サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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27話 “献身的”と誤解される

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27話 “献身的”と誤解される

 派遣初日。

 シャマルは、特別なことは何もしなかった。

 決められた時間に起き、
 決められた経路で移動し、
 決められた場所で待機する。

 それだけだ。

 だが――それだけで、周囲の評価は勝手に動き出す。


---

「……想像していたより、ずっと静かな方ですね」

 ルヴァンディア王国側の補佐官が、控えめにそう言った。

「そうですか?」

 シャマルは首を傾げる。

「私、指示されたことしかしていませんが」

 それは事実だった。

 余計な助言もしない。
 自発的な奇跡も起こさない。
 前に出ることも、後ろに下がることもない。

 契約通り。


---

 だが、外から見れば違った。

「聖女様は、
 自ら前に出て人々を癒すこともなく、
 黙って必要な場に留まり続けている……」

「……それが、かえって尊いのでは?」

 そんな声が、静かに広がっていく。

 “出しゃばらない”
 “要求しない”
 “静かに応じる”

 それらが、いつの間にか
 献身的
 謙虚
 深い覚悟

 という言葉に変換されていた。


---

「……どうして、そんな評価になるのかしら」

 控え室で、シャマルはぽつりと呟いた。

 隣にいたステルヴィオが、肩をすくめる。

「何もしないのに、
 そこに居続ける人は珍しいからです」

「普通でしょう?」

「普通じゃありません」

 即答だった。


---

 この日、彼女が行った行動は三つだけだ。

 一つ。
 体調を崩した侍女に、医師を呼ぶよう促した。

 二つ。
 礼拝堂で倒れかけた老人を、支えただけ。

 三つ。
 祈祷の場で、順番を守って列に並んだ。

 癒しは使っていない。
 奇跡も起こしていない。

 ――ただ、そこに居ただけ。


---

「聖女様が……並んでいらっしゃった……」

「特別扱いを、なさらなかった……」

「献身的だ……」

 囁きは、噂に変わる。

 シャマルは、頭を抱えたくなった。

(違います……)

(これは、
 “何もしない”を守っているだけです……)


---

 夜。

 派遣先責任者が、慎重に切り出した。

「……あの」

「はい」

「もっと、ご自由に動いていただいても……」

 シャマルは、即座に首を振る。

「それは契約違反です」

 きっぱり。

「派遣期間中、
 私の行動範囲と役割は、文書で定められています」

「善意であっても、
 逸脱はしません」

 その言葉に、相手は言葉を失った。


---

「……そこまで、徹底されるとは」

「徹底しないと、
 誤解が生まれますから」

 すでに生まれているが、
 そこは突っ込まない。


---

 翌日。

 王都の一角で、小さな噂が立った。

「聖女様は、
 奇跡を起こさない」

「それなのに、
 人々の前から離れない」

「……なんて、献身的なんだ」

 完全に、方向がズレている。


---

 シャマルは、その噂を聞いて深く息を吐いた。

「……どうして、
 “普通にしている”が
 “献身”になるのかしら」

 ステルヴィオは、少し考えて答える。

「皆、
 “特別な存在”は、
 特別な行動をするものだと思っているからです」

「だから、
 特別な立場で普通にいると――」

「勝手に、
 意味を足される」

 シャマルは、額に手を当てた。

「迷惑ですね」

「……ええ」


---

 その夜、派遣先から本国へ報告が送られた。

『聖女シャマルは、
 極めて節度ある態度を保ち、
 自らを前に出すことなく、
 静かに役目を果たしている』

『人々の間では、
 その姿勢を“献身的”と評価する声が広がっている』


---

 シャマルは、その写しを読み、静かに呟いた。

「……契約通りにしているだけで、
 美化されるのは困ります」

 だが。

 その“誤解”は、
 すでに彼女の意思とは無関係に、
 広がり始めていた。

 何もしないことで、
 勝手に意味を与えられる――

 それが、この派遣の
 一番厄介な副作用だと、
 彼女はまだ、完全には理解していなかった。
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