『婚約破棄された令嬢は、静かに王国から不要な者を消していく』

ふわふわ

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第十七話 判断の重さ

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第十七話 判断の重さ

 判断を任されるということは、
 同時に、その結果を引き受ける覚悟を問われるということだ。

 王都での一連の再編が動き出してから、
 決定の速度は、明らかに上がっていた。

 だが、それは楽になったという意味ではない。

 クラリス・フォン・エルヴェインは、
 むしろ以前よりも、静かな緊張の中にいた。

 侯爵家の執務室。
 机の上には、三通の報告書が並んでいる。

 いずれも、彼女の判断によって進められた案件だ。
 一つは順調。
 一つは、予想通りの摩擦。
 そしてもう一つは――想定外の損失。

「……想定より、被害が広がりましたか」

 補佐官の声は、低かった。

「はい。ただし、最悪の事態は避けられています。判断が一日遅れていれば……」

「分かっています」

 クラリスは、静かに書類を閉じた。

 失敗ではない。
 だが、成功とも言えない。

 それが、判断の現実だ。

「責任は、当家にあります」

 彼女は、淡々と告げた。

「補填案をまとめてください。関係各所への説明も、こちらで行います」

「……よろしいのですか」

「はい。判断したのは、私ですから」

 その言葉に、補佐官は何も返さなかった。
 返す必要がなかった。

 一方、グレイソン伯爵家では、同じ報告が、別の形で受け取られていた。

「……エルヴェイン家が、補填を引き受けた?」

 アーヴィン・グレイソンは、信じられないという表情で書面を読む。

「責任は、分担できたはずでは……」

「しかし、当家は判断に関与しておりません」

 家臣の言葉は、事実だった。

 関与していない。
 だから、責任もない。

 だが、その“安全”は、
 評価にはつながらない。

「……なぜ、そこまで背負う」

 アーヴィンの呟きには、困惑が混じっていた。

 彼には理解できなかった。
 なぜ、自ら重荷を引き受けるのか。

 その答えは、
 重荷を引き受けた者にしか、見えない。

 数日後、関係各所への説明が行われた。

 クラリスは、逃げなかった。
 言い訳もしなかった。

「判断はこちらです。結果についても、当家が責任を負います」

 その姿勢に、
 不満はあっても、反発は起きなかった。

 責任を引き受ける者に、
 人は、意外なほど厳しくなれない。

 会合の後、ある商会主が、静かに言った。

「……判断が間違うことは、あります。しかし、逃げない方は、初めて見ました」

 それは、賞賛でも、皮肉でもない。
 事実の確認だった。

 夜、クラリスは一人、書斎で灯りを落とした。

 判断は、重い。
 常に、正解があるわけではない。

 だが、
 引き受ける覚悟があるかどうかは、
 はっきりとした違いを生む。

 同じ夜、アーヴィンは、机に向かい、何も書けずにいた。

 彼は、責任を負わずに済んできた。
 だからこそ、今、任されない。

 安全な場所に立ち続けた結果、
 場そのものから、外れている。

 それを、
 ようやく、理解し始めていた。

 クラリス・フォン・エルヴェインは、
 静かに息を整える。

 判断の重さは、
 彼女を潰してはいない。

 むしろ――
 立場を、決定的なものにしていた。

 ざまあは、
 もはや相手を見なくても進む。

 選ばれ、任され、引き受けた者だけが、
 前に進む世界で。

 置き去りにされる者が、
 誰なのかは、
 もう明白だった。
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