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第24話 一流画家に描かせてみた結果
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第24話 一流画家に描かせてみた結果
マンガ喫茶に、少しだけ「変化」が起き始めた。
絵本の数が、足りなくなってきたのだ。
壊れたわけではない。
盗まれたわけでもない。
読む人が増えただけ。
(困りましたわね……)
アルフェッタは、奥の席で紅茶を飲みながら、本棚を見つめていた。
店内閲覧のみ。
一部ずつ。
その方針は変えるつもりはない。
けれど、物語の選択肢が少ないのは、少しだけ惜しい。
(増やすなら……描いてもらう?)
自然な発想だった。
この国には、優れた画家がいる。
壁画、宗教画、肖像画。
物語を絵で語る技術も、決して低くない。
(……試してみましょうか)
翌日、アルフェッタは一人の画家を招いた。
王都でも名の知られた、一流の画家。
貴族からの依頼も多い人物だ。
彼は、丁寧に一礼した。
「公爵令嬢殿下。
本に絵を描く、という依頼は初めてですが……
全力でお応えいたしましょう」
「ええ。
難しい注文は、ありませんわ」
アルフェッタは、条件を伝える。
・台詞は、極力少なく
・物語は、日常の一場面で
・感情が伝わること
画家は、自信ありげに頷いた。
「承知しました。
“伝わる絵”ですね」
数日後。
完成した冊子が、マンガ喫茶に届けられた。
装丁は美しい。
紙も上質。
線は迷いがなく、構図も洗練されている。
アルフェッタは、ページをめくった。
(……上手ですわ)
疑いようがない。
完璧だ。
人物の表情は繊細で、
背景も丁寧に描き込まれている。
けれど――
(……なんでしょう)
胸が、動かない。
客たちの反応も、似たようなものだった。
「……きれい」
「……すごい」
感嘆はある。
でも、そこで終わる。
いつものように、
何度も読み返す人がいない。
子どもたちは、少し眺めただけで、本棚に戻してしまった。
夕方、例の少年が、小さな声で言った。
「……これ……
読めるけど……」
「けど?」
「……続き、気にならない」
アルフェッタは、静かに頷いた。
(やっぱり)
問題は、技術ではない。
完成度でもない。
(“見せられている”感じですわね)
絵が、語りすぎている。
説明しすぎている。
見る側が、入り込む余地がない。
一流の画家は、「正解」を描いてしまった。
けれど、マンガ喫茶で必要なのは――
正解ではない。
夜、アルフェッタは画家に礼を伝えた。
「素晴らしい作品でしたわ。
ただ……ここには、少し合わなかったようです」
画家は驚いたが、怒りはしなかった。
「……私の絵が、過ぎましたか」
「ええ。
とても」
アルフェッタは、率直に答える。
「ここは、想像する場所なのです」
画家は、しばらく考え込み、深く一礼した。
「……勉強になりました」
その背中を見送りながら、アルフェッタは思った。
(上手な絵が、必要なのではありませんのね)
(“描きたい”絵が、必要なのですわ)
そのとき、ふと視界の端に入った。
机の片隅。
少年が、昨日の紙に、何かを描いている。
線は歪で、遠近も怪しい。
でも――
登場人物が、楽しそうだ。
(……ああ)
アルフェッタは、確信した。
異世界転生生活二十四日目。
彼女は今日、
「一流」と「合っている」は別物だと、はっきり理解してしまった。
そして同時に――
次に描くべき相手の顔を、もう見つけてしまったのだった。
マンガ喫茶に、少しだけ「変化」が起き始めた。
絵本の数が、足りなくなってきたのだ。
壊れたわけではない。
盗まれたわけでもない。
読む人が増えただけ。
(困りましたわね……)
アルフェッタは、奥の席で紅茶を飲みながら、本棚を見つめていた。
店内閲覧のみ。
一部ずつ。
その方針は変えるつもりはない。
けれど、物語の選択肢が少ないのは、少しだけ惜しい。
(増やすなら……描いてもらう?)
自然な発想だった。
この国には、優れた画家がいる。
壁画、宗教画、肖像画。
物語を絵で語る技術も、決して低くない。
(……試してみましょうか)
翌日、アルフェッタは一人の画家を招いた。
王都でも名の知られた、一流の画家。
貴族からの依頼も多い人物だ。
彼は、丁寧に一礼した。
「公爵令嬢殿下。
本に絵を描く、という依頼は初めてですが……
全力でお応えいたしましょう」
「ええ。
難しい注文は、ありませんわ」
アルフェッタは、条件を伝える。
・台詞は、極力少なく
・物語は、日常の一場面で
・感情が伝わること
画家は、自信ありげに頷いた。
「承知しました。
“伝わる絵”ですね」
数日後。
完成した冊子が、マンガ喫茶に届けられた。
装丁は美しい。
紙も上質。
線は迷いがなく、構図も洗練されている。
アルフェッタは、ページをめくった。
(……上手ですわ)
疑いようがない。
完璧だ。
人物の表情は繊細で、
背景も丁寧に描き込まれている。
けれど――
(……なんでしょう)
胸が、動かない。
客たちの反応も、似たようなものだった。
「……きれい」
「……すごい」
感嘆はある。
でも、そこで終わる。
いつものように、
何度も読み返す人がいない。
子どもたちは、少し眺めただけで、本棚に戻してしまった。
夕方、例の少年が、小さな声で言った。
「……これ……
読めるけど……」
「けど?」
「……続き、気にならない」
アルフェッタは、静かに頷いた。
(やっぱり)
問題は、技術ではない。
完成度でもない。
(“見せられている”感じですわね)
絵が、語りすぎている。
説明しすぎている。
見る側が、入り込む余地がない。
一流の画家は、「正解」を描いてしまった。
けれど、マンガ喫茶で必要なのは――
正解ではない。
夜、アルフェッタは画家に礼を伝えた。
「素晴らしい作品でしたわ。
ただ……ここには、少し合わなかったようです」
画家は驚いたが、怒りはしなかった。
「……私の絵が、過ぎましたか」
「ええ。
とても」
アルフェッタは、率直に答える。
「ここは、想像する場所なのです」
画家は、しばらく考え込み、深く一礼した。
「……勉強になりました」
その背中を見送りながら、アルフェッタは思った。
(上手な絵が、必要なのではありませんのね)
(“描きたい”絵が、必要なのですわ)
そのとき、ふと視界の端に入った。
机の片隅。
少年が、昨日の紙に、何かを描いている。
線は歪で、遠近も怪しい。
でも――
登場人物が、楽しそうだ。
(……ああ)
アルフェッタは、確信した。
異世界転生生活二十四日目。
彼女は今日、
「一流」と「合っている」は別物だと、はっきり理解してしまった。
そして同時に――
次に描くべき相手の顔を、もう見つけてしまったのだった。
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