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第三十八話 空席という現実
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第三十八話 空席という現実
翌朝、その席は空いていた。
特別な掲示はない。
名前が消されたわけでもない。
ただ、そこにいるはずの人物が、いない。
それだけで、十分だった。
執務室の扉は開いたままになっている。中は整えられており、書類も私物も残されていない。急に姿を消したように見えるが、実際には違う。役割を終えた者は、こうして静かに退く。それが、この王宮のやり方だった。
アーヴィンは、廊下の先からその様子を一瞥しただけで、足を止めなかった。確認する必要はない。通知はすでに回っている。今さら詮索するのは、手続きの外だ。
それでも、人は空席を見る。
誰も口には出さないが、視線は自然とそこに集まる。昨日まで命令が出され、判断が下されていた場所が、今日は沈黙している。その落差が、何より雄弁だった。
午前中の会議は、予定通り行われた。
議題も進行も、何一つ変わらない。違うのは、発言の順番だけだ。これまでその席から出ていた意見が、今日は別の名で読み上げられる。
それは引き継ぎではない。
代替だ。
役割は個人に属さない。
個人が役割に属しているだけだ。
クラリスは、会議の終盤で一度だけ視線を上げた。空席を見たのではない。空席があるという事実を、全員が理解していることを確認しただけだ。
「次に進みましょう」
その一言で、場は動いた。
滞りはない。ためらいもない。
昼過ぎ、処分対象だった人物が王宮を離れたという報告が入る。形式的な報告だ。どこへ行くのか、何をするのかは記されていない。記されないということが、すべてだった。
名はまだ残っている。
戸籍にも、記録にも。
だが、判断の場からは完全に外れた。
それは、回復不能な位置だ。
アーヴィンは、ふと気づく。
ざまあとは、相手を見下ろすことではない。自分が関わらなくなることだ。
怒りも、勝利感もいらない。
相手の存在が、自分の判断に影響しなくなる。その地点に到達した時点で、すでに決着はついている。
夕刻、王宮の業務はいつも通り終わった。
人々は帰路につき、灯りが一つずつ落ちていく。
空席は、最後まで空いたままだった。
そして明日、その席は「かつて誰かが座っていた場所」としてではなく、最初からそうであったかのように扱われる。
制度にとって、それ以上の処罰は存在しない。
それが、この王宮における最終的なざまだった。
翌朝、その席は空いていた。
特別な掲示はない。
名前が消されたわけでもない。
ただ、そこにいるはずの人物が、いない。
それだけで、十分だった。
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アーヴィンは、廊下の先からその様子を一瞥しただけで、足を止めなかった。確認する必要はない。通知はすでに回っている。今さら詮索するのは、手続きの外だ。
それでも、人は空席を見る。
誰も口には出さないが、視線は自然とそこに集まる。昨日まで命令が出され、判断が下されていた場所が、今日は沈黙している。その落差が、何より雄弁だった。
午前中の会議は、予定通り行われた。
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それは引き継ぎではない。
代替だ。
役割は個人に属さない。
個人が役割に属しているだけだ。
クラリスは、会議の終盤で一度だけ視線を上げた。空席を見たのではない。空席があるという事実を、全員が理解していることを確認しただけだ。
「次に進みましょう」
その一言で、場は動いた。
滞りはない。ためらいもない。
昼過ぎ、処分対象だった人物が王宮を離れたという報告が入る。形式的な報告だ。どこへ行くのか、何をするのかは記されていない。記されないということが、すべてだった。
名はまだ残っている。
戸籍にも、記録にも。
だが、判断の場からは完全に外れた。
それは、回復不能な位置だ。
アーヴィンは、ふと気づく。
ざまあとは、相手を見下ろすことではない。自分が関わらなくなることだ。
怒りも、勝利感もいらない。
相手の存在が、自分の判断に影響しなくなる。その地点に到達した時点で、すでに決着はついている。
夕刻、王宮の業務はいつも通り終わった。
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空席は、最後まで空いたままだった。
そして明日、その席は「かつて誰かが座っていた場所」としてではなく、最初からそうであったかのように扱われる。
制度にとって、それ以上の処罰は存在しない。
それが、この王宮における最終的なざまだった。
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