24 / 40
第二十四話 守るものと守られるもの
しおりを挟む
第二十四話 守るものと守られるもの
王都の朝は、いつも通りに始まった。
パン屋の煙。 市場の呼び声。 港に並ぶ帝国旗。
けれど。
王城の空気は、少しだけ張り詰めていた。
「帝国商会の塩、売上がさらに伸びております」
財務局の報告。
「公爵家の品は?」
「高品質路線で一定の支持を維持」
つまり。
両立している。
だが。
王家の影は、どこにあるのか。
カイゼルは窓の外を見つめる。
「……帝国が前に出すぎだ」
「協力関係の範囲内です」
そう報告される。
だが目に見える旗は、民の印象を変える。
「兄上」
ユリウスが静かに言う。
「帝国を抑えるか」
「抑えれば関係が悪化する」
袋小路。
借りた優しさの代償は、まだ利子の段階。
だが影は広がる。
同じ頃、公爵邸。
「王都南区で小規模な暴動が」
侍女の報告に、私は顔を上げる。
「原因は?」
「帝国塩の流入で地元商人が反発」
ああ。
来ましたわね。
市場は戦場。
そして弱い者が先に揺れる。
「被害は?」
「倉庫の一部が破壊」
私は静かに立ち上がる。
「馬車を」
「お嬢様が出向かれるのですか?」
「ええ」
見なければ判断できない。
南区。
壊れた木箱。 散らばる塩。
怒号はすでに収まっている。
だが不満は燻っている。
「帝国にばかり優遇を」 「王家は何をしている」
その声に、私は足を止める。
王家は守る側。
だが今、守られているように見える。
「公爵令嬢様だ」 「……なぜ?」
視線が集まる。
「状況を確認に参りました」
私は静かに言う。
「暴力では解決いたしません」
「だが俺たちは――」
「分かっております」
私は目を逸らさない。
「市場の不安は、正当です」
ざわり、と空気が変わる。
「王家へ報告いたします」
約束ではない。
宣言でもない。
事実。
その頃、王城では。
「南区で騒動」
報告にカイゼルの顔色が変わる。
「なぜ今だ」
「帝国商会の影響拡大に反発かと」
セリーナが不安げに言う。
「慈善で和らげられませんか?」
「商売の問題だ」
慈善では解決しない。
経済。
構造。
「公爵令嬢が現地に出向いたとのこと」
その一言で、空気が固まる。
「なぜだ」
苛立ち。
だが。
同時に安堵もある。
彼女なら、収めるかもしれない。
公爵邸に戻った私は、静かに言う。
「守るものを間違えてはいけません」
侍女が首を傾げる。
「王家は国を守る」
「ええ」
「帝国は利益を守る」
「当然ですわ」
「では民は?」
沈黙。
「民は、自分の生活を守ります」
だからこそ。
「守る側と守られる側の構図が逆転すれば、不満は生まれます」
夜。
王城に報告書が届く。
南区の状況整理。 市場の声。 対策案。
簡潔で、具体的。
カイゼルはそれを読む。
「……」
何も言えない。
守るはずの立場。
だが今、支えられているのは自分かもしれない。
セリーナがそっと手を重ねる。
「殿下、大丈夫ですわ」
その言葉は優しい。
だが問いの答えにはならない。
公爵邸のバルコニー。
夜風が強い。
「王座は、守る席です」
私は小さく呟く。
「守られる席ではございません」
帝国の影。 市場の不満。 借款の利子。
すべてが静かに積み重なる。
器は、まだ割れていない。
けれど。
守るものと守られるもの。
その違いが、少しずつ浮き彫りになり始めていた。
王都の朝は、いつも通りに始まった。
パン屋の煙。 市場の呼び声。 港に並ぶ帝国旗。
けれど。
王城の空気は、少しだけ張り詰めていた。
「帝国商会の塩、売上がさらに伸びております」
財務局の報告。
「公爵家の品は?」
「高品質路線で一定の支持を維持」
つまり。
両立している。
だが。
王家の影は、どこにあるのか。
カイゼルは窓の外を見つめる。
「……帝国が前に出すぎだ」
「協力関係の範囲内です」
そう報告される。
だが目に見える旗は、民の印象を変える。
「兄上」
ユリウスが静かに言う。
「帝国を抑えるか」
「抑えれば関係が悪化する」
袋小路。
借りた優しさの代償は、まだ利子の段階。
だが影は広がる。
同じ頃、公爵邸。
「王都南区で小規模な暴動が」
侍女の報告に、私は顔を上げる。
「原因は?」
「帝国塩の流入で地元商人が反発」
ああ。
来ましたわね。
市場は戦場。
そして弱い者が先に揺れる。
「被害は?」
「倉庫の一部が破壊」
私は静かに立ち上がる。
「馬車を」
「お嬢様が出向かれるのですか?」
「ええ」
見なければ判断できない。
南区。
壊れた木箱。 散らばる塩。
怒号はすでに収まっている。
だが不満は燻っている。
「帝国にばかり優遇を」 「王家は何をしている」
その声に、私は足を止める。
王家は守る側。
だが今、守られているように見える。
「公爵令嬢様だ」 「……なぜ?」
視線が集まる。
「状況を確認に参りました」
私は静かに言う。
「暴力では解決いたしません」
「だが俺たちは――」
「分かっております」
私は目を逸らさない。
「市場の不安は、正当です」
ざわり、と空気が変わる。
「王家へ報告いたします」
約束ではない。
宣言でもない。
事実。
その頃、王城では。
「南区で騒動」
報告にカイゼルの顔色が変わる。
「なぜ今だ」
「帝国商会の影響拡大に反発かと」
セリーナが不安げに言う。
「慈善で和らげられませんか?」
「商売の問題だ」
慈善では解決しない。
経済。
構造。
「公爵令嬢が現地に出向いたとのこと」
その一言で、空気が固まる。
「なぜだ」
苛立ち。
だが。
同時に安堵もある。
彼女なら、収めるかもしれない。
公爵邸に戻った私は、静かに言う。
「守るものを間違えてはいけません」
侍女が首を傾げる。
「王家は国を守る」
「ええ」
「帝国は利益を守る」
「当然ですわ」
「では民は?」
沈黙。
「民は、自分の生活を守ります」
だからこそ。
「守る側と守られる側の構図が逆転すれば、不満は生まれます」
夜。
王城に報告書が届く。
南区の状況整理。 市場の声。 対策案。
簡潔で、具体的。
カイゼルはそれを読む。
「……」
何も言えない。
守るはずの立場。
だが今、支えられているのは自分かもしれない。
セリーナがそっと手を重ねる。
「殿下、大丈夫ですわ」
その言葉は優しい。
だが問いの答えにはならない。
公爵邸のバルコニー。
夜風が強い。
「王座は、守る席です」
私は小さく呟く。
「守られる席ではございません」
帝国の影。 市場の不満。 借款の利子。
すべてが静かに積み重なる。
器は、まだ割れていない。
けれど。
守るものと守られるもの。
その違いが、少しずつ浮き彫りになり始めていた。
2
あなたにおすすめの小説
いや、無理。 (完結)
詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。
もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、
「わかってくれるだろう?ミーナ」
と手を差し伸べた。
だから私はこう答えた。
「いや、無理」
と。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』
しおしお
恋愛
「岩を売る田舎娘と婚約?そんなもの破棄だ!」
――そう言い放ったのは、まだ婚約すら成立していないのに“婚約破棄”を宣言した内陸王国の王太子。
塩は海から来るもの。
白く精製された粉こそ本物。
岩塩など不純物の塊に過ぎない。
そう思い込んだ彼は、ハライト公国公爵令嬢ヴィエリチカを侮辱し、交易を軽んじた。
だが――
王都に届くその“白い粉”は、すべてハライト産の岩塩から精製されたものだった。
供給が止まった瞬間、王国は気づく。
塩は保存であり、兵站であり、治療であり、冬越しの生命線であったことを。
謝罪の席で提示された条件はただ一つ。
民への販売価格は据え置き。
だが国家は十倍で買い取ること。
誇りを守るために契約を受け入れた王太子。
守られたのは民。
削られたのは国家。
やがて赤字は膨らみ、担保は差し出され、王国は静かに編入されていく。
処刑はない。
復讐もない。
あるのは――帰結。
「塩は、穢れを流すためのものです」
笑顔で告げるヴィエリチカと、
王宮衛生管理局へ配属された元王太子。
これは、岩塩を侮った物語の、静かな終着点。
---
もしアルファポリス向けにもう少し軽くする版も欲しければ、作ります。
それとも、
・タグもまとめる?
・もっと煽る版にする?
・文学寄りにする?
どの方向で仕上げますか?
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
婚約破棄? では、その誠実さはどちらに置いていらしたのですか?
鷹 綾
恋愛
「真実の愛を見つけた。君との婚約は破棄する」
そう告げられたのは、公爵令嬢セリシア・ルヴァリエ。
婚約中にもかかわらず、王太子レオンハルトは義妹ミレイナと密会を重ね、継母は裏で噂を流し、父はそれを黙認していた。
すべてを奪われ、四面楚歌――
けれど、セリシアは泣かなかった。
「婚約破棄はご自由に。ただし、不誠実の代償はお支払いいただきますわ」
証拠を握り、舞踏会で公開断罪。
王家を欺いた王太子は廃嫡。 義妹は社交界から追放。 継母は財産凍結。 父は爵位返上。
そして最後に縋りついたのは――かつて彼女を捨てた男。
「やり直せないか」
「誠実さを選ばなかったのは、あなたですわ」
振り向かぬ令嬢と、すべてを失った元王太子。
救済なし、後悔のみ。
これは、不誠実を踏み台にしようとした者たちが、 徹底的に転落する物語。
--
妹さんが婚約者の私より大切なのですね
はまみ
恋愛
私の婚約者、オリオン子爵令息様は、
妹のフローラ様をとても大切にされているの。
家族と仲の良いオリオン様は、きっととてもお優しいのだわ。
でも彼は、妹君のことばかり…
この頃、ずっとお会いできていないの。
☆お気に入りやエール、♥など、ありがとうございます!励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる