『「君は飾りだ」と言われた公爵令嬢、契約通りに王太子を廃嫡へ導きました』

ふわふわ

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第三十話 赤い印

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第三十話 赤い印

夜会の翌朝。

王宮の回廊に、異様な緊張が走っていた。

黒の外套をまとった一団が、静かに歩いている。

財務監査官団。

先頭に立つ監査長が、封蝋付きの勅命書を掲げた。

「国王陛下の命により、王太子府の財務および契約履行記録を監査する」

その言葉は、低く、揺るがない。

王太子府の扉が開かれる。

アルヴィオンは立ったまま迎える。

「監査だと?」

「正式な手続きでございます」

「必要ない」

「陛下のご判断です」

拒否はできない。

机の上に、分厚い契約書が積まれる。

履行履歴欄――空白。

保証比率――未記載。

前払い承認印――王太子の署名。

監査官が静かに印を押す。

赤い印。

――未整備。

次の書類。

赤い印。

――説明不足。

さらに。

赤い印。

――要責任確認。

その色が、書類を染めていく。

王宮の廊下。

文官たちが目を逸らす。

「赤が増えている」 「記録は消えない」

噂が広がる。

アルヴィオンは声を荒げる。

「形式の問題だ!」

監査長は顔色一つ変えない。

「形式が守られていない契約は、無効となる場合がございます」

「王家だぞ!」

「だからこそ、でございます」

静かな反撃。

午後。

国王の執務室。

速報が届けられる。

国王は書類を読み、沈黙する。

「履行履歴未提出のまま発表か」

「はい」

「承認印は」

「王太子殿下」

沈黙が長い。

怒鳴らない。

だが重い。

「責任の所在を明確にせよ」

王太子府。

監査は続く。

財務部長が低く告げる。

「保証債務は、王家全体ではなく承認者個人に帰属する可能性がございます」

空気が凍る。

「個人?」

アルヴィオンの声が揺れる。

「はい。条文にございます」

条文。

再び。

ミレイアの元にも報せが届く。

ローデン邸。

支援家門の使者が来る。

書簡は短い。

「当家は支援を見直す」

見直す。

実質、撤退。

ミレイアの手から紙が落ちる。

「どうして……?」

父は青ざめたまま答える。

「信用が下がった」

「殿下は強いのに」

「強さではなく履歴だ」

夜。

監査報告の中間結果が提出される。

赤い印が並ぶ。

王太子府の承認印の横に、説明責任の文字。

アルヴィオンは一人になる。

机の上に並ぶ書類。

自分の署名。

自分の決断。

誰も強制していない。

強行発表も、条文否定も。

すべて、自分。

窓の外で、鐘が鳴る。

王都は静かだ。

だが内部では、確実に線が引かれ始めている。

王家と個人。

信用と傲慢。

赤い印は消えない。

そして初めて、恐れが芽生える。

これは調整ではない。

記録だ。

そして記録は、
裁きへと繋がる。
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