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第29話 責任を持てなかった人は、数字に出る
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第29話 責任を持てなかった人は、数字に出る
署名制度が定着して、
王宮の報告書は、すっかり様変わりした。
量は減った。
内容は濃くなった。
言い訳は――ほぼ消えた。
「……分かりやすいね」
私は、机に並べた数枚の報告書を見比べながら呟いた。
判断が早い部局。
判断が遅い部局。
迷いが減った部局。
そして――
妙に数字が悪い部局。
「ここだな」
私は、一枚の紙を指で叩いた。
対応遅延。
判断保留。
追加確認。
全部、“署名者の名前”つき。
午前中。
宰相が、静かな顔で訪ねてきた。
「……気づきましたか」
「うん」
私は、例の報告書を差し出す。
「責任を持てなかった人が、
数字に出てる」
宰相は、重く頷いた。
「署名制度が始まる前なら、
“全体の問題”として
処理されていたでしょう」
「今は?」
「個人の判断として、
はっきり残る」
私は、少しだけ息を吐いた。
「逃げられなくなったね」
「はい」
宰相は、視線を落とす。
「そして……
本人も、それを理解しています」
午後。
問題の部局の責任者が、
私のもとを訪ねてきた。
顔色が、よくない。
「聖女殿……」
「どうしたの」
私は、淡々と促す。
「判断が、
遅すぎたようで……」
「自覚はある?」
「……あります」
彼は、かすれた声で答えた。
「なぜ遅れたと思う?」
しばらく、沈黙。
「……責任を、
取りたくなかった」
正直だ。
「前は?」
「前は、
曖昧にできた」
私は、椅子にもたれかかる。
「今は?」
「……名前が残る」
それだけで、
十分すぎる理由だ。
「で、
どうしたい?」
彼は、拳を握りしめた。
「……判断基準の再確認と、
補助体制を
整えさせてください」
「逃げない?」
「逃げません」
私は、短く頷いた。
「なら、
立て直せる」
彼は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
私は、心の中で少しだけ驚いた。
潰れなかった。
夜。
王太子ステルヴィオが、
例の場所に現れた。
「……数字、
見た」
「で?」
「はっきりしすぎて、
逆に怖い」
「でしょ」
私は、苦笑する。
「でも、
これが現実」
「父上も、
同じことを言っていた」
「何て?」
「“切る理由が、
感情じゃなくなった”と」
私は、少しだけ目を細めた。
「それは、
国にとって
いいことだよ」
「……王権が、
冷たくならないか?」
「冷たくなるのは、
人じゃなくて、
判断だよ」
私は、即答した。
「人は、
助けられる」
「判断は、
公平でいい」
王太子は、しばらく黙ってから頷いた。
「……君は、
切り捨てないな」
「切らないよ」
私は、はっきり言う。
「責任を持てなかった人は、
“向いてなかった”だけ」
「向いてる場所に、
移ればいい」
夜更け。
私は、今日の記録を閉じた。
責任を持てなかった人は、
数字に出る。
でも――
数字に出たからこそ、
立て直せる。
曖昧な時代なら、
潰されていたかもしれない。
今は違う。
「さて」
私は、小さく伸びをする。
「これで、
“制度そのものが悪い”
って言い訳も
できなくなったね」
責任は、
人を縛るためにあるんじゃない。
場所を見つけるためにある。
安定したサブスク生活は、
いつの間にか――
人の適性まで、
浮かび上がらせてしまっていた。
この国は、
もう戻らない。
数字が、
それを証明している。
署名制度が定着して、
王宮の報告書は、すっかり様変わりした。
量は減った。
内容は濃くなった。
言い訳は――ほぼ消えた。
「……分かりやすいね」
私は、机に並べた数枚の報告書を見比べながら呟いた。
判断が早い部局。
判断が遅い部局。
迷いが減った部局。
そして――
妙に数字が悪い部局。
「ここだな」
私は、一枚の紙を指で叩いた。
対応遅延。
判断保留。
追加確認。
全部、“署名者の名前”つき。
午前中。
宰相が、静かな顔で訪ねてきた。
「……気づきましたか」
「うん」
私は、例の報告書を差し出す。
「責任を持てなかった人が、
数字に出てる」
宰相は、重く頷いた。
「署名制度が始まる前なら、
“全体の問題”として
処理されていたでしょう」
「今は?」
「個人の判断として、
はっきり残る」
私は、少しだけ息を吐いた。
「逃げられなくなったね」
「はい」
宰相は、視線を落とす。
「そして……
本人も、それを理解しています」
午後。
問題の部局の責任者が、
私のもとを訪ねてきた。
顔色が、よくない。
「聖女殿……」
「どうしたの」
私は、淡々と促す。
「判断が、
遅すぎたようで……」
「自覚はある?」
「……あります」
彼は、かすれた声で答えた。
「なぜ遅れたと思う?」
しばらく、沈黙。
「……責任を、
取りたくなかった」
正直だ。
「前は?」
「前は、
曖昧にできた」
私は、椅子にもたれかかる。
「今は?」
「……名前が残る」
それだけで、
十分すぎる理由だ。
「で、
どうしたい?」
彼は、拳を握りしめた。
「……判断基準の再確認と、
補助体制を
整えさせてください」
「逃げない?」
「逃げません」
私は、短く頷いた。
「なら、
立て直せる」
彼は、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
私は、心の中で少しだけ驚いた。
潰れなかった。
夜。
王太子ステルヴィオが、
例の場所に現れた。
「……数字、
見た」
「で?」
「はっきりしすぎて、
逆に怖い」
「でしょ」
私は、苦笑する。
「でも、
これが現実」
「父上も、
同じことを言っていた」
「何て?」
「“切る理由が、
感情じゃなくなった”と」
私は、少しだけ目を細めた。
「それは、
国にとって
いいことだよ」
「……王権が、
冷たくならないか?」
「冷たくなるのは、
人じゃなくて、
判断だよ」
私は、即答した。
「人は、
助けられる」
「判断は、
公平でいい」
王太子は、しばらく黙ってから頷いた。
「……君は、
切り捨てないな」
「切らないよ」
私は、はっきり言う。
「責任を持てなかった人は、
“向いてなかった”だけ」
「向いてる場所に、
移ればいい」
夜更け。
私は、今日の記録を閉じた。
責任を持てなかった人は、
数字に出る。
でも――
数字に出たからこそ、
立て直せる。
曖昧な時代なら、
潰されていたかもしれない。
今は違う。
「さて」
私は、小さく伸びをする。
「これで、
“制度そのものが悪い”
って言い訳も
できなくなったね」
責任は、
人を縛るためにあるんじゃない。
場所を見つけるためにある。
安定したサブスク生活は、
いつの間にか――
人の適性まで、
浮かび上がらせてしまっていた。
この国は、
もう戻らない。
数字が、
それを証明している。
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