婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ

文字の大きさ
28 / 39

第29話 責任を持てなかった人は、数字に出る

しおりを挟む
第29話 責任を持てなかった人は、数字に出る

 

 署名制度が定着して、
 王宮の報告書は、すっかり様変わりした。

 量は減った。
 内容は濃くなった。
 言い訳は――ほぼ消えた。

「……分かりやすいね」

 私は、机に並べた数枚の報告書を見比べながら呟いた。

 判断が早い部局。
 判断が遅い部局。
 迷いが減った部局。

 そして――
 妙に数字が悪い部局。

「ここだな」

 私は、一枚の紙を指で叩いた。

 対応遅延。
 判断保留。
 追加確認。

 全部、“署名者の名前”つき。

 午前中。
 宰相が、静かな顔で訪ねてきた。

「……気づきましたか」

「うん」

 私は、例の報告書を差し出す。

「責任を持てなかった人が、
 数字に出てる」

 宰相は、重く頷いた。

「署名制度が始まる前なら、
 “全体の問題”として
 処理されていたでしょう」

「今は?」

「個人の判断として、
 はっきり残る」

 私は、少しだけ息を吐いた。

「逃げられなくなったね」

「はい」

 宰相は、視線を落とす。

「そして……
 本人も、それを理解しています」

 午後。
 問題の部局の責任者が、
 私のもとを訪ねてきた。

 顔色が、よくない。

「聖女殿……」

「どうしたの」

 私は、淡々と促す。

「判断が、
 遅すぎたようで……」

「自覚はある?」

「……あります」

 彼は、かすれた声で答えた。

「なぜ遅れたと思う?」

 しばらく、沈黙。

「……責任を、
 取りたくなかった」

 正直だ。

「前は?」

「前は、
 曖昧にできた」

 私は、椅子にもたれかかる。

「今は?」

「……名前が残る」

 それだけで、
 十分すぎる理由だ。

「で、
 どうしたい?」

 彼は、拳を握りしめた。

「……判断基準の再確認と、
 補助体制を
 整えさせてください」

「逃げない?」

「逃げません」

 私は、短く頷いた。

「なら、
 立て直せる」

 彼は、深く頭を下げた。

「……ありがとうございます」

 私は、心の中で少しだけ驚いた。

 潰れなかった。

 夜。
 王太子ステルヴィオが、
 例の場所に現れた。

「……数字、
 見た」

「で?」

「はっきりしすぎて、
 逆に怖い」

「でしょ」

 私は、苦笑する。

「でも、
 これが現実」

「父上も、
 同じことを言っていた」

「何て?」

「“切る理由が、
 感情じゃなくなった”と」

 私は、少しだけ目を細めた。

「それは、
 国にとって
 いいことだよ」

「……王権が、
 冷たくならないか?」

「冷たくなるのは、
 人じゃなくて、
 判断だよ」

 私は、即答した。

「人は、
 助けられる」

「判断は、
 公平でいい」

 王太子は、しばらく黙ってから頷いた。

「……君は、
 切り捨てないな」

「切らないよ」

 私は、はっきり言う。

「責任を持てなかった人は、
 “向いてなかった”だけ」

「向いてる場所に、
 移ればいい」

 夜更け。
 私は、今日の記録を閉じた。

 責任を持てなかった人は、
 数字に出る。

 でも――
 数字に出たからこそ、
 立て直せる。

 曖昧な時代なら、
 潰されていたかもしれない。

 今は違う。

「さて」

 私は、小さく伸びをする。

「これで、
 “制度そのものが悪い”
 って言い訳も
 できなくなったね」

 責任は、
 人を縛るためにあるんじゃない。

 場所を見つけるためにある。

 安定したサブスク生活は、
 いつの間にか――
 人の適性まで、
 浮かび上がらせてしまっていた。

 この国は、
 もう戻らない。

 数字が、
 それを証明している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたが捨てた花冠と后の愛

小鳥遊 れいら
恋愛
幼き頃から皇后になるために育てられた公爵令嬢のリリィは婚約者であるレオナルド皇太子と相思相愛であった。 順調に愛を育み合った2人は結婚したが、なかなか子宝に恵まれなかった。。。 そんなある日、隣国から王女であるルチア様が側妃として嫁いでくることを相談なしに伝えられる。 リリィは強引に話をしてくるレオナルドに嫌悪感を抱くようになる。追い打ちをかけるような出来事が起き、愛ではなく未来の皇后として国を守っていくことに自分の人生をかけることをしていく。 そのためにリリィが取った行動とは何なのか。 リリィの心が離れてしまったレオナルドはどうしていくのか。 2人の未来はいかに···

婚約破棄を伝えられて居るのは帝国の皇女様ですが…国は大丈夫でしょうか【完結】

恋愛
卒業式の最中、王子が隣国皇帝陛下の娘で有る皇女に婚約破棄を突き付けると言う、前代未聞の所業が行われ阿鼻叫喚の事態に陥り、卒業式どころでは無くなる事から物語は始まる。 果たして王子の国は無事に国を維持できるのか?

私を追い出したければどうぞご自由に

睡蓮
恋愛
伯爵としての立場を有しているグルームは、自身の婚約者として同じく貴族令嬢であるメレーナの事を迎え入れた。しかし、グルームはその関係を築いていながらソフィアという女性に夢中になってしまい、メレーナに適当な理由を突き付けてその婚約を破棄してしまう。自分は貴族の中でも高い地位を持っているため、誰も自分に逆らうことはできない。これで自分の計画通りになったと言うグルームであったが、メレーナの後ろには貴族会の統括であるカサルがおり、二人は実の親子のような深い絆で結ばれているという事に気づかなかった。本気を出したカサルの前にグルームは一方的に立場を失っていくこととなり、婚約破棄を後悔した時にはすべてが手遅れなのだった…。

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...