『勘違い殿下の逆恨みは、鉄壁の公爵家に砕け散る~聖女と元婚約者が手を取り合った結果~』

ふわふわ

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第16話 ルクシオの溺愛

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 第16話 ルクシオの溺愛

レーヴェント公爵屋敷に戻ってから、数日が経っていた。

王宮での治療事件は、王国中に大きな話題を呼び、ソニアの名は「奇跡の聖女」として民衆の間で讃えられるようになった。  
一方、エクウス王太子の評判は、街道襲撃の噂が貴族社会に広がり始め、底なしに落ち続けていた。

東別邸の庭園。

春の陽気が近づき、雪解けの水が小川となって流れ、早咲きの花々が色を添え始めていた。  
イセッタは、ルクシオと並んで散歩をしていた。

ルクシオは、黒い軍服ではなく、珍しく軽やかな上着姿。  
北の冷たい印象が少し和らぎ、王都の空気に馴染んでいる。

「今日は、珍しくのんびりね」

イセッタが、くすりと笑う。

ルクシオは、少し照れたように視線を逸らした。

「貴女が、王都に戻ってから……  
ずっと、傍にいたかった」

彼は立ち止まり、イセッタの手を取った。

「北では、毎日一緒にいられたのに……  
ここでは、貴女の父上や家臣たちがいて、なかなか二人きりになれなくて」

イセッタは、頰を赤らめながらも、からかうように言った。

「ルクシオ公爵が、そんなに甘えん坊だったなんて……  
冷酷公爵の噂は、一体どこへ?」

ルクシオが、珍しく顔を赤くした。

「冷酷なのは、敵に対してだけだ」

彼はイセッタを、優しく抱き寄せた。

「貴女に対しては……  
ずっと、こうしていたい」

イセッタの心臓が、どきどきと鳴る。

(こんなに、溺愛されるなんて……)

彼女は、ルクシオの胸に顔を埋めた。

「私も……嬉しいわ」

二人は、庭園の奥の東屋に入った。

誰もいない、静かな場所。

ルクシオは、イセッタを座らせ、自分は膝をついた。

「イセッタ」

真剣な声。

「正式に、婚約を申し込みたい」

イセッタが、息を呑む。

「父上にも、すでに話は通してある。  
レーヴェント公爵閣下は、『娘の幸せが第一だ』と」

ルクシオは、懐から小さな箱を取り出した。

開けると――  
雪のようなダイヤが輝く、プラチナの指輪。

「北の鉱山で、俺が直接選んだ石だ」

イセッタの瞳が、潤んだ。

「美しい……」

ルクシオは、イセッタの左手に、そっと指輪を滑らせた。

「一生、貴女を守る。  
貴女を、幸せにする」

イセッタは、涙を浮かべながら、頷いた。

「私も……ルクシオを、幸せにしたい」

二人は、優しく唇を重ねた。

初めての、深いキス。

庭園の風が、花びらを舞い上げ、二人の周りを優しく包んだ。

その様子を、少し離れた屋敷の窓から、ソニアが見守っていた。

(イセッタ様……本当に、幸せそう)

彼女は、静かに微笑み、部屋に戻った。

夕刻、屋敷の応接室。

イセッタは、父公爵と向かい合っていた。

「ルクシオ公爵からの正式な婚約申し込み、受けたわ」

レオナルド公爵は、厳つい顔を緩め、娘を抱きしめた。

「お前が幸せなら、それでいい」

彼は、少し照れくさそうに続けた。

「ノルドハイム公爵は、良い男だ。  
軍事力も、領地経営も、申し分ない」

イセッタは、父に微笑んだ。

「ありがとう、お父様」

公爵が、ふと真剣な顔になった。

「それと……街道の襲撃事件の件、  
すでに貴族会議で取り上げられることになった」

イセッタが頷く。

「ええ。  
証拠は、すべて揃っているわ」

公爵が、低い声で言った。

「王太子殿下は、もう逃げられない」

夜。

ルクシオは、イセッタの部屋に招かれていた。

正式な婚約者として、初めての夜。

ルクシオは、イセッタを抱きしめ、耳元で囁いた。

「貴女に、傷一つつけさせない」

イセッタは、彼の胸に頰を寄せた。

「あなたがいるから、大丈夫」

ルクシオの溺愛は、日増しに強くなっていた。

朝は、必ずイセッタの部屋に花を届ける。  
食事の席では、常に隣に座り、好みの料理を勧める。  
散歩のときは、手を離さない。

家臣たちが、くすくす笑うほど。

「冷酷公爵が、こんなに甘いなんて……」

「イセッタ様の前では、子犬みたいだな」

ルクシオは、そんな噂を耳にしても、気にしない。

「貴女が、俺のすべてだ」

彼は、イセッタにだけ、見せる笑顔があった。

一方、王宮。

エクウスは、私室に閉じこもり、側近たちから距離を置かれていた。

「殿下……貴族会議が、来週に開かれます。  
街道襲撃の件で……」

エクウスは、頭を抱えた。

「なぜ……  
なぜ、何もできない……!」

彼の復讐は、すべて空回り。

イセッタは、ルクシオの溺愛に包まれ、  
ソニアは、聖女として尊敬を集め、  
二人は、もうエクウスの手が届かない場所にいた。

ルクシオの溺愛は、イセッタを完全に守っていた。

「俺の婚約者に、手を出したら……  
国ごと、潰す」

彼の言葉は、本気だった。

イセッタは、そんなルクシオに、ますます惹かれていく。

新しい生活が、幸せに満ちて始まっていた。

貴族会議の日は、近づいていた。

エクウスの陰謀が、すべて暴かれる日が――。

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