婚約破棄されましたが、私はもう必要ありませんので

ふわふわ

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第二十六話 代替という幻想

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第二十六話 代替という幻想

 王宮では、「共同改革委員会」の不成立が静かに受け止められていた。

 怒号はない。
 責任の押し付け合いもない。
 だが、それがかえって、不穏だった。

「……では、代替案を」

 重臣の一人が、慎重に口を開く。

「外部から、同等の人材を招くという選択肢は?」

 その言葉に、誰も即答しなかった。

 “同等”という言葉が、思った以上に重かったからだ。

「条件だけ見れば、候補はいます」

 別の者が言う。

「学識もあり、実績もある。
 王宮との関係も良好です」

「だが」

 ロイド・ヴァルシュタインは、静かに遮った。

「“同じ条件で同じ判断ができる”人材かどうかは、別だ」

 沈黙が落ちる。

 数字や経歴は、揃えられる。
 だが、積み上げてきた“判断の癖”や“距離感”は、模倣できない。

「……それでも、動かねばならない」

「ええ」

 ロイドは、机の上の書類を見つめる。

「彼女に代わる存在を、探すのではない。
 彼女がいない前提で、回る仕組みを作る」

 それは、ようやく辿り着いた結論だった。

 一方、辺境公爵領。

 マルグリット・フォン・ルーヴェンは、新たな人事案に目を通していた。
 自治組織の中から、次の責任者候補を選ぶための資料だ。

「……若いですね」

 フェリクス・フォン・グランツが言う。

「はい。
 ですが、判断記録を見る限り、基準は安定しています」

 候補者は三名。
 全員が、現場経験を持ち、過度な野心もない。

「全員に、試験期間を設けます」

「一人に絞らないのか」

「絞りません。
 “代替”を一人に求めると、その人に負荷が集中します」

 王宮が、長くやってきた失敗だ。

「役割は、分散します。
 責任も、同様に」

 フェリクスは、納得したように頷いた。

 午後、マルグリットは現場視察に出た。

 物流拠点の一角で、若い責任者が住民と話し合っている。
 声は落ち着き、言葉は簡潔だ。

「……いいですね」

 小さく呟く。

 誰かの代わりを探しているわけではない。
 新しい判断者が、育っている。

 それでいい。

 夕方、王宮から一通の報告が届いた。

 外部顧問候補の選定が進んでいる、という内容だ。

「……代替、ですか」

 マルグリットは、文面を読み終え、静かに書類を閉じた。

「幻を追わなければ、いいのですが」

「気になるか?」

 フェリクスが尋ねる。

「いいえ」

 即答だった。

「王宮が、誰を選ぶかは、王宮の判断です。
 それが機能するかどうかも」

 彼女は、もうそこに関与しない。

 夜、城の回廊。

 マルグリットは、一人で歩いていた。

「……代替という幻想」

 呟きは、独り言だ。

「人は、部品ではありません。
 入れ替えれば同じように動く、というものでもない」

 だが、それを理解するには、
 失う経験が必要なのかもしれない。

 彼女は、足を止め、窓から外を見た。

 辺境公爵領の灯りは、穏やかに広がっている。

 誰か一人に依存していない光。
 代替を必要としない仕組み。

「……ここは、幻想ではありませんね」

 積み上げた現実だ。

 マルグリット・フォン・ルーヴェンは、歩き出す。

 誰かの代わりになるためではなく、
 誰かがいなくても回る未来を、
 選び続けるために。

 それが、
 彼女が王宮に残さなかった、
 本当の“答え”だった。
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