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5-5:民の祝福と物語の結実
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セクション5:民の祝福と物語の結実
砂漠の神殿、ザルマの祭壇。
サーリャ王国で最も神聖とされるこの地は、ふだんは僧侶と祈祷師しか入れない静寂の聖域だが、今日だけは別だった。
花々で彩られた白い絹の布が石畳を覆い、貴族から庶民まで数百名の人々が砂漠の風のなかで列をなしていた。
王都全体が“祝福”に包まれていた。
王女スジャータ・アミーナ・サーリャと、ノルディア第一王子レオンハルト・ヴァイス・ノルディア。
ふたりの婚約は、単なる王族間の取り決めではない。
それは、肌の色も文化も価値観も異なるふたつの国を結ぶ、象徴のような結びつきだった。
サーリャの民たちはそれを理解していた。
だからこそ――この日を、心から祝っていた。
神殿の階段を、白銀のドレスに身を包んだスジャータがゆっくりと歩いてくる。
横には、陽の光に映える正装のレオンハルト。
二人の前を、花を手にした三人の少女が先導していた。
ナビラ、ルーシャ、そしてミミ。
「はな! はなまくよ!」
「おちついて、ミミ! もっと、ゆっくり!」
「ふぁいっ!」
ミミが勢いよく花びらを撒くと、神殿の空気がぱっと華やいだ。
民衆のなかから歓声があがる。
「すじゃーたさま!」「王女様、ばんざい!」
「ノルディアの王子も立派じゃのう」
スジャータの頬が少しだけ赤くなる。
しかしその表情は、王女としての気品と誇りを崩さないまま、微笑みに変わっていった。
ミミが、花を撒きながら振り返る。
「すじゃーたさま、いちばんつよい王女さま!」
それは、誤解の入り混じった素朴な称賛だった。
だが、スジャータはそれを“真実”として受け取る。
(……そうね。強くあらねばならない。選んだ以上は、誇りを持って歩むの)
祭壇前にたどり着くと、女王ザフィーラがその中央で二人を迎えた。
母であり、国の頂点であり、何より今日の立会人だった。
「……この婚約を、我がサーリャ王家とノルディア王家の名において、正式に承認します」
その宣言に、参列者たちが拍手を送る。
「おめでとう!」「これで平和が続く!」
「未来に栄光あれ!」
ザフィーラが小さく頷くと、スジャータの肩にそっと手を添えた。
「……よくやったわね。これからが、本当の勝負よ」
「はい、母上」
そしてレオンハルトに向かって。
「娘を、任せるわよ。
泣かせたら、国を挙げて追いかけるつもりだから」
「……それは、全力で回避させていただきます」
笑いが起きる中、式は無事に終わった。
だが、スジャータとレオンハルトはまだ祭壇の上にいた。
参列者たちがざわめくなか、スジャータが一歩前に出て、静かに言った。
「本日、皆様の前で誓いを立てたこの婚約は、政治のためだけのものではありません。
私は、誇りをもって、この方を私の未来に迎えます」
その瞳には、一片の迷いもなかった。
「この国の王女として。ひとりの人間として。
私は、“自分で選んだ”相手と共に生きることを誓います」
その言葉に、民たちは深く心を動かされた。
褐色の王女と、白き王子。
遠いようで、隣にいたふたりが、いまここに“同じ未来”を誓った。
それは、たしかに新しい歴史の始まりだった。
***
翌日。
スジャータとレオンハルトは、ふたりきりでオアシスへと出かけた。
ラクダの背に揺られながら、王都から数キロ離れた静かな水源――彼女がかつて見つけた“あの場所”へ。
「……ねぇ、覚えてる? 私、このオアシスを見つけたとき、“始まり”だと思ったの」
「うん。自分の力で誰かを救えるって、証明した場所だろ?」
「そう。でもね、今は違うの。
ここが“始まり”なんじゃなくて……“始まりだった”って、いまなら分かる」
レオンハルトは、そっと彼女の手を握った。
「今は、もっと確かな未来がある。君となら、何があっても進んでいける」
スジャータは、しばらく空を見上げて――そっと笑った。
「この場所に、ちゃんと名を付けようと思ってたの」
「名?」
「“ユウナ”――サーリャ語で、“目覚め”って意味。
ここからすべてが始まったから」
レオンハルトはその言葉を噛み締めるように頷き、ふたりは手を繋いだまま、広がる砂漠の風を感じていた。
――これは、ただの政略婚ではない。
ただの恋愛劇でもない。
運命に“与えられた”関係ではなく、“選び取った”未来。
それが、王女スジャータと王子レオンハルトの物語の結実だった。
風が、ふたりの髪をやさしく撫でた。
そして、物語は静かに――けれど確かに――幕を閉じた。
砂漠の神殿、ザルマの祭壇。
サーリャ王国で最も神聖とされるこの地は、ふだんは僧侶と祈祷師しか入れない静寂の聖域だが、今日だけは別だった。
花々で彩られた白い絹の布が石畳を覆い、貴族から庶民まで数百名の人々が砂漠の風のなかで列をなしていた。
王都全体が“祝福”に包まれていた。
王女スジャータ・アミーナ・サーリャと、ノルディア第一王子レオンハルト・ヴァイス・ノルディア。
ふたりの婚約は、単なる王族間の取り決めではない。
それは、肌の色も文化も価値観も異なるふたつの国を結ぶ、象徴のような結びつきだった。
サーリャの民たちはそれを理解していた。
だからこそ――この日を、心から祝っていた。
神殿の階段を、白銀のドレスに身を包んだスジャータがゆっくりと歩いてくる。
横には、陽の光に映える正装のレオンハルト。
二人の前を、花を手にした三人の少女が先導していた。
ナビラ、ルーシャ、そしてミミ。
「はな! はなまくよ!」
「おちついて、ミミ! もっと、ゆっくり!」
「ふぁいっ!」
ミミが勢いよく花びらを撒くと、神殿の空気がぱっと華やいだ。
民衆のなかから歓声があがる。
「すじゃーたさま!」「王女様、ばんざい!」
「ノルディアの王子も立派じゃのう」
スジャータの頬が少しだけ赤くなる。
しかしその表情は、王女としての気品と誇りを崩さないまま、微笑みに変わっていった。
ミミが、花を撒きながら振り返る。
「すじゃーたさま、いちばんつよい王女さま!」
それは、誤解の入り混じった素朴な称賛だった。
だが、スジャータはそれを“真実”として受け取る。
(……そうね。強くあらねばならない。選んだ以上は、誇りを持って歩むの)
祭壇前にたどり着くと、女王ザフィーラがその中央で二人を迎えた。
母であり、国の頂点であり、何より今日の立会人だった。
「……この婚約を、我がサーリャ王家とノルディア王家の名において、正式に承認します」
その宣言に、参列者たちが拍手を送る。
「おめでとう!」「これで平和が続く!」
「未来に栄光あれ!」
ザフィーラが小さく頷くと、スジャータの肩にそっと手を添えた。
「……よくやったわね。これからが、本当の勝負よ」
「はい、母上」
そしてレオンハルトに向かって。
「娘を、任せるわよ。
泣かせたら、国を挙げて追いかけるつもりだから」
「……それは、全力で回避させていただきます」
笑いが起きる中、式は無事に終わった。
だが、スジャータとレオンハルトはまだ祭壇の上にいた。
参列者たちがざわめくなか、スジャータが一歩前に出て、静かに言った。
「本日、皆様の前で誓いを立てたこの婚約は、政治のためだけのものではありません。
私は、誇りをもって、この方を私の未来に迎えます」
その瞳には、一片の迷いもなかった。
「この国の王女として。ひとりの人間として。
私は、“自分で選んだ”相手と共に生きることを誓います」
その言葉に、民たちは深く心を動かされた。
褐色の王女と、白き王子。
遠いようで、隣にいたふたりが、いまここに“同じ未来”を誓った。
それは、たしかに新しい歴史の始まりだった。
***
翌日。
スジャータとレオンハルトは、ふたりきりでオアシスへと出かけた。
ラクダの背に揺られながら、王都から数キロ離れた静かな水源――彼女がかつて見つけた“あの場所”へ。
「……ねぇ、覚えてる? 私、このオアシスを見つけたとき、“始まり”だと思ったの」
「うん。自分の力で誰かを救えるって、証明した場所だろ?」
「そう。でもね、今は違うの。
ここが“始まり”なんじゃなくて……“始まりだった”って、いまなら分かる」
レオンハルトは、そっと彼女の手を握った。
「今は、もっと確かな未来がある。君となら、何があっても進んでいける」
スジャータは、しばらく空を見上げて――そっと笑った。
「この場所に、ちゃんと名を付けようと思ってたの」
「名?」
「“ユウナ”――サーリャ語で、“目覚め”って意味。
ここからすべてが始まったから」
レオンハルトはその言葉を噛み締めるように頷き、ふたりは手を繋いだまま、広がる砂漠の風を感じていた。
――これは、ただの政略婚ではない。
ただの恋愛劇でもない。
運命に“与えられた”関係ではなく、“選び取った”未来。
それが、王女スジャータと王子レオンハルトの物語の結実だった。
風が、ふたりの髪をやさしく撫でた。
そして、物語は静かに――けれど確かに――幕を閉じた。
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