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第19話 それでも王都は、寒さを知らないまま
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第19話 それでも王都は、寒さを知らないまま
極寒監獄に、鐘の音が鳴り響いた。
警戒ではない。
緊急でもない。
ただ、人を集めるための合図。
キャロは中庭に立ち、集まった人々を静かに見渡していた。
看守、職員、囚人――立場は違えど、皆が同じ方向を向いている。
「王都は、私たちの宣言を受け取りました」
その一言で、空気が引き締まる。
「そして、返答は……沈黙です」
ざわめきが起きた。
不安ではない。予想通りだ、という空気。
キャロは続ける。
「王都は、決断を先延ばしにしています。否定もせず、肯定もせず。ただ――時間が解決すると信じている」
彼女は、少しだけ肩をすくめた。
「ですが、寒さの中で時間を過ごしたことのない者ほど、“待つ”という選択を軽く見ますの」
***
その日の午後。
監獄の外周に、旗が立てられた。
王家の紋章でも、軍の印でもない。
白地に、簡素な線で描かれた印。
「……これは?」
若い看守が、ヴァルトに尋ねる。
「境界標です」
「境界……?」
「これより先は、“王都の都合”が通じない場所だ、という意思表示です」
武力ではない。
だが、はっきりとした線。
***
夕刻。
王都では、会議が紛糾していた。
「自主管理など、認められるはずがない!」
「だが、法文上は……完全に否定できん」
「軍を動かせば?」
「法に触れる。しかも、失敗すれば――」
誰もが口をつぐむ。
極寒監獄は、もはや“処罰の象徴”ではない。
扱いを誤れば、王都の無能さを示す象徴になる。
「……王女は、何も言ってこないのか」
「一言も」
その沈黙が、何より重かった。
***
夜。
キャロは、温室で植物の手入れをしていた。
土に触れ、葉を整え、水を与える。
「……王都は、まだ“勝っているつもり”なのでしょうね」
ヴァルトが、静かに答える。
「ええ。命令を出していないから、負けていない、と」
「でも」
キャロは、手を止める。
「命令を出せない時点で、もう寒さに震え始めているのですわ」
彼女は、窓の外を見る。
雪は降っていない。
それでも、空気は鋭い。
「寒さとは、不在ではなく“理解の欠如”です」
「……姫様?」
「凍える理由が分からない者は、備えを持ちません」
キャロは、微笑んだ。
「だから王都は、次の一手を必ず誤ります」
***
暖炉の前。
毛布に包まりながら、キャロはぽつりと呟いた。
「ここは、あたたかい」
その一言には、誇りも、覚悟も、静かな怒りも込められていた。
「それを理解できない限り――」
彼女は目を閉じる。
「王都は、永遠に寒さを知らないままですわ」
外の世界は、静かに、しかし確実に冷えていく。
次に震えるのが誰なのか――
その答えは、もうすぐ明らかになる。
極寒監獄に、鐘の音が鳴り響いた。
警戒ではない。
緊急でもない。
ただ、人を集めるための合図。
キャロは中庭に立ち、集まった人々を静かに見渡していた。
看守、職員、囚人――立場は違えど、皆が同じ方向を向いている。
「王都は、私たちの宣言を受け取りました」
その一言で、空気が引き締まる。
「そして、返答は……沈黙です」
ざわめきが起きた。
不安ではない。予想通りだ、という空気。
キャロは続ける。
「王都は、決断を先延ばしにしています。否定もせず、肯定もせず。ただ――時間が解決すると信じている」
彼女は、少しだけ肩をすくめた。
「ですが、寒さの中で時間を過ごしたことのない者ほど、“待つ”という選択を軽く見ますの」
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その日の午後。
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王家の紋章でも、軍の印でもない。
白地に、簡素な線で描かれた印。
「……これは?」
若い看守が、ヴァルトに尋ねる。
「境界標です」
「境界……?」
「これより先は、“王都の都合”が通じない場所だ、という意思表示です」
武力ではない。
だが、はっきりとした線。
***
夕刻。
王都では、会議が紛糾していた。
「自主管理など、認められるはずがない!」
「だが、法文上は……完全に否定できん」
「軍を動かせば?」
「法に触れる。しかも、失敗すれば――」
誰もが口をつぐむ。
極寒監獄は、もはや“処罰の象徴”ではない。
扱いを誤れば、王都の無能さを示す象徴になる。
「……王女は、何も言ってこないのか」
「一言も」
その沈黙が、何より重かった。
***
夜。
キャロは、温室で植物の手入れをしていた。
土に触れ、葉を整え、水を与える。
「……王都は、まだ“勝っているつもり”なのでしょうね」
ヴァルトが、静かに答える。
「ええ。命令を出していないから、負けていない、と」
「でも」
キャロは、手を止める。
「命令を出せない時点で、もう寒さに震え始めているのですわ」
彼女は、窓の外を見る。
雪は降っていない。
それでも、空気は鋭い。
「寒さとは、不在ではなく“理解の欠如”です」
「……姫様?」
「凍える理由が分からない者は、備えを持ちません」
キャロは、微笑んだ。
「だから王都は、次の一手を必ず誤ります」
***
暖炉の前。
毛布に包まりながら、キャロはぽつりと呟いた。
「ここは、あたたかい」
その一言には、誇りも、覚悟も、静かな怒りも込められていた。
「それを理解できない限り――」
彼女は目を閉じる。
「王都は、永遠に寒さを知らないままですわ」
外の世界は、静かに、しかし確実に冷えていく。
次に震えるのが誰なのか――
その答えは、もうすぐ明らかになる。
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