『婚約破棄された令嬢は、静かに王国から不要な者を消していく』

ふわふわ

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第十四話 責任の所在

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第十四話 責任の所在

 責任とは、押しつけ合うものではない。
 だが、押しつけ合いが始まった時点で、
 その場に「引き受ける者」がいないことだけは、はっきりする。

 王都南区で起きた小さなトラブルは、最初、誰の目にも取るに足らないものに見えた。
 輸送が一日遅れただけ。
 書類の確認が一段階、抜け落ちただけ。

 だが、その「だけ」が連なった結果、
 複数の商会が同時に損失を被る事態となった。

「最終確認は、どこが行うことになっていた?」

 臨時に開かれた会合で、重苦しい声が響く。

「それは……従来通り、グレイソン伯爵家が」

「しかし、今回の契約では、明記されていませんでした」

 誰かが言い、誰かが黙る。

 クラリス・フォン・エルヴェインは、その場に呼ばれていた。
 関係者の一人として。
 だが、彼女は主導権を握るために来たわけではない。

 ただ、事実を整理するために。

「責任が曖昧なまま進められたのが原因です」

 彼女の声は、冷静だった。

「誰が最終判断を下すのか。誰が損失を負担するのか。その定義が、途中で消えています」

 その言葉に、視線が集まる。

「では、どうすべきだったと?」

 問いかけに、彼女は即答した。

「定義を残すべきでした。変更があったなら、文書に反映させる。それだけです」

 単純な答えだった。
 だが、誰もそれを実行していなかった。

 会合は、結論を出すまでに長い時間を要した。
 損失は、分担という形で処理されることになったが、
 不満は残った。

 そして、その不満は、必ず向かう先を探す。

 一方、グレイソン伯爵家では、その矛先が、はっきりと向けられていた。

「説明が必要です、伯爵」

 家臣の声には、遠慮がなかった。

「これまでなら、こうした事態は起きなかった」

 アーヴィン・グレイソンは、言葉に詰まる。

 彼は、責任を逃れようとは思っていなかった。
 だが、引き受ける準備もできていなかった。

「……今は、体制を立て直している最中だ」

「その“最中”に、失った信用は戻りません」

 痛烈な言葉だった。

 同じ頃、エルヴェイン侯爵家では、別の報告が上がっていた。

「南区の件、当家への直接の影響はありません」

「そうですか」

 クラリスは、静かに答える。

「ただし、各所で“基準を明文化する動き”が加速しています」

 彼女は、小さく頷いた。

「当然の流れです」

 混乱は、人を学ばせる。
 だが、その学習には、必ず代償が伴う。

 夜、クラリスは一人、書斎で考えていた。

 責任を引き受けることは、重い。
 だからこそ、多くの人は避けたがる。

 だが、責任の所在が明確であることは、
 組織にとって、何よりの安定剤だ。

 それを、彼女は知っている。
 だから、明確にする。

 同じ夜、アーヴィンは、机に向かい、何も書けずにいた。

 責任は、ここにある。
 だが、
 それを引き受けた瞬間、
 失ったものの大きさを、
 認めることになる。

 彼は、まだ踏み出せない。

 そして、その迷いこそが、
 決定的な差になっていく。

 クラリス・フォン・エルヴェインは、
 灯りを落とし、
 静かに席を立った。

 責任の所在が曖昧な場所に、
 未来はない。

 それが、
 この世界で最も確かな現実だった。
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