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第27話 選ばれなかった聖女は、初めて自由になりますわ
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第27話 選ばれなかった聖女は、初めて自由になりますわ
夜明け前。
関所跡の拠点は、静かな緊張に包まれていた。
慌ただしさではない。
自分たちで回している現場特有の集中だ。
私は天幕の外で、湯を沸かしながらその様子を眺めていた。
指示の声は短く、確認は確実。
誰かの顔色を窺う気配はない。
(……もう、大丈夫ですわね)
そこへ、足音が近づいてきた。
振り返らずとも分かる。
「……シェリア様」
リリカだ。
法衣は着ていない。
簡素な作業着に身を包み、髪もまとめている。
「何か、問題が?」
「いいえ」
彼女は、首を振った。
「ただ……お話を」
私は頷き、火から鍋を下ろす。
「どうぞ」
しばらく、沈黙。
リリカは、言葉を探している。
「……私、怖かったんです」
「聖女でいなくなることが」
その告白は、弱く、正直だった。
「選ばれた、って言われて」
「皆が期待して」
「それに応えなきゃ、って……」
彼女の指が、わずかに震える。
「でも、ここでは」
「誰も、私を見上げない」
「……それが、こんなに楽だなんて」
私は、ようやく彼女を見る。
「選ばれ続けるのは、檻ですわ」
リリカが、目を見開く。
「選ばれた者は、
選び続ける責任を負わされる」
「あなたは、それを背負う準備がなかった」
責める口調ではない。
事実を述べただけだ。
「……はい」
彼女は、素直に頷いた。
「私、
“聖女でいなきゃいけない”って思ってました」
「でも、本当は……」
言葉が、続かない。
「……普通に、人を助けたかっただけ、なんです」
私は、小さく微笑んだ。
「それで、十分ですわ」
火にかけた湯が、静かに沸く。
「奇跡を見せる人は、
必ず誰かを置き去りにします」
「でも、手を動かす人は、
隣の人を救える」
リリカは、深く息を吐いた。
「……王都に戻ったら」
「どうなるんでしょう」
「戻らなくても、いいのですわよ」
その言葉に、彼女は驚いた顔をする。
「選択肢は、一つではありません」
「聖女をやめたあなたを、
必要とする場所は、きっとある」
沈黙のあと、
彼女は小さく、けれど確かに笑った。
「……初めて、自由な気がします」
朝日が、天幕の隙間から差し込む。
拠点では、代表者たちが集まり、
今日の対応を自分たちで決め始めていた。
「今日は、検疫線を一つ縮めよう」
「水の供給は、午後から切り替え」
私は、もう呼ばれない。
(それで、いい)
荷をまとめ、外套を整える。
今日、ここを離れるつもりだ。
リリカが、私の前に立つ。
「……ありがとうございました」
「聖女としてではなく、
一人の人間として」
「礼は、不要ですわ」
私は、歩き出す。
「選ばれなかったあなたは、
これから“選べる”のですから」
振り返らない。
引き止められない。
背後で、拠点が動き続ける音がする。
判断が巡り、責任が分散し、
誰もが立っている音。
選ばれなかった聖女は、自由になり、
選ばれ続けた国は、ようやく自立する。
私は、境界線を越え、
再び名のない旅に戻った。
――これでいい。
それが、千年転生して辿り着いた、
本当のざまぁなのだから。
夜明け前。
関所跡の拠点は、静かな緊張に包まれていた。
慌ただしさではない。
自分たちで回している現場特有の集中だ。
私は天幕の外で、湯を沸かしながらその様子を眺めていた。
指示の声は短く、確認は確実。
誰かの顔色を窺う気配はない。
(……もう、大丈夫ですわね)
そこへ、足音が近づいてきた。
振り返らずとも分かる。
「……シェリア様」
リリカだ。
法衣は着ていない。
簡素な作業着に身を包み、髪もまとめている。
「何か、問題が?」
「いいえ」
彼女は、首を振った。
「ただ……お話を」
私は頷き、火から鍋を下ろす。
「どうぞ」
しばらく、沈黙。
リリカは、言葉を探している。
「……私、怖かったんです」
「聖女でいなくなることが」
その告白は、弱く、正直だった。
「選ばれた、って言われて」
「皆が期待して」
「それに応えなきゃ、って……」
彼女の指が、わずかに震える。
「でも、ここでは」
「誰も、私を見上げない」
「……それが、こんなに楽だなんて」
私は、ようやく彼女を見る。
「選ばれ続けるのは、檻ですわ」
リリカが、目を見開く。
「選ばれた者は、
選び続ける責任を負わされる」
「あなたは、それを背負う準備がなかった」
責める口調ではない。
事実を述べただけだ。
「……はい」
彼女は、素直に頷いた。
「私、
“聖女でいなきゃいけない”って思ってました」
「でも、本当は……」
言葉が、続かない。
「……普通に、人を助けたかっただけ、なんです」
私は、小さく微笑んだ。
「それで、十分ですわ」
火にかけた湯が、静かに沸く。
「奇跡を見せる人は、
必ず誰かを置き去りにします」
「でも、手を動かす人は、
隣の人を救える」
リリカは、深く息を吐いた。
「……王都に戻ったら」
「どうなるんでしょう」
「戻らなくても、いいのですわよ」
その言葉に、彼女は驚いた顔をする。
「選択肢は、一つではありません」
「聖女をやめたあなたを、
必要とする場所は、きっとある」
沈黙のあと、
彼女は小さく、けれど確かに笑った。
「……初めて、自由な気がします」
朝日が、天幕の隙間から差し込む。
拠点では、代表者たちが集まり、
今日の対応を自分たちで決め始めていた。
「今日は、検疫線を一つ縮めよう」
「水の供給は、午後から切り替え」
私は、もう呼ばれない。
(それで、いい)
荷をまとめ、外套を整える。
今日、ここを離れるつもりだ。
リリカが、私の前に立つ。
「……ありがとうございました」
「聖女としてではなく、
一人の人間として」
「礼は、不要ですわ」
私は、歩き出す。
「選ばれなかったあなたは、
これから“選べる”のですから」
振り返らない。
引き止められない。
背後で、拠点が動き続ける音がする。
判断が巡り、責任が分散し、
誰もが立っている音。
選ばれなかった聖女は、自由になり、
選ばれ続けた国は、ようやく自立する。
私は、境界線を越え、
再び名のない旅に戻った。
――これでいい。
それが、千年転生して辿り着いた、
本当のざまぁなのだから。
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