礼ではありません?」

一瞬きょとんとしたヴァルトは、やがて小さく、安堵したように笑った。

「……姫様らしいお言葉です」

キャロは、パンを一口かじる。

(……なるほど)

(ここは、私が“守られている場所”なのですわ)

暖炉の火は、今日も静かに燃えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...