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5-1:最後通告と政治的清算
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セクション1:最後通告と政治的清算
ノルディア王国・王都セレスタ。
白亜の王城では、久方ぶりに重苦しい緊張が張り詰めていた。
第一王子レオンハルト・ヴァイス・ノルディアが、王と貴族議会の前に立つ。
目的はただ一つ――クラリッサ・ヴァルシュタインとの婚約破棄を、正式に提出すること。
この日を境に、ノルディア王国の空気は大きく変わる。
「――私、レオンハルトは、クラリッサ嬢との婚約を、王家の名において正式に解消いたします。理由は、政略的要請の解消と、両者の価値観の乖離による将来的な破綻の回避です」
王宮議会の中央ホール。
淡々と読み上げられる書面。だがその意味は、歴史を左右するほどに重い。
「……馬鹿な……!」
「あのヴァルシュタイン家との婚約を――王子自ら破棄するだと!?」
「無謀にも程がある!」
保守派貴族たちが次々に立ち上がり、反対の声をあげる。
当然だ。クラリッサの父は有力な大貴族であり、彼女自身も王家との結びつきを武器に王宮での発言権を持っていた。
彼女との婚約破棄は、ただの“別れ”ではない――ノルディア王国内の“勢力地図”を塗り替えることと同義なのだ。
だが、レオンハルトは一歩も引かない。
「……我が王家は、民を導くために存在します。
そのために必要なのは、惰性による結びつきではなく、“共に進む意志”です」
「しかし、王子殿下、クラリッサ嬢は王宮において長く忠義を――!」
「――忠義を語るならば、私はこう問います」
レオンハルトの声が一段階、低く鋭くなった。
「王宮の秩序とは、“貴族の論理”を守ることですか?
それとも、“国の未来”に希望を持たせることですか?」
重臣たちの口が、一斉に閉じられた。
彼の背後には、民の期待がある。
レオンハルトは、すでに“王位継承者”として民の信頼を得ていた。
彼の決断に共鳴した若手の貴族や文官たちは、水面下で支援を表明していたのだ。
クラリッサが、そんな空気の中、ついに姿を現した。
純白のドレスに身を包んだ姿は、かつての“王子の婚約者”としての威厳を保っている。
だが、その瞳は怒りと哀しみで濁っていた。
「……レオンハルト殿下。あなたは、私を――ヴァルシュタイン家を裏切るのですね」
「違う。私は、“あなたを偽る関係”を終わらせたいだけだ」
「私はあなたのために、どれだけのものを犠牲にしたか……!
王族に相応しい立ち振る舞いを学び、あなたの隣に立つために人生をかけてきた!」
「……だからこそ、あなたには新しい場所で、その努力を活かしてほしい。
王妃としてではなく、“クラリッサ”という一人の人間として」
「なに、それは――追放のつもり!?」
「違います。外交任務として、姉妹国レアーゼンへの派遣が決定しました。あなたには、新たな立場で国の未来に尽くしていただく」
それは、事実上の“左遷”だった。
だが同時に、名目上は栄誉ある外交任務。王室としての顔も保たれた処置だった。
クラリッサは、ぎりっと歯を噛み締めた。
「……こんなやり方、惨めにも程がある」
レオンハルトは何も言わなかった。
彼女の怒りも哀しみも、理解できないわけではない。
だが、政略に縛られた“婚約”ではなく、自らの意思で選び取る“未来”を得るには――
何かを終わらせなければならないのだ。
「……わたくしは、この処置を“外交任務”として受け入れます。
貴族の娘としての責務を果たすとともに――あなたの顔を、もう二度と見なくて済む距離へ行けること、何よりの喜びと心得ます」
彼女のその皮肉すら、もはや涙声になっていた。
それでも最後まで、クラリッサは泣かなかった。
彼女の背筋はまっすぐだった。
重い沈黙の中、彼女は踵を返し、玉座の間を去っていった。
長く続いた“王子と婚約者”という物語の、静かな終わりだった。
レオンハルトは、その背を見送るように立ち尽くしていた。
「……すべての整理は、これで終わりました」
やがて彼はそう呟き、拳をゆっくりと握りしめた。
(あとは――あの人の前に、“まっすぐな自分”として立つだけだ)
ノルディア王国・王都セレスタ。
白亜の王城では、久方ぶりに重苦しい緊張が張り詰めていた。
第一王子レオンハルト・ヴァイス・ノルディアが、王と貴族議会の前に立つ。
目的はただ一つ――クラリッサ・ヴァルシュタインとの婚約破棄を、正式に提出すること。
この日を境に、ノルディア王国の空気は大きく変わる。
「――私、レオンハルトは、クラリッサ嬢との婚約を、王家の名において正式に解消いたします。理由は、政略的要請の解消と、両者の価値観の乖離による将来的な破綻の回避です」
王宮議会の中央ホール。
淡々と読み上げられる書面。だがその意味は、歴史を左右するほどに重い。
「……馬鹿な……!」
「あのヴァルシュタイン家との婚約を――王子自ら破棄するだと!?」
「無謀にも程がある!」
保守派貴族たちが次々に立ち上がり、反対の声をあげる。
当然だ。クラリッサの父は有力な大貴族であり、彼女自身も王家との結びつきを武器に王宮での発言権を持っていた。
彼女との婚約破棄は、ただの“別れ”ではない――ノルディア王国内の“勢力地図”を塗り替えることと同義なのだ。
だが、レオンハルトは一歩も引かない。
「……我が王家は、民を導くために存在します。
そのために必要なのは、惰性による結びつきではなく、“共に進む意志”です」
「しかし、王子殿下、クラリッサ嬢は王宮において長く忠義を――!」
「――忠義を語るならば、私はこう問います」
レオンハルトの声が一段階、低く鋭くなった。
「王宮の秩序とは、“貴族の論理”を守ることですか?
それとも、“国の未来”に希望を持たせることですか?」
重臣たちの口が、一斉に閉じられた。
彼の背後には、民の期待がある。
レオンハルトは、すでに“王位継承者”として民の信頼を得ていた。
彼の決断に共鳴した若手の貴族や文官たちは、水面下で支援を表明していたのだ。
クラリッサが、そんな空気の中、ついに姿を現した。
純白のドレスに身を包んだ姿は、かつての“王子の婚約者”としての威厳を保っている。
だが、その瞳は怒りと哀しみで濁っていた。
「……レオンハルト殿下。あなたは、私を――ヴァルシュタイン家を裏切るのですね」
「違う。私は、“あなたを偽る関係”を終わらせたいだけだ」
「私はあなたのために、どれだけのものを犠牲にしたか……!
王族に相応しい立ち振る舞いを学び、あなたの隣に立つために人生をかけてきた!」
「……だからこそ、あなたには新しい場所で、その努力を活かしてほしい。
王妃としてではなく、“クラリッサ”という一人の人間として」
「なに、それは――追放のつもり!?」
「違います。外交任務として、姉妹国レアーゼンへの派遣が決定しました。あなたには、新たな立場で国の未来に尽くしていただく」
それは、事実上の“左遷”だった。
だが同時に、名目上は栄誉ある外交任務。王室としての顔も保たれた処置だった。
クラリッサは、ぎりっと歯を噛み締めた。
「……こんなやり方、惨めにも程がある」
レオンハルトは何も言わなかった。
彼女の怒りも哀しみも、理解できないわけではない。
だが、政略に縛られた“婚約”ではなく、自らの意思で選び取る“未来”を得るには――
何かを終わらせなければならないのだ。
「……わたくしは、この処置を“外交任務”として受け入れます。
貴族の娘としての責務を果たすとともに――あなたの顔を、もう二度と見なくて済む距離へ行けること、何よりの喜びと心得ます」
彼女のその皮肉すら、もはや涙声になっていた。
それでも最後まで、クラリッサは泣かなかった。
彼女の背筋はまっすぐだった。
重い沈黙の中、彼女は踵を返し、玉座の間を去っていった。
長く続いた“王子と婚約者”という物語の、静かな終わりだった。
レオンハルトは、その背を見送るように立ち尽くしていた。
「……すべての整理は、これで終わりました」
やがて彼はそう呟き、拳をゆっくりと握りしめた。
(あとは――あの人の前に、“まっすぐな自分”として立つだけだ)
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