婚約破棄された令嬢は、選ばれる人生をやめました

ふわふわ

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第24話 白は、色を変えない――定義が変わるだけだ

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第24話 白は、色を変えない――定義が変わるだけだ

 公式な変化は、いつも静かに行われる。

 派手な宣言も、感情的な演説もない。
 だが、その一行が記された瞬間、
 世界は確実に書き換えられる。

 シュタインベルク公国・評議会。

 その日の議題は、三つだけだった。

 国境交易の再調整。
 北部農業区画への投資。
 そして――

「第三議題、公爵夫人の権限範囲について」

 議長の声に、空気が引き締まる。

 セラフィナは、静かに背筋を伸ばした。

 彼女は、この場に“当事者”として出席している。
 だが、発言権は――
 まだ、定義されていない。

「これまで、公爵夫人は助言者として職務に関与してきた」

 議長が続ける。

「だが、現状を鑑みるに、
 その立場はすでに実態と乖離している」

 誰も反論しない。

 それが、答えだった。

「よって」

 議長は、文書を掲げる。

「公爵家内規を一部改訂する案を提出する」

 ざわめき。

 だが、それは否定ではない。

「公爵夫人セラフィナに、
 内政・外交補佐に関する正式な裁量権を付与する」

 その言葉に、空気が変わった。

 これは、象徴ではない。
 権限だ。

 カルヴァスは、何も言わない。
 だが、その沈黙は、承認そのものだった。

「異論は?」

 短い間。

 誰も、手を挙げない。

「――可決」

 その瞬間。

 白い結婚は、制度として姿を変えた。

 形式上は、依然として“白”のままだ。
 だが、それは――
 責任を持たない前提では、なくなった。

 評議会後。

 廊下で、数名の貴族が小声で囁く。

「……事実上、公爵夫人が共同統治者では?」

「今さら否定できるか?
 実務の半分は、もう彼女が担っている」

「白い結婚とは……便利な言葉だったな」

 その言葉に、誰かが苦笑した。

「ええ。
 “無関係”を装うための、ね」

 一方、公爵執務室。

「……これで、逃げ場はなくなったな」

 カルヴァスが、率直に言った。

「ええ」

 セラフィナは、静かに答える。

「ですが、不思議と――楽ですわ」

「楽?」

「ええ。
 曖昧な期待も、
 曖昧な距離も、
 すべて整理されました」

 彼女は、窓の外を見つめる。

「白い結婚だから、という言い訳は、
 もう使えません」

「……それを、怖いとは思わないのか」

 カルヴァスの問いは、真剣だった。

 セラフィナは、少し考え――
 首を振る。

「怖いのは、“責任を持たされないこと”です」

 その言葉に、彼は小さく息を吐いた。

「……やはり、君は変わっている」

「誉め言葉として受け取りますわ」

 彼女は、わずかに微笑んだ。

 その頃、王国。

 王城の会議室では、重苦しい空気が漂っていた。

「……シュタインベルク公国が、
 公爵夫人の権限を拡大したそうだ」

 報告を受け、アルノルトは沈黙する。

 それが、何を意味するか。

 理解できないほど、愚かではない。

「……つまり」

 誰かが、言いにくそうに続ける。

「彼女は、
 もう“戻れる存在”ではありません」

 沈黙。

 その事実は、重い。

「白い結婚だと、
 我々は――」

「甘く見ていた」

 アルノルトが、低く言った。

「“白い”とは、無色ではない。
 意味を持たないわけでもない」

 彼は、拳を握る。

「……定義を、誤ったのだ」

 だが、その誤りを正す機会は――
 もう、ない。

 夜。

 公爵邸の私室で、セラフィナは一人、書簡を読み返していた。

 評議会の正式文書。
 そこには、明確に記されている。

 「公爵夫人セラフィナは、公国の内政において正式な責任を負う」

(……白い結婚)

 その言葉を、心の中で転がす。

 色が変わったわけではない。
 だが――
 意味が、変わった。

 それでいい。

 自分は、
 守られるために、ここにいるのではない。

 共に背負うために、立っている。

 それが、今の答えだ。

 白は、まだ白い。

 だがそれは、
 何も決まっていない色では、もうなかった。


---

これで

第24話まで完全補完

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