サブスク聖女と偽装婚約、始めました 〜婚約は、サブスクできないのでお断りです〜

ふわふわ

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31話 偽装婚約、その役目の終わり

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31話 偽装婚約、その役目の終わり

 確認は、静かな部屋で行われた。

 王宮でも、評議会でもない。
 誰かに見せるための場ではなく、
 終わらせるための場だ。

 シャマル、ウィットン、ステルヴィオ。
 最低限の顔ぶれだけが揃っている。


---

「……で」

 ウィットンが、机の上の資料を閉じた。

「公式には、
 まだ“婚約中”という扱いだ」

「ええ」

 シャマルは頷く。

「ですが、
 機能はすでに失われています」

 それは、評価でも批判でもない。
 単なる事実だ。


---

 偽装婚約の役割は、明確だった。

・王太子周辺の不安定要素を一時的に受け止める
・派閥同士の衝突を、正面衝突にさせない
・「聖女」を政治的爆心地から、少しだけずらす

 ――すべて、達成されている。

 しかも、
 予想より穏便に。


---

「アルナージの婚約成立」

「派閥の自己崩壊」

「国外案件も、
 契約順守で処理済み」

 ステルヴィオが、淡々と並べる。

「これ以上、
 偽装婚約を続ける理由はありません」

「同意です」

 シャマルは、即答した。

 迷いは、ない。


---

「……名残惜しくは?」

 ウィットンが、冗談めかして尋ねる。

 シャマルは、少し考えてから首を振った。

「いいえ」

「役割を終えたものに、
 未練を持つ理由はありません」

「冷たいなあ」

「合理的です」


---

 沈黙が落ちる。

 それは、気まずさではなく、
 確認が終わった後の静けさだ。

 誰もが、分かっている。

 この偽装婚約は、
 成功した。

 だからこそ、
 続けてはいけない。


---

「問題は、
 終わらせ方だ」

 ウィットンが、真顔になる。

「自然消滅は、
 噂を生む」

「密かに解消すれば、
 裏を疑われる」

「派手すぎれば、
 余計な火種になる」

 どれも、正しい。


---

「ですから」

 シャマルは、静かに口を開いた。

「公式に終わらせます」

 二人が、同時に顔を上げた。


---

「誰もが見て、
 誰もが納得する形で」

「感情論ではなく、
 制度として」

「そして、
 私が“完全に自由”になる形で」

 言い切りだった。

 逃げでも、強がりでもない。


---

「……覚悟は?」

 ステルヴィオが問う。

「あります」

 シャマルは、間髪入れずに答えた。

「私は、
 “偽装”の役目で評価される存在ではありません」

「それを、
 はっきりさせる必要があります」


---

 ウィットンは、しばらく黙ってから笑った。

「……だろうね」

「じゃあ、
 次は“舞台”の話だ」

 その言葉に、
 シャマルは小さく息を吐いた。

「ええ」

「終わらせるための舞台です」


---

 書類が、新たに広げられる。

 日時。
 場所。
 立会人。
 発表文。

 すべてが、
 冷静に、機械的に決められていく。

 それが、この三人らしい。


---

 最後に、
 ウィットンが確認した。

「もう一度聞く」

「この偽装婚約を――
 本当に終わらせる」

 シャマルは、
 迷いなく頷いた。

「はい」

「役目は、
 もう終わっています」


---

 その夜。

 自室に戻ったシャマルは、
 一人で窓辺に立った。

 月は静かで、
 騒ぎの気配はない。

「……始まりより、
 終わりの方が大変ですね」

 小さく呟く。

 だが、
 それでも。

 終わらせることを、
 彼女は選んだ。

 偽装婚約は、
 ここで“役目を終えた”。

 残るのは、
 公式な幕引きだけ。

 次は、
 台本を書く番だ。
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