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第二十八話 名前のない成果
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第二十八話 名前のない成果
辺境公爵領では、特別な式典も、派手な発表も行われなかった。
だが、数字は静かに変わっていた。
物流拠点の滞留時間は短縮され、
住民からの要望対応は早まり、
苦情の件数は、いつの間にか減っている。
「……報告書としては、少し地味ですね」
文官が、苦笑混じりに言った。
「ええ」
マルグリット・フォン・ルーヴェンは、否定しない。
「ですが、“問題が起きていない”というのは、
最も説明しづらく、最も価値のある成果です」
名前の付かない成果。
見出しにならない改善。
それこそが、この領で積み上がっているものだった。
自治組織の責任者たちは、それぞれの持ち場で淡々と仕事をしている。
誰かが功績を独占することもない。
「自分がやりました、とは言いづらいですね」
若い責任者が、ぽつりと漏らす。
「言わなくていいのです」
マルグリットは、即座に答えた。
「仕組みが回っているなら、
誰がやったかは、後からでも確認できます」
評価は、必要だ。
だが、先に来るものではない。
午後、王宮では外部顧問による中間報告が行われていた。
「改革は、順調です」
整った資料。
分かりやすい指標。
拍手も、形式的に起きる。
だが、会議を終えた後、誰かが小声で言った。
「……で、現場は?」
答えは、曖昧だった。
「大きな問題は、ありません」
問題がない。
だが、動いている実感もない。
ロイド・ヴァルシュタインは、その空気を感じ取っていた。
「成果はある。
だが、名前ばかりだ」
誰の改革か、
誰の功績か。
それは分かる。
だが、“どう変わったか”は、掴みにくい。
一方、辺境公爵領では、住民の生活が静かに変わっていた。
荷が早く届く。
問い合わせの返答が早い。
小さな判断が、その場で下りる。
「最近、役所が静かですね」
市場で、そんな声が聞こえる。
「揉めてない証拠だろう」
それ以上の評価は、ない。
それでいい。
夕方、フェリクス・フォン・グランツが報告を持ってきた。
「王宮の外部顧問、評価は高い」
「でしょうね」
「だが、内部からは、不満も出始めている」
マルグリットは、視線を上げる。
「どういう不満ですか」
「“自分たちの判断が増えない”と」
彼女は、静かに頷いた。
「想定どおりです」
評価される改革は、
判断を“きれいに”する。
だが、
判断を“増やす”とは限らない。
夜、マルグリットは執務室で一人、灯りを落とす前に書類を整えた。
「……名前のない成果」
小さく呟く。
誰も拍手しない。
誰も称えない。
だが、壊れない。
それは、
誰かの才能に依存しないからだ。
彼女は、王宮に戻らなかった。
だが、王宮よりも、
ずっと遠くに影響を与えている。
名前のないまま、
静かに。
それが、
マルグリット・フォン・ルーヴェンが選んだ、
本当の成果だった。
辺境公爵領では、特別な式典も、派手な発表も行われなかった。
だが、数字は静かに変わっていた。
物流拠点の滞留時間は短縮され、
住民からの要望対応は早まり、
苦情の件数は、いつの間にか減っている。
「……報告書としては、少し地味ですね」
文官が、苦笑混じりに言った。
「ええ」
マルグリット・フォン・ルーヴェンは、否定しない。
「ですが、“問題が起きていない”というのは、
最も説明しづらく、最も価値のある成果です」
名前の付かない成果。
見出しにならない改善。
それこそが、この領で積み上がっているものだった。
自治組織の責任者たちは、それぞれの持ち場で淡々と仕事をしている。
誰かが功績を独占することもない。
「自分がやりました、とは言いづらいですね」
若い責任者が、ぽつりと漏らす。
「言わなくていいのです」
マルグリットは、即座に答えた。
「仕組みが回っているなら、
誰がやったかは、後からでも確認できます」
評価は、必要だ。
だが、先に来るものではない。
午後、王宮では外部顧問による中間報告が行われていた。
「改革は、順調です」
整った資料。
分かりやすい指標。
拍手も、形式的に起きる。
だが、会議を終えた後、誰かが小声で言った。
「……で、現場は?」
答えは、曖昧だった。
「大きな問題は、ありません」
問題がない。
だが、動いている実感もない。
ロイド・ヴァルシュタインは、その空気を感じ取っていた。
「成果はある。
だが、名前ばかりだ」
誰の改革か、
誰の功績か。
それは分かる。
だが、“どう変わったか”は、掴みにくい。
一方、辺境公爵領では、住民の生活が静かに変わっていた。
荷が早く届く。
問い合わせの返答が早い。
小さな判断が、その場で下りる。
「最近、役所が静かですね」
市場で、そんな声が聞こえる。
「揉めてない証拠だろう」
それ以上の評価は、ない。
それでいい。
夕方、フェリクス・フォン・グランツが報告を持ってきた。
「王宮の外部顧問、評価は高い」
「でしょうね」
「だが、内部からは、不満も出始めている」
マルグリットは、視線を上げる。
「どういう不満ですか」
「“自分たちの判断が増えない”と」
彼女は、静かに頷いた。
「想定どおりです」
評価される改革は、
判断を“きれいに”する。
だが、
判断を“増やす”とは限らない。
夜、マルグリットは執務室で一人、灯りを落とす前に書類を整えた。
「……名前のない成果」
小さく呟く。
誰も拍手しない。
誰も称えない。
だが、壊れない。
それは、
誰かの才能に依存しないからだ。
彼女は、王宮に戻らなかった。
だが、王宮よりも、
ずっと遠くに影響を与えている。
名前のないまま、
静かに。
それが、
マルグリット・フォン・ルーヴェンが選んだ、
本当の成果だった。
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