27 / 40
第二十七話 評価されない選択
しおりを挟む
第二十七話 評価されない選択
王宮では、新たに招いた外部顧問が静かに職務を始めていた。
経歴は申し分ない。
学会での評価も高く、改革論文も数多い。
だが――
「……数字は、改善しています」
定例報告で、外部顧問が言う。
「短期的には、確かに」
重臣の一人が付け加える。
「ただし、現場の判断は、相変わらず中央待ちです」
「責任分担を明示したはずでは?」
「“最終判断は王宮”という文言が、現場のブレーキになっています」
ロイド・ヴァルシュタインは、黙って聞いていた。
失敗ではない。
だが、成功とも言い切れない。
“無難”な改革。
評価されやすい改革。
しかし、それは、
人を動かす改革ではなかった。
一方、辺境公爵領。
マルグリット・フォン・ルーヴェンは、自治組織の試験責任者三名を集めていた。
「この一か月、ありがとうございました」
三人は、緊張した面持ちで彼女を見る。
「結果は、いずれも良好です。
ですが、評価は一律ではありません」
資料を配りながら、続ける。
「判断の速さ、修正力、報告の質。
それぞれに、強みと弱みがあります」
三人とも、黙って頷いた。
「ですから、全員を残します」
意外そうな表情が浮かぶ。
「役割を分けます。
一人に集約しません」
評価されやすいのは、
“分かりやすい成果”を出す人間だ。
だが、組織を支えるのは、
目立たない判断の積み重ねだ。
「評価されない選択も、あります」
マルグリットは、静かに言う。
「ですが、それが長く続く仕組みを作るなら、
必要な選択です」
フェリクス・フォン・グランツは、その様子を見て思う。
彼女は、拍手を求めていない。
称賛される改革より、壊れない改革を選んでいる。
午後、王宮からの定期報告が届く。
外部顧問による改革案は、形式上、順調だという。
「……形式上、ですか」
マルグリットは、文面をなぞる。
「評価は高いでしょうね」
「だが、動かない」
「ええ」
それ以上、言うことはない。
夜、王宮。
ロイドは、執務室で一人、書類を閉じた。
改革案は整っている。
だが、何かが足りない。
「……評価されることを、気にしすぎている」
誰にともなく呟く。
彼女がいた頃、
評価は後回しだった。
まず動かし、壊れたら直す。
だが、それは“評価されない”やり方でもあった。
辺境公爵領の夜は、静かだ。
マルグリットは、廊下を歩きながら考える。
「……評価されない選択」
それは、孤独だ。
だが、必要だ。
拍手がないからこそ、
長く続く。
誰も気づかないからこそ、
壊れにくい。
彼女は、足を止めずに歩く。
評価を求めず、
称賛を求めず、
ただ、選び続ける。
それが、
マルグリット・フォン・ルーヴェンという存在の、
本当の価値だった。
王宮では、新たに招いた外部顧問が静かに職務を始めていた。
経歴は申し分ない。
学会での評価も高く、改革論文も数多い。
だが――
「……数字は、改善しています」
定例報告で、外部顧問が言う。
「短期的には、確かに」
重臣の一人が付け加える。
「ただし、現場の判断は、相変わらず中央待ちです」
「責任分担を明示したはずでは?」
「“最終判断は王宮”という文言が、現場のブレーキになっています」
ロイド・ヴァルシュタインは、黙って聞いていた。
失敗ではない。
だが、成功とも言い切れない。
“無難”な改革。
評価されやすい改革。
しかし、それは、
人を動かす改革ではなかった。
一方、辺境公爵領。
マルグリット・フォン・ルーヴェンは、自治組織の試験責任者三名を集めていた。
「この一か月、ありがとうございました」
三人は、緊張した面持ちで彼女を見る。
「結果は、いずれも良好です。
ですが、評価は一律ではありません」
資料を配りながら、続ける。
「判断の速さ、修正力、報告の質。
それぞれに、強みと弱みがあります」
三人とも、黙って頷いた。
「ですから、全員を残します」
意外そうな表情が浮かぶ。
「役割を分けます。
一人に集約しません」
評価されやすいのは、
“分かりやすい成果”を出す人間だ。
だが、組織を支えるのは、
目立たない判断の積み重ねだ。
「評価されない選択も、あります」
マルグリットは、静かに言う。
「ですが、それが長く続く仕組みを作るなら、
必要な選択です」
フェリクス・フォン・グランツは、その様子を見て思う。
彼女は、拍手を求めていない。
称賛される改革より、壊れない改革を選んでいる。
午後、王宮からの定期報告が届く。
外部顧問による改革案は、形式上、順調だという。
「……形式上、ですか」
マルグリットは、文面をなぞる。
「評価は高いでしょうね」
「だが、動かない」
「ええ」
それ以上、言うことはない。
夜、王宮。
ロイドは、執務室で一人、書類を閉じた。
改革案は整っている。
だが、何かが足りない。
「……評価されることを、気にしすぎている」
誰にともなく呟く。
彼女がいた頃、
評価は後回しだった。
まず動かし、壊れたら直す。
だが、それは“評価されない”やり方でもあった。
辺境公爵領の夜は、静かだ。
マルグリットは、廊下を歩きながら考える。
「……評価されない選択」
それは、孤独だ。
だが、必要だ。
拍手がないからこそ、
長く続く。
誰も気づかないからこそ、
壊れにくい。
彼女は、足を止めずに歩く。
評価を求めず、
称賛を求めず、
ただ、選び続ける。
それが、
マルグリット・フォン・ルーヴェンという存在の、
本当の価値だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる