『勘違い殿下の逆恨みは、鉄壁の公爵家に砕け散る~聖女と元婚約者が手を取り合った結果~』

ふわふわ

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第14話 届かない手

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第14話 届かない手

北の街道を、南へ向かう馬車列。

イセッタ、ソニア、ルクシオ、そしてノルドハイム私兵団の精鋭五十名が、厳重に護衛を固めていた。  
雪は止み、道は凍てついていたが、馬車は順調に進んでいた。

馬車の中、イセッタとルクシオは向かい合って座り、地図を広げていた。

「王都に戻ったら、すぐに王家の治療を依頼されるわね」

イセッタが言う。

ルクシオが頷く。

「ソニアの力で、噂は一掃できる。  
だが……王宮の空気は、荒れているらしい」

彼はイセッタの手を取り、静かに言った。

「俺が傍にいる。  
何かあれば、すぐに守る」

イセッタは微笑み、手を握り返した。

「ありがとう。  
でも、私ももう、ただの令嬢じゃないわ」

ソニアが隣で、少し緊張した顔で聞いていた。

「私……ちゃんと、力を発揮できるかな……」

イセッタが優しく肩を抱く。

「大丈夫。  
あなたは本物の聖女よ」

馬車列は、予定通り進んでいた。

――しかし。

街道の奥、雪に覆われた森の陰。

十数人の男たちが、息を潜めて待機していた。

黒い外套に身を包み、顔を布で隠した傭兵たち。  
武器は鋭く磨かれ、馬は雪音を立てぬよう布を巻かれている。

リーダーの男が、低い声で部下に命じた。

「標的は、あの馬車列だ。  
中央の豪華な馬車に、黒髪の女と金髪の少女が乗っているはず」

部下が頷く。

「依頼主の指示は?」

「女二人を傷つけること。  
死んでも構わん。  
ただし、ノルドハイムの護衛が強い。  
一撃で仕留められなければ、撤退だ」

男たちは、弓を構え、剣を握った。

馬車列が、森の曲がり角に差し掛かる。

――今だ。

矢が、雪の空を切り裂いて放たれた。

しかし。

「敵襲!」

先頭のノルドハイム騎士が、即座に叫んだ。

矢は、馬車の屋根に張られた魔力結界に弾かれ、地面に落ちる。

ルクシオが、馬車の中で即座に立ち上がった。

「伏せろ!」

彼はイセッタとソニアを床に押し倒し、剣を抜いた。

馬車が急停止し、私兵団が一斉に展開。

傭兵たちは、矢を連射したが、すべて結界に阻まれる。

「結界が強すぎる!」

リーダーが焦る。

「突撃だ! 近づいて斬り込め!」

傭兵たちが馬を駆り、森から飛び出した。

しかし――

ノルドハイム私兵団は、王国最強と呼ばれるだけあった。

盾を構えた騎士たちが壁を作り、弓兵が反撃を開始。

矢が、正確に傭兵たちを射抜く。

「ぐあっ!」

「撤退だ!」

リーダーが叫ぶが、すでに遅い。

ルクシオが馬車から飛び出し、自ら剣を振るった。

黒い軍服が雪を舞い上げ、一閃。

三人の傭兵が、瞬時に倒れる。

残りの傭兵たちは、恐怖に駆られて逃げ散った。

戦闘は、わずか数分で終わった。

捕縛された傭兵が、数名。

ルクシオが、冷たい声で尋問する。

「誰の差し金だ?」

傭兵は震えながら、口を割った。

「……王、王太子殿下の……側近から……」

ルクシオの瞳が、鋭く細くなった。

イセッタが馬車から降り、静かに近づいた。

「殿下……ね」

彼女は捕虜を見下ろし、穏やかに言った。

「証拠は?」

傭兵が、懐から一枚の紙を取り出した。

そこには、エクウス側近の署名と、王太子の印が押されていた。

イセッタはそれを手に取り、静かに畳んだ。

「ありがとう」

ルクシオが、イセッタを抱き寄せた。

「怪我は?」

「ないわ。  
あなたのおかげ」

ルクシオは、捕虜たちを部下に預け、宣言した。

「この件は、必ず王都で明らかにする」

馬車列は、再び進み始めた。

今度は、護衛をさらに強化して。

その夜、野営地。

イセッタは、ルクシオと並んで焚き火を見ていた。

「殿下……ここまでするなんて」

ルクシオが、低い声で言った。

「逆恨みだ。  
貴女が自由になり、幸せそうにしているのが……許せないらしい」

イセッタは、静かに微笑んだ。

「でも、もう届かないわ」

彼女はルクシオの手を取った。

「私には、あなたがいる」

ルクシオが、強く握り返す。

「一生、守る」

ソニアが、少し離れたところで、二人を見守っていた。

(イセッタ様……本当に、強くなった)

王宮。

エクウスは、情報屋からの急報を待っていた。

扉が乱暴に開き、男爵が血相を変えて入ってきた。

「殿下……失敗です!」

エクウスが立ち上がる。

「なんだと?」

「刺客が、ノルドハイムの護衛に全滅。  
数名が捕縛され……すでに、殿下の側近の名が……」

エクウスは、椅子に崩れ落ちた。

「そんな……!  
なぜ、届かない……!」

彼の計画は、すべて失敗に終わった。

イセッタの手は、もう届かない場所にあった。

ルクシオの鉄壁の守り。

そして、イセッタ自身の、冷静な準備。

届かない手は、ただ空を掴むだけ。

エクウスは、初めて、絶望の淵を覗いた。

馬車列は、王都へ向かって進み続ける。

ソニアの力が、噂を払拭する日が近づいていた。

そして、エクウスの陰謀が、明るみに出る時も――。

雪の街道は、静かに、すべてを見守っていた。
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