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第3話 国のため、家のため、私の同意はどこ?
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第3話 国のため、家のため、私の同意はどこ?
王宮での話し合いから二日後。
私は父――マセラティ公爵に呼び出され、久しぶりに実家の応接室に座っていた。
見慣れたはずの部屋なのに、空気がやけに重い。
どうやら、今日の話題は世間話では済まなさそうだ。
「シャマル」
父は、深く息を吸ってから口を開いた。
「王国開闢以来、我がマセラティ家は王家を支え続けてきた名門だ」
はいはい、来た。
「お前には、その血を引く者としての役目がある。
王太子ステルヴィオ殿下と力を合わせ、この国を発展に導かなければならん」
私は黙って聞いていた。
遮ると長くなる予感しかしない。
父は、それを了承と受け取ったらしく、さらに続ける。
「婚約は一度解消されたが……状況が変わった。
改めて、王太子との婚約を進めるべきだ」
なるほど。
やっぱりそこに行き着くわけだ。
私は紅茶に手を伸ばし、一口飲んでから言った。
「そうは言ってもさ」
父がこちらを見る。
「婚約、破棄してきたのは向こうだよ?」
「それを今さら私に言われてもねえー」
言葉尻を、あえて曖昧にした。
はっきり拒否する気はない。でも、引き受ける気もない。
父の眉が、ぴくりと動く。
「だが、国のためだ」
出た。
便利な魔法の言葉。
「国のためってさ」
私は首を傾げた。
「私が我慢する前提で使う言葉じゃないよね?」
父は一瞬、言葉を失った。
たぶん彼の中では、
“娘だから”“聖女だから”“名門の令嬢だから”
そのどれかで、自然に納得するはずだったのだろう。
でも私は、納得しなかった。
「それに、婚約って協力関係でしょ」
「片方が一方的に捨てて、都合が悪くなったら戻すのって……協力じゃなくない?」
事実しか言っていない。
だからこそ、父は反論できない。
「……お前は、随分と冷静だな」
「感情で動くと、ろくなことにならないって学んだだけ」
前世の話はしない。
でも、経験則としては十分だ。
父は椅子に深く腰掛け、腕を組んだ。
「では、お前はどうしたい?」
その問いに、私は少しだけ考える素振りを見せた。
「再婚約するなら、条件次第」
父の目が細くなる。
「条件、だと?」
「うん。
王宮常駐なし。呼び出し制。拘束時間は時給換算。休日は完全自由」
淡々と並べると、父は深くため息をついた。
「……それは、聖女として――」
「聖女でも、人だよ」
私は遮った。
「私、婚約を理由に無償奉仕するつもりはないから」
沈黙が落ちる。
この場にいるのは、父と娘だけ。
それでも、今の沈黙は、王宮の会議室より重かった。
「それが飲めないなら?」
父が、低い声で聞く。
「婚約はしない」
即答だった。
脅しでも反抗でもない。
ただの結論だ。
父はしばらく私を見つめていたが、やがて視線を逸らした。
「……分かった。
この件は、国王陛下とも改めて協議する」
「どうぞ」
私は立ち上がる。
「でも、その話し合いに、私の同意が含まれてないなら――」
扉に手を掛け、振り返る。
「その時点で、答えは変わらないから」
部屋を出ると、胸の奥に溜まっていた息が、すっと抜けた。
国のため。
家のため。
どちらも大事だ。
でも、それを理由に、私の人生を勝手に使われるのは違う。
「さて……」
私は小さく呟く。
「そろそろ、本気で詰めに行かないと」
安定したサブスク生活は、
待っているだけじゃ手に入らないらしい。
王宮での話し合いから二日後。
私は父――マセラティ公爵に呼び出され、久しぶりに実家の応接室に座っていた。
見慣れたはずの部屋なのに、空気がやけに重い。
どうやら、今日の話題は世間話では済まなさそうだ。
「シャマル」
父は、深く息を吸ってから口を開いた。
「王国開闢以来、我がマセラティ家は王家を支え続けてきた名門だ」
はいはい、来た。
「お前には、その血を引く者としての役目がある。
王太子ステルヴィオ殿下と力を合わせ、この国を発展に導かなければならん」
私は黙って聞いていた。
遮ると長くなる予感しかしない。
父は、それを了承と受け取ったらしく、さらに続ける。
「婚約は一度解消されたが……状況が変わった。
改めて、王太子との婚約を進めるべきだ」
なるほど。
やっぱりそこに行き着くわけだ。
私は紅茶に手を伸ばし、一口飲んでから言った。
「そうは言ってもさ」
父がこちらを見る。
「婚約、破棄してきたのは向こうだよ?」
「それを今さら私に言われてもねえー」
言葉尻を、あえて曖昧にした。
はっきり拒否する気はない。でも、引き受ける気もない。
父の眉が、ぴくりと動く。
「だが、国のためだ」
出た。
便利な魔法の言葉。
「国のためってさ」
私は首を傾げた。
「私が我慢する前提で使う言葉じゃないよね?」
父は一瞬、言葉を失った。
たぶん彼の中では、
“娘だから”“聖女だから”“名門の令嬢だから”
そのどれかで、自然に納得するはずだったのだろう。
でも私は、納得しなかった。
「それに、婚約って協力関係でしょ」
「片方が一方的に捨てて、都合が悪くなったら戻すのって……協力じゃなくない?」
事実しか言っていない。
だからこそ、父は反論できない。
「……お前は、随分と冷静だな」
「感情で動くと、ろくなことにならないって学んだだけ」
前世の話はしない。
でも、経験則としては十分だ。
父は椅子に深く腰掛け、腕を組んだ。
「では、お前はどうしたい?」
その問いに、私は少しだけ考える素振りを見せた。
「再婚約するなら、条件次第」
父の目が細くなる。
「条件、だと?」
「うん。
王宮常駐なし。呼び出し制。拘束時間は時給換算。休日は完全自由」
淡々と並べると、父は深くため息をついた。
「……それは、聖女として――」
「聖女でも、人だよ」
私は遮った。
「私、婚約を理由に無償奉仕するつもりはないから」
沈黙が落ちる。
この場にいるのは、父と娘だけ。
それでも、今の沈黙は、王宮の会議室より重かった。
「それが飲めないなら?」
父が、低い声で聞く。
「婚約はしない」
即答だった。
脅しでも反抗でもない。
ただの結論だ。
父はしばらく私を見つめていたが、やがて視線を逸らした。
「……分かった。
この件は、国王陛下とも改めて協議する」
「どうぞ」
私は立ち上がる。
「でも、その話し合いに、私の同意が含まれてないなら――」
扉に手を掛け、振り返る。
「その時点で、答えは変わらないから」
部屋を出ると、胸の奥に溜まっていた息が、すっと抜けた。
国のため。
家のため。
どちらも大事だ。
でも、それを理由に、私の人生を勝手に使われるのは違う。
「さて……」
私は小さく呟く。
「そろそろ、本気で詰めに行かないと」
安定したサブスク生活は、
待っているだけじゃ手に入らないらしい。
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