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第二十話 名を呼ばれない席
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第二十話 名を呼ばれない席
席が、
最初から用意されていなかったわけではない。
ただ――
誰にも呼ばれなくなっただけだ。
王都中央評議会。
それは形式上、あらゆる伯爵以上の貴族が意見を述べられる場とされている。
だが実際には、
「意見が反映される者」と
「発言しても記録に残るだけの者」に分かれていた。
その違いは、
名簿に表れない。
視線の向きと、
議事の流れだけが知っている。
「次の案件について、エルヴェイン伯爵の見解を」
議長の声が響く。
クラリスは、立ち上がらない。
座ったまま、静かに口を開く。
「現行案で問題ありません。ただし、三点修正が必要です」
即座に、数名が頷いた。
「第一に、地方倉庫の管理権限を分散させないこと。第二に――」
説明は簡潔で、無駄がない。
誰も、遮らない。
質問は、最後にまとめて出る。
それが、
彼女の発言が前提として受け入れられている証だった。
一方、
グレイソン伯爵家の席。
アーヴィンは、
背筋を正して座っていた。
書類も用意している。
意見も、まとめてきた。
だが――
名は、呼ばれない。
議題が進む。
結論が出る。
そして、次の案件へ。
「……以上で、本日の主要議題は終了です」
議長がそう告げた瞬間、
アーヴィンは、ようやく理解した。
自分は、
最初から数に入れられていなかったのだと。
会議後の控え室。
人々は自然と、
クラリスの周囲に集まった。
「先ほどの修正案ですが、実務上の調整は――」
「こちらの都市では、反発が予想されますが」
彼女は、一つずつ答える。
その場で決める。
必要なら、次の指示を出す。
誰も、彼女に確認を取らずに動こうとしない。
それが、
信頼というものだった。
一方、
アーヴィンは、控え室の隅で立っていた。
話しかける相手がいない。
話しかけても、
「後ほど」と曖昧にかわされる。
悪意はない。
ただ、優先度が低いだけだ。
それが、
最も残酷だった。
屋敷に戻った夜。
アーヴィンは、
評議会の議事録を読み返していた。
そこに、自分の名はあった。
出席者として。
それだけだ。
発言欄は、空白。
意見も、提案も、
記録されていない。
「……なるほど」
彼は、小さく息を吐いた。
これが、
現実なのだ。
不正をしたわけではない。
失態を犯したわけでもない。
ただ――
選ばれ続けなかった結果だ。
一方、クラリスは、
評議会後も仕事を続けていた。
夜更け。
机に積まれた書類を前に、
側近が言う。
「今日の会議、グレイソン伯爵は……」
「ええ。いらしていましたね」
それ以上、言葉は続かなかった。
彼女は、理解している。
だからこそ、
余計なことは言わない。
選ばれないということは、
誰かに否定されたわけではない。
選ばれる理由を、積み重ねられなかっただけだ。
それを、
覆す機会は、もう来ない。
ざまあは、
断罪では終わらない。
名を呼ばれない席に、
ただ座り続ける時間として、続いていく。
そしてその静けさは、
叫びよりも、
深く心を削る。
席が、
最初から用意されていなかったわけではない。
ただ――
誰にも呼ばれなくなっただけだ。
王都中央評議会。
それは形式上、あらゆる伯爵以上の貴族が意見を述べられる場とされている。
だが実際には、
「意見が反映される者」と
「発言しても記録に残るだけの者」に分かれていた。
その違いは、
名簿に表れない。
視線の向きと、
議事の流れだけが知っている。
「次の案件について、エルヴェイン伯爵の見解を」
議長の声が響く。
クラリスは、立ち上がらない。
座ったまま、静かに口を開く。
「現行案で問題ありません。ただし、三点修正が必要です」
即座に、数名が頷いた。
「第一に、地方倉庫の管理権限を分散させないこと。第二に――」
説明は簡潔で、無駄がない。
誰も、遮らない。
質問は、最後にまとめて出る。
それが、
彼女の発言が前提として受け入れられている証だった。
一方、
グレイソン伯爵家の席。
アーヴィンは、
背筋を正して座っていた。
書類も用意している。
意見も、まとめてきた。
だが――
名は、呼ばれない。
議題が進む。
結論が出る。
そして、次の案件へ。
「……以上で、本日の主要議題は終了です」
議長がそう告げた瞬間、
アーヴィンは、ようやく理解した。
自分は、
最初から数に入れられていなかったのだと。
会議後の控え室。
人々は自然と、
クラリスの周囲に集まった。
「先ほどの修正案ですが、実務上の調整は――」
「こちらの都市では、反発が予想されますが」
彼女は、一つずつ答える。
その場で決める。
必要なら、次の指示を出す。
誰も、彼女に確認を取らずに動こうとしない。
それが、
信頼というものだった。
一方、
アーヴィンは、控え室の隅で立っていた。
話しかける相手がいない。
話しかけても、
「後ほど」と曖昧にかわされる。
悪意はない。
ただ、優先度が低いだけだ。
それが、
最も残酷だった。
屋敷に戻った夜。
アーヴィンは、
評議会の議事録を読み返していた。
そこに、自分の名はあった。
出席者として。
それだけだ。
発言欄は、空白。
意見も、提案も、
記録されていない。
「……なるほど」
彼は、小さく息を吐いた。
これが、
現実なのだ。
不正をしたわけではない。
失態を犯したわけでもない。
ただ――
選ばれ続けなかった結果だ。
一方、クラリスは、
評議会後も仕事を続けていた。
夜更け。
机に積まれた書類を前に、
側近が言う。
「今日の会議、グレイソン伯爵は……」
「ええ。いらしていましたね」
それ以上、言葉は続かなかった。
彼女は、理解している。
だからこそ、
余計なことは言わない。
選ばれないということは、
誰かに否定されたわけではない。
選ばれる理由を、積み重ねられなかっただけだ。
それを、
覆す機会は、もう来ない。
ざまあは、
断罪では終わらない。
名を呼ばれない席に、
ただ座り続ける時間として、続いていく。
そしてその静けさは、
叫びよりも、
深く心を削る。
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