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第18話 政略結婚も労働ですわ――でしたが、解雇されました
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第18話 政略結婚も労働ですわ――でしたが、解雇されました
王宮からの招待状は、いつもより分厚かった。
紙質がよく、封蝋も丁寧で、無駄に格式ばっている。
――嫌な予感しかしませんわね。
ルナ・ルクスは、受け取ったそれを机に置き、すぐには開かなかった。
経験上、こういう招待は、だいたい“結論ありき”だ。
午後。
あらためて封を切り、内容に目を通す。
要約すれば、こうだ。
・王都の財政が厳しい
・王太子妃には、模範となる節度が求められる
・ルナのやり方は、王都の方針と合わない
・よって――
婚約の見直し。
ルナは、静かに紙を畳んだ。
「……なるほど。
つまり、クビですわね」
政略結婚。
それは、契約だ。
感情は二の次。
相性も二の次。
求められるのは、役割を果たすこと。
舞踏会に出る。
微笑む。
黙って頷く。
理不尽にも耐える。
――立派な労働ですわ。
しかも、拘束時間は長く、
成果指標は曖昧で、
評価は主観的。
前世で言うなら、
最悪の条件だ。
ルナは、皮肉のない声音で呟いた。
「効率の悪い労働でした。
二度とごめんですわ」
夕刻、王宮での正式な場が設けられた。
王太子ユピテル・アストラの表情は、硬い。
「君の考え方は理解したつもりだ。
だが、王太子妃には、
国の方針に従う姿勢が必要だ」
ルナは、感情を乗せずに答える。
「ええ。
ですから、私は不適任ですわね」
即答だった。
ユピテルは、一瞬だけ言葉に詰まった。
反論か、弁解が来ると思っていたのだろう。
「……惜しいと思わないのか」
「何が、ですか?」
「地位も、名誉も、未来も」
ルナは、少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。
未来は、地位の中にしかないものではありません」
それに、と続ける。
「名誉のために、
経済を止める仕事をするほど、
私は暇ではありませんの」
その一言で、場の空気が凍った。
だが、ルナは続けた。
「殿下。
政略結婚は労働です。
ええ、間違いなく」
ゆっくりと、しかしはっきりと。
「ですが、
成果が出ない上に、
赤字が拡大する労働なら――
解雇されて、むしろ助かりますわ」
沈黙。
誰も反論しなかった。
できなかった、と言うべきだろう。
その日の夜、王都では噂が駆け巡った。
・ルクス公爵令嬢、婚約破棄
・王太子に逆らった
・傲慢だ
・危険人物だ
どれも、想定内だ。
一方で、公爵邸は変わらない。
静かで、整っていて、回っている。
執事が、控えめに尋ねる。
「……ご心境は、いかがでしょうか」
ルナは、少し考えてから答えた。
「そうですわね」
紅茶を一口。
「長時間労働から、
ようやく解放された気分です」
執事は、一瞬だけ目を見開き、
やがて、深く頭を下げた。
翌日。
公爵領には、何の混乱もなかった。
投資は続く。
道路は整備される。
職人は仕事を失わない。
孤児院の計画も、予定通り進む。
王太子妃という“肩書き”が消えても、
経済は止まらない。
――やはり。
ルナは、庭園を歩きながら確信する。
私は、
婚約者である必要はなかった。
夜、ノートに一行、書き足す。
――政略結婚:非効率。
――成果なし。
――よって、契約終了。
そして最後に、少しだけ柔らかく。
――次は、
働かなくていい人生を、
もっと効率よくやりますわ。
婚約破棄は、終わりではない。
むしろ――
無駄な労働から解放された、
正式なスタートだった。
王宮からの招待状は、いつもより分厚かった。
紙質がよく、封蝋も丁寧で、無駄に格式ばっている。
――嫌な予感しかしませんわね。
ルナ・ルクスは、受け取ったそれを机に置き、すぐには開かなかった。
経験上、こういう招待は、だいたい“結論ありき”だ。
午後。
あらためて封を切り、内容に目を通す。
要約すれば、こうだ。
・王都の財政が厳しい
・王太子妃には、模範となる節度が求められる
・ルナのやり方は、王都の方針と合わない
・よって――
婚約の見直し。
ルナは、静かに紙を畳んだ。
「……なるほど。
つまり、クビですわね」
政略結婚。
それは、契約だ。
感情は二の次。
相性も二の次。
求められるのは、役割を果たすこと。
舞踏会に出る。
微笑む。
黙って頷く。
理不尽にも耐える。
――立派な労働ですわ。
しかも、拘束時間は長く、
成果指標は曖昧で、
評価は主観的。
前世で言うなら、
最悪の条件だ。
ルナは、皮肉のない声音で呟いた。
「効率の悪い労働でした。
二度とごめんですわ」
夕刻、王宮での正式な場が設けられた。
王太子ユピテル・アストラの表情は、硬い。
「君の考え方は理解したつもりだ。
だが、王太子妃には、
国の方針に従う姿勢が必要だ」
ルナは、感情を乗せずに答える。
「ええ。
ですから、私は不適任ですわね」
即答だった。
ユピテルは、一瞬だけ言葉に詰まった。
反論か、弁解が来ると思っていたのだろう。
「……惜しいと思わないのか」
「何が、ですか?」
「地位も、名誉も、未来も」
ルナは、少し考えてから、首を横に振った。
「いいえ。
未来は、地位の中にしかないものではありません」
それに、と続ける。
「名誉のために、
経済を止める仕事をするほど、
私は暇ではありませんの」
その一言で、場の空気が凍った。
だが、ルナは続けた。
「殿下。
政略結婚は労働です。
ええ、間違いなく」
ゆっくりと、しかしはっきりと。
「ですが、
成果が出ない上に、
赤字が拡大する労働なら――
解雇されて、むしろ助かりますわ」
沈黙。
誰も反論しなかった。
できなかった、と言うべきだろう。
その日の夜、王都では噂が駆け巡った。
・ルクス公爵令嬢、婚約破棄
・王太子に逆らった
・傲慢だ
・危険人物だ
どれも、想定内だ。
一方で、公爵邸は変わらない。
静かで、整っていて、回っている。
執事が、控えめに尋ねる。
「……ご心境は、いかがでしょうか」
ルナは、少し考えてから答えた。
「そうですわね」
紅茶を一口。
「長時間労働から、
ようやく解放された気分です」
執事は、一瞬だけ目を見開き、
やがて、深く頭を下げた。
翌日。
公爵領には、何の混乱もなかった。
投資は続く。
道路は整備される。
職人は仕事を失わない。
孤児院の計画も、予定通り進む。
王太子妃という“肩書き”が消えても、
経済は止まらない。
――やはり。
ルナは、庭園を歩きながら確信する。
私は、
婚約者である必要はなかった。
夜、ノートに一行、書き足す。
――政略結婚:非効率。
――成果なし。
――よって、契約終了。
そして最後に、少しだけ柔らかく。
――次は、
働かなくていい人生を、
もっと効率よくやりますわ。
婚約破棄は、終わりではない。
むしろ――
無駄な労働から解放された、
正式なスタートだった。
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