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1-2:砂漠の遭難者
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セクション2:砂漠の遭難者
砂漠の空は晴れ渡っていた。だが、その美しさの裏に潜む厳しさを、スジャータはよく知っている。
日が昇って数時間もすれば、体感温度は40度を超える。風が吹けば、細かい砂粒が肌を焼きつける。
「東の尾根まで進んだら、一度小休止を入れましょう。湿度が昨日より下がってる。喉を乾かす前に休むのが大事よ」
そう隊に声をかけながら、スジャータは騎乗したまま視線を遠くに走らせていた。
そのとき、風に紛れて奇妙な違和感を感じた。熱気の揺らめく地平線――その向こうに、砂と色の違う影が見えたのだ。
「……あれは?」
「姫様、前方に人影!」
報告したのは先行する斥候の青年だった。彼の声に、護衛たちが身構える。
「カリム、副隊長を連れて接近して。警戒態勢を維持しつつ、負傷者がいれば救護も」
「御意」
スジャータは馬の腹を蹴り、砂丘を越える。見えてきたのは、まさに灼熱の砂に倒れた人々だった。
衣服の意匠から見て、どうやら異国の貴族か兵士。特に中央に倒れている金髪の青年の服には、見覚えのある紋章があった。
「ノルディア……まさか、そんな……」
スジャータが近づくと、青年がうっすらと目を開いた。荒い息を吐きながら、乾いた唇を開く。
「……水……」
スジャータは無言で水袋を差し出した。青年は必死で水を飲み、一息つくと、はっきりと彼女の姿を捉えた。
「……褐色の天女かと思った……」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ。名前は?」
「レオンハルト・ヴァイス……ノルディア王国の……第一王子だ」
「王子様本人って、マジなのね……」
思わず眉をしかめるスジャータ。
王子が砂漠で遭難――これは一歩間違えば国際問題だった。
「……ごめん、君は?」
「スジャータ・アミーナ・サーリャ。サーリャ王国第十八王女よ」
「十八!? そんなに王女が?」
「砂漠の国は厳しいから、たくさん子どもを持つのが文化なの。ついてこれないなら、無理しないでね」
王子はへらっと笑ったが、顔色はまだ悪い。
その姿に、スジャータは隊の者たちに的確な指示を飛ばす。
「すぐに簡易天幕を。水と食料も。日焼けと脱水で弱ってるわ、薬草茶も用意して」
「了解!」
部下たちが動き始める中、スジャータは王子を日陰に運ぶよう手伝った。
ふと彼女の手に触れた王子が、ぽつりと呟く。
「君、まるで……本当の騎士みたいだな」
「それ、褒めてるの? 王女としてはどうなのよ」
「いや、すごくカッコいいって意味」
顔を赤らめた王子を見て、スジャータは少しだけ笑った。
「ありがとう。でも私、“お飾り”や“政略結婚の駒”になるつもりはないの」
「そうは見えないよ。君の指示の出し方とか、目の鋭さとか……完全に現場の指揮官だ」
「元・社畜だったからね」
「しゃちく?」
「なんでもないわ。気にしないで」
救護が進む中、王子一行の命に別状はないことが確認された。
ただし、体力の消耗が激しく、数日間は静養が必要だった。
「……ありがとう、スジャータ王女。本当に助かった」
「いいのよ、サーリャの民として当然のことをしただけ」
「君は、サーリャを代表する者として誇り高い」
「十八番目の王女でもね」
その言葉に王子が目を見開く。スジャータは肩をすくめた。
「そろそろ、どうしてここに来たのか教えてもらえる?」
「……実は……」
王子は、近道になるはずだった未踏ルートを選び、護衛とともに強行突破を図ったことを告白した。
結果として道に迷い、迷走し、行き倒れたのだ。
「外交使節でもなく、正式な連絡もなしに越境。……外交問題になっても文句は言えないわね」
「……仰る通り」
「でも、こうして助けた以上、責任はあるわ。回復したら、ちゃんと儀礼を通してノルディアに帰りなさい」
「……ではその礼も兼ねて。君に、ノルディアを案内させてほしい」
その申し出に、スジャータは目を細めた。
――まさか、これが始まりになるとは。このときはまだ、思いもしなかった。
砂漠の空は晴れ渡っていた。だが、その美しさの裏に潜む厳しさを、スジャータはよく知っている。
日が昇って数時間もすれば、体感温度は40度を超える。風が吹けば、細かい砂粒が肌を焼きつける。
「東の尾根まで進んだら、一度小休止を入れましょう。湿度が昨日より下がってる。喉を乾かす前に休むのが大事よ」
そう隊に声をかけながら、スジャータは騎乗したまま視線を遠くに走らせていた。
そのとき、風に紛れて奇妙な違和感を感じた。熱気の揺らめく地平線――その向こうに、砂と色の違う影が見えたのだ。
「……あれは?」
「姫様、前方に人影!」
報告したのは先行する斥候の青年だった。彼の声に、護衛たちが身構える。
「カリム、副隊長を連れて接近して。警戒態勢を維持しつつ、負傷者がいれば救護も」
「御意」
スジャータは馬の腹を蹴り、砂丘を越える。見えてきたのは、まさに灼熱の砂に倒れた人々だった。
衣服の意匠から見て、どうやら異国の貴族か兵士。特に中央に倒れている金髪の青年の服には、見覚えのある紋章があった。
「ノルディア……まさか、そんな……」
スジャータが近づくと、青年がうっすらと目を開いた。荒い息を吐きながら、乾いた唇を開く。
「……水……」
スジャータは無言で水袋を差し出した。青年は必死で水を飲み、一息つくと、はっきりと彼女の姿を捉えた。
「……褐色の天女かと思った……」
「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわ。名前は?」
「レオンハルト・ヴァイス……ノルディア王国の……第一王子だ」
「王子様本人って、マジなのね……」
思わず眉をしかめるスジャータ。
王子が砂漠で遭難――これは一歩間違えば国際問題だった。
「……ごめん、君は?」
「スジャータ・アミーナ・サーリャ。サーリャ王国第十八王女よ」
「十八!? そんなに王女が?」
「砂漠の国は厳しいから、たくさん子どもを持つのが文化なの。ついてこれないなら、無理しないでね」
王子はへらっと笑ったが、顔色はまだ悪い。
その姿に、スジャータは隊の者たちに的確な指示を飛ばす。
「すぐに簡易天幕を。水と食料も。日焼けと脱水で弱ってるわ、薬草茶も用意して」
「了解!」
部下たちが動き始める中、スジャータは王子を日陰に運ぶよう手伝った。
ふと彼女の手に触れた王子が、ぽつりと呟く。
「君、まるで……本当の騎士みたいだな」
「それ、褒めてるの? 王女としてはどうなのよ」
「いや、すごくカッコいいって意味」
顔を赤らめた王子を見て、スジャータは少しだけ笑った。
「ありがとう。でも私、“お飾り”や“政略結婚の駒”になるつもりはないの」
「そうは見えないよ。君の指示の出し方とか、目の鋭さとか……完全に現場の指揮官だ」
「元・社畜だったからね」
「しゃちく?」
「なんでもないわ。気にしないで」
救護が進む中、王子一行の命に別状はないことが確認された。
ただし、体力の消耗が激しく、数日間は静養が必要だった。
「……ありがとう、スジャータ王女。本当に助かった」
「いいのよ、サーリャの民として当然のことをしただけ」
「君は、サーリャを代表する者として誇り高い」
「十八番目の王女でもね」
その言葉に王子が目を見開く。スジャータは肩をすくめた。
「そろそろ、どうしてここに来たのか教えてもらえる?」
「……実は……」
王子は、近道になるはずだった未踏ルートを選び、護衛とともに強行突破を図ったことを告白した。
結果として道に迷い、迷走し、行き倒れたのだ。
「外交使節でもなく、正式な連絡もなしに越境。……外交問題になっても文句は言えないわね」
「……仰る通り」
「でも、こうして助けた以上、責任はあるわ。回復したら、ちゃんと儀礼を通してノルディアに帰りなさい」
「……ではその礼も兼ねて。君に、ノルディアを案内させてほしい」
その申し出に、スジャータは目を細めた。
――まさか、これが始まりになるとは。このときはまだ、思いもしなかった。
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