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第26話 奇跡を拒む現場は、強くなりますわ
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第26話 奇跡を拒む現場は、強くなりますわ
夜明けとともに、関所跡の空気が変わった。
昨日まで漂っていた緊張が、わずかに薄れている。
(……“待つ”のをやめましたわね)
人は、奇跡を期待している間は動かない。
だが、奇跡が来ないと悟った瞬間――
自分の足で立ち始める。
簡易拠点では、すでに各地区の代表たちが集まり、
患者の振り分けや物資の管理を話し合っていた。
「次は、軽症者を別の天幕へ」
「水は、この列から先に回す」
誰も、私を見ない。
判断は、彼ら自身のものだ。
(ええ……これでいい)
私は少し離れた場所で、治療の経過を記録する。
魔力を使う量も、最低限に抑える。
一度に救いすぎれば、再び“依存”が生まれるから。
午前中、想定外の事態が起きた。
王都方面から、一団が到着したのだ。
豪奢な馬車。
付き従う護衛。
その中心に――見覚えのある、淡い金髪。
(……リリカ)
聖女リリカは、白を基調とした法衣を纏い、
不安と決意が混ざった表情で天幕を見つめていた。
「彼女を、通していいのですか?」
連絡係の役人が、小声で尋ねてくる。
「……いいえ」
私は、はっきり答えた。
「ここは、奇跡を演じる場所ではありません」
リリカは、天幕の前で足を止め、私を見つけた。
目が合い、息を呑む。
「……シェリア様」
「私も、力になりたくて」
その声は、震えている。
嘘ではない。
けれど――
「あなたは、聖女として来たのですか?」
私は、静かに問いかけた。
「それとも、一人の人間として?」
リリカは、答えに詰まる。
周囲の視線。
期待と不安が、彼女に集中する。
(……重いでしょうね)
「ここでは」
私は続けた。
「肩書きを置いてください」
「奇跡を見せれば、人は止まります」
「あなた自身も、止まってしまう」
沈黙が流れる。
やがて、リリカは――
ゆっくりと、法衣の胸元に手をかけた。
「……分かりました」
「聖女としてではなく、
一人の治癒術師として、手伝わせてください」
その言葉に、周囲がざわめく。
私は、少しだけ視線を和らげた。
「それなら」
「後方支援からです」
最前線には立たせない。
称号が消えるまで。
午後、彼女は黙々と動いた。
水を運び、包帯を替え、記録を取る。
誰も、奇跡を求めない。
誰も、彼女を崇めない。
それでも――
一人の子どもが、小さく言った。
「ありがとう」
リリカは、一瞬だけ目を潤ませ、
そして、深く頭を下げた。
(……ようやく、始まりましたわね)
夕方。
代表者たちが、自然と集まる。
「明日からは、私たちで回せます」
「あなたは……どうされますか?」
私は、即答しない。
奇跡を拒み、
判断を引き取り、
責任を背負い始めた現場。
ここは、もう――
私が立ち続ける場所ではない。
夜風が、天幕を揺らす。
私は、星を見上げて微笑んだ。
奇跡を拒む現場は、強くなる。
そして――
奇跡を演じなくなった者も、また。
物語は、次の段階へ進む。
誰かが救われる話ではない。
誰もが、立ち上がる話へ。
夜明けとともに、関所跡の空気が変わった。
昨日まで漂っていた緊張が、わずかに薄れている。
(……“待つ”のをやめましたわね)
人は、奇跡を期待している間は動かない。
だが、奇跡が来ないと悟った瞬間――
自分の足で立ち始める。
簡易拠点では、すでに各地区の代表たちが集まり、
患者の振り分けや物資の管理を話し合っていた。
「次は、軽症者を別の天幕へ」
「水は、この列から先に回す」
誰も、私を見ない。
判断は、彼ら自身のものだ。
(ええ……これでいい)
私は少し離れた場所で、治療の経過を記録する。
魔力を使う量も、最低限に抑える。
一度に救いすぎれば、再び“依存”が生まれるから。
午前中、想定外の事態が起きた。
王都方面から、一団が到着したのだ。
豪奢な馬車。
付き従う護衛。
その中心に――見覚えのある、淡い金髪。
(……リリカ)
聖女リリカは、白を基調とした法衣を纏い、
不安と決意が混ざった表情で天幕を見つめていた。
「彼女を、通していいのですか?」
連絡係の役人が、小声で尋ねてくる。
「……いいえ」
私は、はっきり答えた。
「ここは、奇跡を演じる場所ではありません」
リリカは、天幕の前で足を止め、私を見つけた。
目が合い、息を呑む。
「……シェリア様」
「私も、力になりたくて」
その声は、震えている。
嘘ではない。
けれど――
「あなたは、聖女として来たのですか?」
私は、静かに問いかけた。
「それとも、一人の人間として?」
リリカは、答えに詰まる。
周囲の視線。
期待と不安が、彼女に集中する。
(……重いでしょうね)
「ここでは」
私は続けた。
「肩書きを置いてください」
「奇跡を見せれば、人は止まります」
「あなた自身も、止まってしまう」
沈黙が流れる。
やがて、リリカは――
ゆっくりと、法衣の胸元に手をかけた。
「……分かりました」
「聖女としてではなく、
一人の治癒術師として、手伝わせてください」
その言葉に、周囲がざわめく。
私は、少しだけ視線を和らげた。
「それなら」
「後方支援からです」
最前線には立たせない。
称号が消えるまで。
午後、彼女は黙々と動いた。
水を運び、包帯を替え、記録を取る。
誰も、奇跡を求めない。
誰も、彼女を崇めない。
それでも――
一人の子どもが、小さく言った。
「ありがとう」
リリカは、一瞬だけ目を潤ませ、
そして、深く頭を下げた。
(……ようやく、始まりましたわね)
夕方。
代表者たちが、自然と集まる。
「明日からは、私たちで回せます」
「あなたは……どうされますか?」
私は、即答しない。
奇跡を拒み、
判断を引き取り、
責任を背負い始めた現場。
ここは、もう――
私が立ち続ける場所ではない。
夜風が、天幕を揺らす。
私は、星を見上げて微笑んだ。
奇跡を拒む現場は、強くなる。
そして――
奇跡を演じなくなった者も、また。
物語は、次の段階へ進む。
誰かが救われる話ではない。
誰もが、立ち上がる話へ。
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