婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ

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第3話 昼から本番、自由時間の使い方

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第3話 昼から本番、自由時間の使い方

 ――目が覚めた。

 正確に言えば、目を開けただけだ。
 まだ起き上がる気はない。

 柔らかな天蓋越しに差し込む光が、すでに午前中を過ぎていることを教えてくれる。枕元の時計に視線をやると、針はしっかりと昼前を指していた。

「……よし」

 アルフェッタは満足そうに、もう一度目を閉じる。

(病弱ごっこ、成功ですわ)

 今朝、侍女が起こしに来たとき、彼女はきちんと役目を果たした。
 少し掠れた声で、「少し体調が優れませんの」と告げ、申し訳なさそうに微笑む。それだけで、侍女は深く頷き、静かに扉を閉めていった。

 ――簡単。

(朝寝坊専用なら、演技も最小限で済みますもの)

 布団の中で、ゆっくりと身体を伸ばす。
 婚約者もいない。予定もない。朝の社交も、義務もない。

 なんて、平和。

「さて……」

 ようやく上半身を起こし、カーテンを少しだけ開ける。
 窓の外には、どこまでも広がる公爵邸の庭。手入れの行き届いた芝生、木立の向こうに見える小川、遠くで動く使用人たちの姿。

(……広いですわね)

 改めて思う。
 この家は、生活するには明らかに過剰だ。

 けれど今の彼女にとって、それは欠点ではなかった。

(使い切れないなら、遊び場にすればいい)

 身支度を整え、昼食を軽めに済ませる。
 執事が遠慮がちに声をかけてきた。

「本日は、ご静養なさるご予定で?」

 一瞬、考える。

 ……いや。

「ええ、午前中は」

 にこり。

「午後からは、元気ですわ」

 執事は一拍遅れて、深く一礼した。
 理解したのか、諦めたのか、その両方か。

 庭に出ると、空気が一変する。
 屋内よりも少し涼しく、風が心地よい。草の匂いが、思考をほどよく緩めてくれる。

 アルフェッタは芝生の上を歩きながら、考え始めた。

(自由時間って、どう使うのが正解かしら)

 何かを成し遂げる?
 誰かに認められる?

(……疲れそうですわね)

 彼女にとって、正解はもっと単純だった。

(楽しいかどうか)

 それだけ。

 歩きながら、立ち止まり、また歩く。
 木陰に腰を下ろし、空を見上げる。

(あ、ここ……お茶に良さそう)

 少し先の芝生は、日差しと影のバランスがちょうどいい。
 あそこに椅子を置いて、本を読んだら気持ちがいいに違いない。

(あっちは昼寝向き)
(川のほうは……涼しそうですわね)

 気づけば、庭全体を「用途別」に見始めていた。

 アルフェッタは小さく笑う。

「……これは」

「公爵邸を使い切る遊び、ですわね」

 改革でも、計画でもない。
 ただ、持っているものをどう楽しむかを考えているだけだ。

 婚約破棄の痛手?
 世間の評価?

(そんなもの、昼の陽射しほど重要ではありませんわ)

 空を見上げる。
 雲はゆっくり流れ、時間は急かさない。

 午後からが本番。
 それは彼女の新しい生活の合言葉だった。

「さて……」

 アルフェッタは庭の奥へと歩き出す。

「今日は、どこから楽しみましょうか」

 異世界転生生活三日目。
 彼女はまだ、何かを始めてはいない。

 けれど確かに――
 最高の使い方を、見つけ始めていた。
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